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エルナとリネア

「はあ……」


 俺がとぼとぼとした足取りでギルドに戻ってくると、そこはいつものように冒険者たちでにぎわっていた。それまでは他の冒険者を見ても何とも思わなかったが、今日ばかりは周囲の誰もがまぶしく見えてしまう。


 そんな中、ふと女性同士が言い争う声が聞こえてくる。


「ちょっと、家に帰るってどういうつもり!?」

「ごめん、実家のお母さんが病気になって看病しないといけなくて」

「ですが、私たちは今の依頼をうけている最中です。せめてそれが終わるか、代わりの方が見つかるまでは……」

「そんな、家族より仕事を大事にしろって言うの!?」


 話を聞く限り、三人は女性の冒険者パーティーのようだ。長身の剣士風の女子と、細身のシーフ風の女子が引き留める側で、魔術師風の女子が抜けようとしているようだ。


 二人は悪気なく引き留めようとしているようだが、魔術師風の彼女からしてみれば、自分の家族を軽視されたように感じてしまうのだろう、感情的になってしまっている。


 とはいえ冒険者の身として、受けている依頼を完遂出来ない、それも魔物に敗れたとかではなくパーティーから離脱者が出て失敗した、ということがあると信用が落ちるという事情は痛いほど分かる。

 そして一度信用が落ちると次からの仕事を受けることも難しくなってくる。また、パーティーが二人になってしまっては任務を続けることも難しいだろう。


 どっちの事情も分かるだけに、聞いているだけで胃が痛くなってきそうなやりとりだ。


「もういい、私は帰る!」


 が、やがてそのやりとりは魔術師が逃げ出したことで自動的に終了する。

 残された二人は顔を見合わせて溜め息をつく。


 が、俺はふと気づく。

 二人には悪いがこれはチャンスではないか。俺が回復魔法を使えないという問題は解決していないが、とりあえず依頼を達成しなければお金がもらえない。そうなれば宿代は払えないし食べ物も買えなくなってしまう。


 そして二人は何かの任務中で一人がいなくなったということは、今俺がパーティーに入れば抜けた人の分の報酬は俺ももらえるということだろう。

 依頼一回ぐらいなら俺の魔法がだめでもばれずに済むかもしれない。幸い回復魔法は、使う場面がないこともあるにはある。


 そう思った俺は意を決して声をかける。


「あの、俺は支援魔術師なんだ。もしパーティーが欠けて困っているなら、俺を入れてみないか?」

「はあ? 誰?」


 が、振り向いた女剣士の最初の反応は冷たいものだった。長い金髪にきれいな青い瞳、まるで貴族の娘のような整った顔立ちと、冒険者には不向きとすら言えそうな豊満な胸。肩や腕には上質な軽い金属の防具を着け、腰には大きな剣を差している。

 鋭い目つきにツンとした表情、いかにもプライドが高そうな見た目をしている。


 が、ここで折れてはならない。宿代と食費を稼がなくては。


「俺はアルス。人間関係のもつれでパーティーをやめたところだ。今回限りでもいいから入れてくれないか?」

「そんな、急に知らない人を入れて任務を続けろって言うの!?」

「ですが誰も入れないよりはましではないですか?」


 剣士の女子に対してシーフの子が冷静に言う。彼女は水色の短髪に緑色の瞳。そして華奢な体に身軽さを生かすために薄い衣と手甲だけを身に着けている。

 こちらは剣士とは対照的に感情があまり表情に出ないタイプのようだ。


「それはそうだけど……それに男じゃない!」

「でしたら女性の回復魔法が使える人物を探しますか? もっとも、その場合は期限までに現れるかどうかの賭けになりますが」


 おそらく先ほどの人物が帰ると言い出したときに一度は調べてちょうどいい候補者がいなかったのだろう、彼女の声は少し暗い。

 それを見て剣士の方も溜め息をついた。


「はあ、仕方ないわ。私はエルナ。見ての通り剣士よ」

「私はリネア。盗賊です」

「改めて、俺はアルス、よろしくな」

「よろしくじゃないわ! 言っておくけど私たちはそれなりにレベルが高いパーティーなの。あんたみたいな冴えない、しかも男となんてこれっきりだから!」

「あ、ああ」


 普通にあいさつしたつもりだったが怒られてしまい、きつい言葉に思わずたじろいでしまう。

 言われてみればエルナは女性なのにかなり大きめの剣を腰に提げている。これはある程度腕が立つ証だろう。

 俺は助けを求めるようにリネアの方を見たが、彼女の俺を見る目も微妙だった。


「そもそも本当に有能ならトラブルがあっても一人でパーティーを追い出されませんからね。私も別に期待はしていません。ただ背に腹は替えられないというだけです」

「そんな」


 リネアの言葉は図星だっただけに深く俺を抉る。

 こうして絶対に失敗出来ない、しかし前途多難な新パーティーでの仕事が始まったのだった。


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