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難癖

「じゃあ気を取り直して洞窟の探索をするか」


 中に入ると、煙のせいで少し息苦しかったが、トロールが集めてきたと思われる金貨や宝石などが無造作に積まれていた。


「うわあ、すごい!」


 それを見てエルナが歓声をあげる。

 トロールが強奪したせいで汚れたり傷んだりしているが、これを持って帰れば報酬の相場から不足している分を補ってあまりあるだろう。

 中には動物やゴブリンの死体が転がっているので俺たちは手早く戦利品を荷物に入れてその場を立ち去る。


 そして依頼の本命である薬草が生えているであろう山の上の方に向かう。

 すると、そこには二体目のトロールが辺りを睥睨するように歩いていた。おそらく、薬草に釣られてやってきた人間や魔物を餌食にしようとしているのだろう。


「隠れてください」


 リネアの言葉で俺たちは岩陰に隠れる。トロールは姿が大きいので基本的にこちらの方が先に気づくことが出来る。


 少しの間様子を見ていると、ゴブリンの集団が現れて薬草の方へ走っていくのが見えた。数が多いのですぐにトロールも気づく。どうするのかと思っていると、彼らはぱっと散り散りになり、四方八方から薬草畑へと走っていく。


「グオオオオオオッ」


 トロールが棍棒を振り降ろすと、たちまち一体のゴブリンがぺちゃんこになる。

 しかしゴブリンのうちの何体かは薬草畑に入ると、むしりとるようにして薬草を摘み、こちらへと引き返してくる。仲間がトロールにやられているのもお構いなしだ。


「行きましょう!」


 リネアが叫ぶ。


「分かった!」


 薬草を腕に抱えて引き返してくるゴブリンの前に大剣を構えたエルナが姿を現す。薬草奪取に成功したと思ったゴブリンたちは蒼い顔をして薬草を捨てると棍棒を構えようとする。


 が。


「遅いです!」


 ゴブリンが戦闘態勢を取る前に背後から忍び寄ったリネアが次々とゴブリンの首をかりとっていく。

 どうにか棍棒を構えるのに成功したゴブリンたちは容赦なく降り降ろされたエルナの大剣に刈り取られていく。


「やったな」


 先ほどのトロールと比べればゴブリンの群れなど大したことはない。俺が出る幕もなさそうで、瞬く間に勝負がついてしまった。

 先ほどあんなことがあったが、二人のチームワークが戻ってきたようで俺は安堵する。

 することもないので俺はゴブリンが落とした薬草を拾い集めて持ち帰った。






 こうして俺たちは依頼を果たし、さらに戦利品も持ってギルドへと戻ってくる。

 ギルドでは依頼人の少女が不安そうな表情で持っていた。手に薬草を持った俺たちを見るとぱっと笑顔を浮かべる。


「ありがとうお兄さんお姉さん!」

「待たせたな。これが依頼の薬草だ」


 そう言って俺が手に持っていた薬草を彼女に渡そうとしたときだった。


「ちょっと待ちな」


 不意に一人の冒険者が俺の前に立ちふさがる。

 彼女はそれなりの腕が立つようで、騎兵が持つような大きな槍を軽々と右手で持っており、重厚な鎧をまとっている。

 知り合いではないが、何度かこのギルドで難度の高い依頼をこなしているのを見たことがある。おそらくそこそこの実力者なのだろう。


「何だ」


 すると女は少女を睨みつけて言った。


「彼女の依頼を受けたんだって? でも困るんだよね、そういうことされると」

「は? そんなこと他人には関係ないでしょ!」


 すかさずエルナが食ってかかる。

 少女は突然の乱入者の存在に恐怖したのか、目に涙を浮かべていた。

 エルナが割り込んでも女は一歩も引かずに続ける。


「そうもいかないのよね。あんたたちが勝手に安値で依頼を受けると、冒険者はそういう安い依頼でもどうにかなるのかって思われて安い依頼が増えるのよ」

「そ、そんなの私たちが一つ依頼を受けただけで変わる訳じゃ……」

「そう、一つだけならいいかもしれない。でも一回そういうことがあると、これからは依頼者はみな泣き落としで依頼料を下げてくるかもしれないわ。しかもそれを拒否するとこっちが悪者にされる。そういうの本当に迷惑だからやめてほしいんだけど」


 そう言って彼女は俺たちをギロリと睨みつけた。



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