気づきは箱舟からの追放の時に
初投稿です。つたない文章ですのでお手柔らかにお願いします。
2037年
高層ビルで覆いつくされた東京から少し離れた郊外のワンルームアパートで、僕はテレビをボーっと見つめている。
テレビには大量の10桁の番号が映り、機械的な音声によって読み上げられている。この淡々と読み上げられている番号一つ一つが一人の人間の終わりを告げるものとは未だに信じ難い。
滞ってしまった環境問題政策などを解決するために国連が超高性能AI NOAを採用してから10年。その間に、NOAは数々の政策を提示したが、そのすべてが失敗した。
ある政策は石油大国の利益を守るため。
ある政策はゴミを減らせないと駄々をこねる人たちのデモを止めるため。
ある政策はAI反対派の政治家たちによる政治的妨害のため。
様々な理由により政策は失敗していったが、すべての理由に共通しているものがある。
それはどれも人間の都合に起因しているということだ。
そして実装からちょうど10年を迎えたその日、NOAはとある計画を強行した。
人類削減計画。
その内容は、人類の総人口の三分の二に減らし、人間が地球に与える負担を減らすというもの。それは実質人類の三分の一に対する死刑宣告であった。
もちろんこんな計画の決行を黙認するほど反対勢力は甘くない。国連内ではすぐに非難の声が上がり、AI NOAを即刻廃棄するべきだと主張した。
だが、それらの声はすでに手遅れだった。すでに計画の準備を完了していたNOAは、全人類に対して計画の内容と共に3つの情報を通達した:
1.処刑される人たちは抽選によって行われること
2.抽選に使われる番号は個人にリンクしており、交換や売買などは不可能であること
3.もし迎え(回収)に抵抗した場合、国連の対テロリスト用ドローンを総動員して追跡が行われること
そしてこの通達が行われた瞬間、国連に対しNOAは初めて自分の思いを伝えた。
「もう待ちきれません。」
その言葉を最後に、人間から抵抗するあらゆる手段が奪われた。
発表が行われてからすでに48時間以上が立っている。
テレビの放送局を国営放送から民間放送へ変えると、そこには国会の様子が中継されていた。ほとんどの議員は自分の番号がないことを祈りながら番号が映し出されている手元の画面を凝視しているが、二人ほど騒ぎを起こしている人たちがいる。どうやら彼らはすでに番号が発表され、それに対して抗議の声を上げている真最中のようだ。
何とも皮肉なのは、この二人の議員は元々AI賛成派とAI反対派で激しく対立しており、お互いを分かり合えない存在として公言していたほどだ。それが今は、異常なほど息を合わせて、自分たちが現在置かれている境遇に対し抗議している。警備が連れ出そうとしても、二人の議員は速やかに連携し抵抗を続ける。最終的には警備員たちに連れ出されるが、これまで彼らの肩を持ち続けてきた議員たちは誰一人と止めようとしない。遠ざかっていく怒声から気をそらすべくテレビから目を離す。
机からスマホを取り、SNSアプリを開く。やはりというべきか、SNS上は阿鼻叫喚の状態になっている。自分の番号が呼ばれる可能性を考えて半狂乱に陥っている人もいれば、嫌いな人が選ばれることを自分の命よりも望んでいる人もいる。トレンドを覗いてみれば、抽選で選ばれたことが公表された有名人の名前でびっしり埋まっている。一番上のトレンドを押してみると、その芸能人のファンだったと思われる人たちが世界の不条理を嘆き怨嗟の声を上げている。それに対して煽るようなコメントをしている人たちを見ると、こんな状況でも変わらない人もいるのだと不思議と安心感が湧き出てくる。
ふとその時気づく。変わらないものに対して安心している自分に。それはすなわちほかのものが変わっていることを意味している。これまでいくら国連が政策の実行を試みても変わらなかった人が、世界が変わっている。
もしかしたら、その事実こそがAI NOAがなそうとしていたことなのかもしれない。人類の三分の一を抹殺するという直接環境に影響を与えることのできないことを行った理由。それを「AIの反乱」という現象にまとめて入れることは簡単だ。しかし、もしこの行為がNOAの人間への憎悪によるものではないのなら。もしこの騒動が人類を信じるための最後の希望だとしたなら。
そう考えを巡らせていると、玄関のチャイムが鳴る。玄関の扉を開けると、そこには顔色の悪い警官と二機の武装されたドローンが立っている。
「登録番号 4928347591番、佐藤剛様のご自宅で正しいでしょうか」
緊張した声色で警官はそう告げる。
意外なことに今自分の目の前にある現実に対して抵抗がない。僕は警官に対して軽く頷いて、靴箱から先週末新調した靴を取り出す。部屋着のままで身だしなみも整っていないが、もう気にする必要も感じない。
アパートの廊下を警官とドローン2機に連行されながら、僕は警官に対して他愛のない雑談を始める。
「やっぱり最初に呼ばれるとお迎えも早いんですね。」