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目覚めし力

 仲間たちを街まで送ったヒイロは、全力でヴァンジャンスの元に走っていた。だが、走りながらもあのガルムに勝てるイメージが、どうしても湧かない。それでもヴァンジャンスを見捨てることはできないかった。ヒイロもまた、自分の命よりもヴァンジャンスの命だけを考えていた。


 ヒイロ達が逃げてから30分が経っただろうか、ヴァンジャンスはガルムの猛攻になんとか一命は取り留めていたものの、身体中が傷だらけで満身創痍だった。そしてヴァンジャンス自身もこれだけの時間を稼ぐことに成功したため、ヒイロ達は助かっただろうと安心し、自身の命を諦めかけていた。


(あとは自分さえ逃げられれば……ふっ、まぁいいヒイロさえ無事で生きてくれれば……)


 すでに限界を超えていたヴァンジャンスは半ば諦めたように笑みを浮かべ、動きを止めた。ガルムは、動きが止めたヴァンジャンスを警戒しながらも、後ろから回り込み襲いかかった。


 後ろに回り込まれたことを悟りながら、もう身体を動かす方が出来ないヴァンジャンスは、目を閉じ、覚悟を決める。



……その瞬間、頭の中に直接、聞いたことがないはずだが、どこか懐かしい声が響く。


(……またすぐにそうやって……何故あなたは、すぐに生きることを諦めるのです!何のために私達と何十年も腕を磨いたのですか?ほら、私と一緒に唱えてください。あなたの真の力……《デウス・エクス・マキナ》を!)


「《デウス・エクス・マキナ》……。」


 気がつくと、ヴァンジャンスはそう口ずさんでいた。次の瞬間、ヴァンの周りに魔力によるバリアらしきものが展開され、牙を剥き出しにして後ろから襲いかかってきていたガルムを弾き飛ばす。そして、そのバリア空間の中にいくつもの鎧らしき黒いパーツが現れ、ヴァンの全身を覆うようにして装着される。


(ほら、それがあなたの力。デウス・エクス・マキナ……機械仕掛けの神。全ての事柄を覆す、あなただけの力よ)


(機械仕掛けの神……デウス・エクス・マキナ)


 いつのまにかヒイロが戻ってきていた。


「ヴァン!!大丈夫だったか!?ん?おーい、どこだー?って、えっーと、ヴァン……です……だよね……?」


「なっ、ヒイロ!?なぜ、戻ってきた!?」


 ヴァンジャンスは戻って来たヒイロに怒りを見せるも、何故か心の中で安心する。


「……ったく、俺が守るからヒイロは早く逃げろよ!」


「やだね!2人でアイツを倒そう!!」


「バカか!Dランク相当だぞ!子ども2人でどうにかできるような魔獣じゃない!!」


「やってみなきゃわかんないだろ!俺が攻撃するからヴァンがそのカッコいい鎧で守ってくれよな!!行くぞー!氷魔法 《アイシクルバレット》!!」


 アイシクルバレット……氷属性初級魔法にあたる氷の弾丸魔法。ある程度の魔力量にもよるが、ヒイロのその威力はFランク冒険者に匹敵する。だがヴァンジャンスのバリアに弾き飛ばされ、警戒心を強めていたガルムは簡単にヒイロの魔法を避ける。魔狼ガルムの厄介な所は集団での連携した戦闘も行える、その知能の高さでもある。


「ヒイロ、俺の後ろに下がってろ。このアーマーならアイツの爪や牙には耐えられそうだ」


「わかった!俺は隙を見て攻撃する」


 警戒しながら距離を保っていたガルムは一旦動きを止める。そのままガルムが顔を下に向けた次の瞬間、ガルムの周囲に風が纏い始める。魔狼ガルムの固有、中級風魔法 《エアリアルドライブ》。風を纏うことで威力と突進力、そして攻撃範囲が大幅に上がる。


 ヴァンジャンスはその様子を見て、腕をクロスさせ、防御体制を取る。すると、そのヴァンの意思に反応してか、左腕から身体全体を隠せるほどの大きな盾 《シールド》が出現する。ヴァンはそのことに驚きながらも確信する。


(なるほど俺の意思に応じて変化するのか……なら、武器や何かしらの攻撃手段もあるはず!)


「うぉー、すげーヴァン!!いいなぁー!かっこいいなぁ!オレも欲しいなぁ!!」


 ヒイロはこの状況にも関わらず、ヴァンジャンスの能力ひ目を光らせ、素直に感動している。


 すると、ヒイロの頭にも懐かしさを感じる声が直接響いてくる。


(やはりお主は頭がいいのか、バカなのかわからん奴じゃのう。そろそろ主役の出番じゃろうと思うて、我がこうやって出てきたのに……格好がつかんのう)


「ん?なぁヴァン、なんか誰か近くで話しかけてきた?」


「おい、意味のわからんないこと言ってないで集中しろよ!俺ら以外にこんな所に人なんかいるわけないだろ!」


「だよなぁ……」


(コラ!ヒイロ!!このスーパープリチーシヴァ様の声を忘れてるのか!?いくら生まれ変わったとて、お主の魂の師匠なのだぞ!!)


「なんかうるさいなぁ……シヴァ様って誰だよぉ」


「ヒイロ、ガルムが来る!俺から離れるなよ!!」


 ヴァンが言葉を発した瞬間、風を纏ったガルムが正面からヴァンに突進してきた。ヴァンは全力でガルムの突進を受け止めよう力を入れた瞬間、全身の覆うアーマーに紫の魔力が流れ、出力が格段にあがる。そして、ガルムの突進を弾き返すように受け止める。


 魔獣ガルムは自身の最高の攻撃にもかかわらず、簡単に跳ね返されたことに、戸惑いながらもさらに距離を取り、改めて突進の体制を取る。ヴァンジャンスもまた、それを見てさらに片足を後ろに下げ、重心を低くし、防御体制を整える。


(ほらほら、そろそろ我らの出番じゃ!!《神獣合体、いでよ神獣シヴァ様》と言うてみよ!!)


「うん?神獣合体……いでよ?神獣シヴァ……さま??」


 次の瞬間、辺り一体が寒くなり、2人の目の前に白銀の狼の尻尾と耳のついた薄い青色の着物を着た女の子が現れる。そして、その女の子が2人に笑顔を見せると光になり、ヒイロと重なる。その瞬間ヒイロは真っ白なローブの魔法使いのような姿になった。


(思い出したか?これが我らの魂の絆、神獣合体じゃ!)


「神獣合体……」


(そうじゃ、そしてその 《ケリュケイオンの杖》でさっきと同じ氷魔法を唱えてみよ!)


 目の前に氷で出来た杖が現れ、ヒイロは言われるがままその杖を手に取り、氷魔法を唱える。


「氷魔法 《アイシクルバレット》」


 すると先程は、握り拳ほどの氷の弾丸が数発だったのに対して、倍以上の大きさの弾丸が何十発と増えている。その異常な魔力に驚きながらもヒイロはガルムに向かって魔法を放つ。さすがの魔狼ガルムも何十発の氷の弾丸を避けられるわけもなく、その威力に吹き飛ばされ、絶命はしなかったものの瀕死のダメージを負い、その場から逃げさっていった。

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