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イアールンヴィズの森

 かつて全盛を誇った知識人族は、神の裁きを受け、他種族の反撃に合い、今では文明を失った知識人族は非力で能力が低い劣等種として蔑ませれてるようになり、さらに言えば、その知識人族の中でも、双子は畏怖の象徴とされ、同じ知識人族からでも、疫病神として嫌悪と恐怖の対象だった。


 ただヒイロとヴァンジャンスの2人は、本当の双子ではあるが、見た目が全く違っていたため、双子と言うことを隠せば、2人を知らない知識人族のスラムの外に出れば、何不自由なく散歩もできた。特に知識人族のスラム街のすぐ隣にあって、知識人族が全く行こうとしない、宿場街アインの中心地であり、一番大きなギルド通りにはノミルの影響もあり、2人はよく行っていた。


 そのためいつしか、ギルド通りにいる双子と同じぐらいの年齢の孤児の仲間達が出来ていた。何故そこに孤児がいるかと言うと理由は簡単だった。そのギルド通りが栄えていること事で、道具屋や宿屋以外にも飯屋もあり、そこの残飯を漁ったり、人の良い冒険者に恵んでもらったり、物持ちの手伝いをして小遣いをもらったり出来たからだ。そして、何より実力主義の冒険者のほとんどは差別をしないからだ。


 他の街に比べて生きやすい環境ではあるものの、孤児の暮らしは底辺そのもの。ヒイロとヴァンジャンスも決して贅沢な暮らしではなかったものの、ノミルとミコルのおかげで孤児に比べて不自由なく生活できていた。


 人の良いヒイロはそんな孤児達をどうにかしようと、定期的に孤児達を連れてアインの街を出てはある所に行っていた。


 それは東にある深い森……何故、首都から離れた小さな街アインが賑やかなほどに栄えているか、理由はその深い森にある。


 その森の名前は《イアールンヴィズ》。意思疎通の出来る知能を持った種族が住んでいなく、また強力な魔獣が数多く生息する場所、《ダンジョン》と言われる場所の中でも最大級の広さを誇る場所の一つである。東に広がる大きな森全体が魔物の巣窟になっており最奥地には、伝説の幻獣 神狼フェンリルが住むと言われていた。他にも珍しい鉱石や薬草、資源など世界各地から、一攫千金を狙った数多の種族の冒険者が集まり、盛んに挑戦しているのだ。


 その結果、そのイアールンヴィズの森に一番近い街アインが宿街として、宿屋をはじめ武器屋、道具屋等が自然に増え、賑わっていたのである。


 ヒイロとヴァンジャンスは、そんな冒険者が集まるイアールンヴィズの森の入り口付近から少し離れた冒険者達の討伐対象にならない獣類の狩りをしていた。狩りの仕方としては、孤児達が集団で周りから獣を追い詰め、ヒイロは魔法、ヴァンはその身体能力で獣、兎や鳥、猪などにトドメを刺して狩りを行なっていた。


 ヒイロは、初級魔法が使えた。それもかなり威力があり、氷、炎、雷の3属性の魔法が使えた。知識人族は、基本生まれ持った素質なのか、1属性しか扱えないはずだったが、何故かヒイロは、はじめから3属性を使えていた。またヴァンジャンスもその身体能力はまだ未完成の10歳にも関わらず、冒険者ランクのGランク 《ウッドランク》を軽く超えてるため、2人とも10歳にして、15歳以上からしかなれない冒険者レベルに到達していたのだ。


 そうして双子を含む十数人の子ども達は、時々森の入り口付近に入っては、狩りを行っていた。特に最近では半分ずつに分かれて、ポイント制(1ポイント=一人分の食料)のチーム戦で競うようになり、ヒイロチームとヴァンジャンスチームで狩り対決をしていたのだ。リーダーの2人は賢さや判断力もあったため、無理をせず双子ならではの暗黙のルールを作り、出来るだけ、危険がないように争っていた。


 その日も2チームに分かれて森の入り口付近で、狩り対決を行っていた。先に合計10ポイントになった方が勝利で、猪や鹿なら5ポイント、兎なら3、鳥なら大きさにより1~3だった。お互いに今のところポイントは7ポイント。後、兎か大きめな鳥を1匹捕まえれば、勝負がつく頃だった。


 たまたま同じ獲物を追いかけ、2チームが一ヶ所に集まった時、大きな雄叫びとともにそれは突然現れた。その大きな身体はゆうに3メートルを超える討伐推奨冒険者ランクD、カッパー級の魔獣 《ガルム》だった。このイアールンヴィズの森を代表する狼の魔獣で、神狼フェンリルの眷族と言われ、集団になると統率する個体が現れ、集団でのランクはBのゴールド級にまであがる。


 冒険者に追われ、はぐれたのか傷を負い、1匹しかいなかったものの、子ども達にとってそれは死を意味していた。さすがのヒイロとヴァンジャンスも一瞬、絶望したが、すぐに気持ちを切り替え、仲間たちを逃がす。


いつのまにかヴァンジャンスが前に出てオトリになる。


「ヒイロ、ここはとりあえず俺が引き受ける。その間にみんなを逃がせ!」


「わかった。ヴァンも無理するなよ。皆を逃したらすぐ戻るから2人でどうにかしよう!」


「わかってる!」


 ヒイロの指示で子どもたちは夢中で逃げ出す。ガルムが逃げ出す子どもたちを見つけ、襲いかかろうとする。その瞬間、ヴァンジャンスは子どもたちとガルムの間に立ち塞がろうと、横から思い切りガルムの腹部に飛び蹴りをする。ガルムは不意打ちをくらい、自身に少なからずダメージを与えたヴァンジャンスに標的を移す。ヴァンジャンスは横目でそのまま逃げるヒイロ達を見送りながら、正面のガルムに集中する。


(ヒイロ……無事に逃げろよ……)


 ヴァンジャンスはこの状況では、自分の命がここで終わることを覚悟していた。そしてガルムはヴァンジャンスに襲いかかる。いくら身体能力が高いと言っても、限界を超えて本気で避けてもその動きはせいぜい、Eランクのブロンズ級程度。Dランク相当のガルムの牙や爪に、切り裂かれるのも時間の問題だった。

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