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運命の双子

 神の代行者、天使族による《神罰 カタストロフィー》が、起きてから数十後、エルドラードの世界は、急激に大きく様変わりをしていた。人口減少のほとんどが、知識人族であり、逆にその他の亜人種は少しずつ数を増やし、その代表格が種族の中でも多くの派生種が存在する獣人族だった。


 ほとんどの文明とともに滅び、数が激減した知識人族は人口で言えばまだ世界で一番多かったものの、文明を失った元世界の支配者は、劣等種と呼ばれるようになり、そのほとんどが奴隷や貧民となり、生活水準は大幅に落ちていったーー




 ーーそして、この世界での物語はそのどん底まで落ちた知識人族から始まる。


 このエル・ドラードという世界には大小様々な国が存在する。ほとんどが種族ごとに作られており、それぞれの種族が代表する国となっている。そしてその中でも、最も繁栄している種族及び国があり、5大国と言われていた。それは、


エルフ族の国…アルフヘイム。

鬼人オーガ族の国…ウートガルズ。

魔人族の国…ナーストレンド。

獣人族の国…エリュシオン。


 そして知識人族が作った、かつて世界最高の繁栄と文明を誇った超大国…イアールンガルズ。かつて世界で一番文明が進み、もっとも繁栄した国、そして同時に《神罰 カタストロフィー》の中心地であり、その世界最高の文明と多くの知識人族が滅びた国。土地のほとんどは海の中に沈んでしまい、その広さも今では半分にも満たなくなっていた。


 また、かつての支配者だった知識人族も中心地から追い出され、獣人族や他種族の奴隷になったり、そうでない者も、地方の田舎の方にひっそりと暮らしていた。その田舎の一つ、現在のイアールンガルズの首都、《ガルズ》から東に遠く離れたところに、小さいが賑わっている 《アイン》と言う宿場街があった。そこには、イアールンガルズの中心地から逃げてきて、すでに力はないものの、知識人族の中では、まだ良い方の暮らしをしている形だけの貴族が未だにいくつか存在していた。


 その田舎の宿場街アインから少し離れた土地で、ある双子の男の子が生まれた。一人は輝くような金髪に海のような綺麗な碧眼、そして何より女の子に見間違えてしまいそうな綺麗な色白の顔をした男の子。そしてもう一人は漆黒の黒髪に漆黒の鋭い目、そして全体的に浅黒い肌をした端正な顔の男の子。


 この物語の主人公達であるヒイロとヴァンジャンスだ。


 その双子は、とある知識人族の貴族に生まれた。その貴族の当主たる双子の父親は、後継の子どもを待ち望んでいたにも関わらず、生まれた赤子が双子と知った瞬間、絶望した。


 何故なら知識人族の双子は、今の世界では、神罰の降った原因でもあり、世界を支配した張本人とされる知識人族の双子の王子と同じ。その存在自体が呪いとし、忌子と称され、他種族からは厄災の象徴とされ、生きているだけで罪、そしてその双子を産んだ家族もまた同罪とされていたからだ。


 さらにこの貴族は他種族の恩恵により、貴族として成り立っていた。当主の父親が絶望の次に考えたことは、双子を産まれたことが世間の知れ渡ることだった。それだけは阻止しなければならない。悩んだ末、産まれたばかりの双子を存在自体を無かったことのように抹殺しようとしたのだ。


 その家長の決定に、その貴族の元にいる全ての知識人が理解した。そうでなければ、この貴族家自体が消されてしまうからだ。


 だが……双子の母親、アリアだけは唯一反対した。


 男尊女卑で成り立っている知識人族にとって、夫婦であっても、当主の夫に逆らうことは絶対に許されない。実際、アリアがこの貴族に嫁いでから、ただの一度も夫に逆らわなかったが、この時だけは泣いて当主たる夫に懇願した。


 それでも周りの他種族を恐れた父親は、それを認められず、処分を決定した。そうでなければ、最愛の妻でさえも迫害の対象となってしまう。たしかにアリアは元から体が弱く、出産が出来るチャンスは一度しかないだろうと言われていた。妻として迎える際も、跡継ぎの関係上、少なからず反対もあった。それでも妻アリアの美しさと儚さ、そして真の強さに惚れて、自分から望んで嫁に来てもらった妻だった。


 産んだ子どもが憎いわけではない。双子でなかったら、今頃パーティを開き、夜通し祝っていただろう。それでも、数世代も続き、今の世界では肩書きだけになってしまった貴族だとしても、この家族や使用人達を守るためにも、貴族として双子を認めるわけにはいかなかった。


 双子の父親たる夫は、出産を終えたばかりで衰弱しながらも、初めて自分に必死に反対する、愛する妻のことを思い、一晩だけは双子と一緒にいることを許し、双子の処分を次の日とした。


 そしてその夜、妻の願いを聞き、自分や執事、メイド達使用人を妻や双子から離し、双子と妻の3人だけになれるよう離れの小屋で一晩ゆっくり過ごせるようにさせた。不安や嫌な予感もあったが、妻の必死の願いをただ聞き入れるしかなかった。


 誰もが寝静まった深夜、アリアは双子を両手に抱いて、家を出た。出産直後の疲弊した身体に鞭を打ち、産後の身体に直接効くわけでもない、回復薬を飲みながら出来るだけ遠くに進んだ。全ては我が子達のためである。


 アリアは美しかったが生まれつき病弱であり、お産自体も命がけだった。きっとこのまま産後の身で動き続けたら命も危ないだろうと、自身も理解していた。それでも命の炎を燃やしながら、双子を抱き、歩き続けた。


 そして、アインの街から離れた場所にあった貴族の家から、ようやくアインの街中にたどり着く。そして他種族に見つからないように、何とか知識人族が住む区域まで来たところで、アリアは命を燃やし尽くしたかのように力尽きて倒れてしまった。


 少しして気がつくと、すぐさま双子を見た……が、その瞬間、絶望した。必死で逃げてきたため、途中で泣かなくなっていたことには眠っていると思い気付かなかった。


 まだ目を開けることすら出来ない生後間もない双子はすでに呼吸をしていなかったのだ。今にも崩れ落ちそうな子ども達を優しくゆすり、目が覚めること願ったアリアだったが、動くことはなく……悲しみ中、再び気を失ってしまった。

 

 ……本来なら、双子もそこで母親のアリアと共に死んでしまう運命だったのだが、神アケディアスがある神からもらったプレゼント。そのプレゼントをもらったまま無作為にこの世界に放り投げたものが、今まさに、本来の死ぬはずだった双子の身体に入り、それぞれ新しい魂が宿ったのだ。そのため双子は息を吹き返し、奇跡的に助かった。そして、誰かを呼ぶように双子は大きな産声をあげる。


 運命的な出逢いが続いた。これは神の働きではなく、きっとその2つの特別な魂が呼び込んだ奇跡なのだろう。その泣き声に気付き、倒れた親子を最初に見つけたのが、教会の神父になったばかりの元冒険者の男だった。

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