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最終試験・魔獣討伐戦5

「よっしゃ……倒したぜ、ライバ……るよ……」


 そう言いながらスキルを解いたティラノスは、前のめりに倒れ気を失う。そしてヴァスィリサもまた意識はあるものの、元の姿に戻りながらそのままぺたんと座り込み、気を失う。


「私も限界……」


 無事にそれぞれガルムを倒した2人を見て、ヒイロもようやく、目の前のギンガルムとガルム2匹に集中する。ギンガルム達もヒイロがこちらに集中していないと気付いていたが、ヒイロが放つ神獣の気配に、自分達の原種である《幻獣・フェンリル》を重ねてしまい、どうにも踏み込めることが出来なかったのだ。


「さてと……ヴァンには悪いけど、アイツらの傷のためにも、さっさと倒したほうが良いよな。ヴァーン、悪いけど、後よろしくな~」


 その声に気付いたヴァンジャンスは力を使いきり、ソフォス同様に倒れたティラノスとヴァスィリサを、自分の近くに運び入れ、後ろ向きで手を挙げ、ヒイロに了解の合図を出す。


「よし!準備も整ったし、オッケーももらった!覚悟はいいかい、オオカミさん達?」


 ギンガルム達はヒイロの魔力に恐れながらも襲いかかろうとしていたが、ヴァンジャンスの装甲板にことごとく弾かれていた。そして自身の魔力を限界まで練り上げることができたヒイロは、一気にその魔力を解放する。そのプレッシャーに危機感がさらに増したギンガルムは怖気付きながらも、恐怖をかき消すかのように大きな遠吠えをあげる。そして、その遠吠えに反応したガルム達もまた、遠吠えをあげて固有風魔法 《エアリアルドライブ》を展開させ、突進する。


(ラムウじぃ……力を借りるよ!)


(……久しぶりじゃなヒイロよ……我の奥義を覚えておるか?確か……)


(わかってる!《雷神の鉄槌》でしょ!)


(……そうじゃったっけ?まぁ良い!所詮、名前じゃ!適当に大声で叫べ!)


(……「変わらないなラムウさん」……?)

「って、あれ?俺いま……まぁいいか!それじゃあラムウじぃ、行くよ!奥義 《雷神の鉄槌》!!」


 ヒイロは持っていた雷神ラムウの神具 《ミョルミル》を天高く突き上げる。するとヒイロの周りにいくつもの稲妻が地面から空に上がるように昇り、突進してきたガルム達を弾き飛ばす。そして、その様子を見ていたヴァンジャンスもヒイロから少し距離を取ったところで、前方に全ての装甲板を集め、守りを強化する。


 ヴァンジャンスを確認したヒイロが《ミョルミル》をギンガルムの方に向けると、周りをほとばしる稲妻がさらに強く太くなり、空に届くかのような柱になっていく。そして晴れていた空が急に黒い雷雲に包まれたかと思うと、ヒイロの周りからギンガルム達に向かって次々と豪雷が落ち始め、眩しい閃光と共に、巨大な豪雷が視界を覆うように前方にいるギンガルム達に降りかかる。


 ギンガルム達は、その激しい豪雷に囲まれ、逃げることも出来ず、凄まじい轟音と共に巨大な雷の柱に飲み込まれていく。そして、その後雷雲が消えたかと思うと、丸焦げになったギンガルムと跡形もなく灰になったガルムの残骸が残されていた。


「あ……やばい、やっぱりもたなかった……じゃぁヴァン……後よろしく……」


 ヒイロもまた、奥義により魔力を使い果たし、その場で倒れ込み気を失ってしまった。その様子を見ながら、やれやれと首を振りながら、ヒイロを抱き抱え、ティラノス達3人が横になっている場所へと集める。そして少し離れた休める場所にまで、両腕にソフォスとヴァスィリサ、装甲板を担架のようにして、ヒイロとティラノスを運ぶ。そしてようやく休める場所を見つけ、それぞれを寝かせる。


(……悪い、マリアモンテ。俺も少し疲れた……代わりに少しコイツらを守っててくれるか?)


(はいはい、良いですよ。あなたも少しお休みなさい)


(……すまん……)


(すまん……なんて、もう一人の貴方からは聞いたことのない言葉ですね)


 ヴァンジャンスは、《デウス・エクス・マキナ》の黒いアーマーをパージした状態にし、近くの木に寄りかかりながら座り、そのまま目をつむる。だが、眠りに入るヴァンジャンスの意識とは別に、パージしたアーマーが、中身がないまま人型の形に戻り、5人の真ん中に立ち、装甲板はそのまま空中を漂いながら、5人全員を守るように浮いているのだった。


 それから数時間、5人の中で最初に目が覚めたのはソフォスだった。ソフォスは、目が覚めると寝ぼけながら目を擦る。何故かヴァスィリサの腕に抱かれていたが、ヴァスィリサ自身も寝ており、どうにか腕の中から起き出すと、その後ろで寝ている4人を見て大きなため息を吐く。


「……たくっ、危険な魔獣が蔓延るこの森で全員一緒に寝るなんて……やっぱり僕がしっかりとリーダーシップを取らなきゃダメだな!」


 そう言うとソフォスは、索敵魔法をかけ、周囲の安全を確認する。何時間寝たかは分からないが、不思議なことに近くには全く魔獣の反応はなかった。


「おかしいな……。ここには魔獣にとって格好の獲物が無防備に寝ているはずなのに……そこまで時間は経ってない?」


 ソフォスは空の明るさを見て、時間の経過を確認する。時の目印になる星を見て最初のガルムを倒してから4、5時間は経過しているはずだった。


「……やはりおかしいな……結界のような魔法の痕跡もない……ん?なんだこれ……?」


 ソフォスは、ごく自然に自分達の周りをゆっくりと回っているヴァンジャンスの装甲板と、アーマーを見つける。相当な魔力は感じるものの、敵意がなく、むしろ守られてるような安心感を感じる。ソフォスは、見たことの無い物質に寝ている4人のことをすっかりと忘れて夢中になって観察する。


 すると次に起きたのがヴァンジャンスだった。ヴァンジャンスは、自分の肩に寄り添って寝ていたヒイロを反対側へ推し、周囲を確認しながら《デウス・エクス・マキナ》を解除し、たったまま目を瞑る。


(……助かった。大丈夫だったか?)


(えぇ、多少は来ましたが、全て追い払いました)


(……ありがとう)


(いいんですよ……でも、他の皆さんと違って、貴方だけは疲労や体力は戻っても魔力は底をついていますので、気をつけて下さいね。)


(あぁ)


 再び目を開けると、目の前でキョロキョロしているソフォスを見つける。


「ソフォス……目覚めたのか?」


「あ、あれ?不思議金属は!?……て、ヴァンジャンスとか、言ったな!お前達、いくらこの僕がいるからと言って、油断しすぎだぞー!!無防備なお前達をこの僕が、守っててやったんだからな!」


 ヴァンジャンスは、無言のままソフォスに近づき、拳骨をお見舞いする。


「……イッタぁぁ~、何をするんだっ!オマエ!?」


 ソフォスは拳骨された頭を両手で押さえながら、涙目で騒ぐ。そして、その悲鳴が目覚ましとなって他の3人も次々に起きる。ティラノスが目の前の状況を見て、咄嗟に身構える。


「どうした!?魔獣か!?ガルムか!?」


 その次に起きたヒイロが5人の無事を見て、ヴァンジャンスに声をかける。


「……ふわぁ、よく寝た。ありがとなぁヴァン」


「俺も精神疲労が溜まったからな。マリアモンテに頼んだ」


「あ、なるほど!お前のその力、便利だよなぁ」


「……お前ほどじゃない」


 最後に起きたのはヴァスィリサだったが、状況が理解しないにも関わらず、騒いでいるソフォスを捕まえて無理矢理口を塞ぐ。


「……ソフォス……黙る」


「は、はい……」


 ヴァスィリサの力に勝てるはずもなく、ソフォスはヴァスィリサに抱き抱えられながら、力なく黙ってうなだれる。ヒイロは、その様子を苦笑いで見ながら、自身の左腕に付いているポイントカウンターを確認しながら、頷く。


「よし……さてと、合格ポイントも貯まったし、帰りますか?」


「……あぁ」


 当然のように森の入り口の方へ歩き出すヒイロとヴァンジャンスに、ティラノスとヴァスィリサが驚きながら2人に詰め寄る。そしてヒイロの腕を鷲掴みにしながらポイントカウンターを確認する。


「……ん、な、なにー!?ってことは、お前達、残りのギンガルム達を倒したのか!?」


「!?、追い返したり、逃げたのでは!?」


 放り出されたソフォスは、一人なんのことかさっぱり分からず4人を交互に見ながら首を傾げていた。


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