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最終試験・魔獣討伐戦4

 一度戦闘を経験し、無事に終わらせることができたため気が緩み、警戒心まで緩めてしまっていたヒイロ達。特にヒイロとティラノスは気が合うのか、この強力な魔獣が多く住むイアールンヴィズの森の中で、ありえないほどの大きな笑い声を響かせながら進んでいた。


 ヴァスィリサとヴァンジャンスも話しはしないものの、どこか油断していたのだろう、普段なら緊張感のない2人を怒るか殴るかしているところだが、そうもしないまま進んでいた。


 突然、ガルムの遠吠えが驚くほどの近い範囲で聞こえる。瞬間的に4人は背中を合わせ、周囲を見渡し、警戒心を最大

まで引き上げる。


 そして周りを警戒しながら、少しずつお互いの間隔を四方に広げ、臨戦態勢をとる4人。ある程度、お互いの間隔が開いた時、ソフォスをのぞいた4人がほぼ同時にガルムを感知する。


「しまった!貴方達が馬鹿みたいに騒いだせいで、すでに囲まれてる。たぶん1、2、3、4匹は……いる」


 そうヴァスィリサが言った時には、すでにヒイロ達の視界に入る。そして5人を包囲するかのように、前後に2匹ずつ合計4匹のガルムが姿を表していた。ヴァンジャンスがため息を吐きながら、ティラノスからソフォスを受け取る。


「すまん。バカなコイツのせいで、いつもこんな風にピンチを招く。こう囲まれては、4人でソフォスを守りながら戦うのは少々難しい……俺が一人で守り切るから、お前達は攻撃にだけ専念しろ。」


 ヴァンジャンスの言葉にヒイロが頬を膨らませながら、言葉を続ける。


「バカは余計だバカ!!了解、そんじゃ守りよろしく!!でもって、2人とも準備はいいかな?俺が前の2匹を受け持つから、残りの1匹ずつをよろしく!」


「バカはこっちにもいるから気にしない。……わかった、どうにか1匹は倒してみせる」


「うっ……すまん。あぁわかった、俺も攻撃に専念出来るなら1匹は倒してみせる」


 ヒイロは、覚悟を決めた2人を見て笑顔を見せる。


「よっしゃ!行きますか!獣系には……《神獣合体》雷神ラムウ」


 神獣シヴァ同様、ヴァンジャンスとヒイロにしか見えない神獣の姿となった全身透き通る程の金色の毛並みをした老猿となった、雷神ラムウが現れ、ヒイロと重なる。そして一瞬の閃光と共に、黒い雷雲と黒い稲妻の模様が施されている黄色いローブを着て、細長い古木で出来たハンマーを持ったヒイロが現れる。


「私も……本気で行く《半龍変化》」


 ヴァスィリサも奥の手である龍人族のオリジナルスキルを使用する。ヴァスィリサの身体が一回り大きくなったかと思うと、顔以外の首元までの全身に赤い龍鱗が現れ、爪も鋭く長くなり、全身が燃えさかるような赤い姿へと変わる。


「ヴァスィリサのその姿、久しぶりに見たな。なら俺も負けてられないに《剛鬼変化》」


 ティラノスもまた奥の手である鬼人族のオリジナルスキルを使用し、薄い緑色をしていた身体が濃い緑色に変わると同時に、元々の筋肉質の身体が二回りも筋肉が膨れ上がる。そして鬼人族の2本角がさらに大きく、額にももう一つ角が生えた姿へと変わる。


「……2人も大丈夫そうだな……《デウス・エクス・マキナ》《モード・ガーディアン》」


 最後にヴァンジャンスもソフォスを抱き抱えながらスキルを発動させる。バリアと共に黒いパーツが出現し、全てのパーツがヴァンジャンスに装着されると、金色の2本角が目立つ漆黒のフルマスクと、全身に紫の魔力線が流れる漆黒のアーマー姿となる。そして、さらにヴァンジャンスの背丈ぐらいの長さがある六角形の装甲板が、いくつもヴァンジャンスの周囲に展開され、衛星のように宙に浮いて円をかきながら浮遊している。


「その装甲板が、お前達をガルムの攻撃から自動で守ってくれる。だからお前達は、攻撃のみに集中すればいい。ただ俺もソフォスを抱いたままここを動かなくなるから、お前達だけで殲滅してくれ」


 ヴァンジャンスの言葉にヒイロは、いつものように軽く返事を返す。


「おっしゃ!まかせとけーい!!いくよ、ティラノス、ヴァスィリサ!」


「お、おぉ!」

「わかった」

 

 ティラノスとヴァスィリサは、ヴァンジャンスの装甲板がどれほど自分を守ってくれるか、少し心配でもあったが、ヒイロの様子を見て、信じる事にした。


 ソフォスを除く、全員が戦闘態勢に入った瞬間、前方のガルムの後ろから更なる雄叫びが聞こえる。その声は、まさしく昨日、ヒイロとヴァンジャンスが聞いたばかりの雄叫びだった。そして悠然とその姿を表したその魔獣に、ティラノスとヴァスィリサは絶望する。


 2人にとっては悪夢とも思える、そのCランクの銀魔狼ギンガルムの姿に、半ば放心状態になってしまう。そして、その瞬間を狙ったかのように、それぞれ2人と向き合っていたガルム達が襲いかかる。


「……おい!」


 ヒイロが咄嗟に叫ぶ。その声に気付き、ヴァスィリサとティラノスが瞬間的に反応した時には、すでにかわすことと出来ない距離にまでガルムの爪と牙が迫ってきていた。


 2人は咄嗟にガードをし、かなりのダメージを覚悟した次の瞬間、2人の眼前にヴァンジャンスの装甲板が突如現れ、襲ってきたガルム達を弾き返す。


「た、助かった……サンキュー……ライバルよ」


 ティラノスが冷や汗をかきながらヴァンジャンスにお礼をいう。そしてヴァスィリサも同様に頷く。ヴァンジャンスは、やれやれと言わんばかりに首を振る。


「お前達……守ってやると言ったが、流石に油断しすぎだ。……心配するな、ギンガルムもヒイロに任せておけばいい」


「……すまん……悔しいがそれは任せる。さすがにもう油断はしない……行くぞヴァスィリサ!!」


「わかってる!もうあなた達の足は引っ張らない!」


 ヴァンジャンスの装甲板に弾き返され、崩れた態勢を立て直そうとしていたガルムに、ティラノスとヴァスィリサが全力で追い討ちをかける。


「唸れ、鬼神棒!!」


 ティラノスが鬼神棒を思い切りガルムに向かってぶん投げる。


「これはお返し!!」


 半龍の姿になっているヴァスィリサも口から炎の灼熱のブレスを吐く。


 それぞれ2匹のガルムは、2人の攻撃に直撃を受け、かなりのダメージを受ける。それからはティラノスとヴァスィリサは、一方的に優勢な戦いを展開していくことが出来た。だが、2匹のガルムも起死回生の反撃を試みる。魔狼ガルムの固有中級風魔法 《エアリアルドライブ》を展開させたのだ。


 2匹同時に固有魔法を展開したガルムは、一度ティラノスとヴァスィリサから距離を取り、並び立つ。


「なんだ?何をする気だ?」


 その動きにティラノスもヴァスィリサも警戒し、距離を取る。さっきまでそれぞれ1対1で向き合っていたのが今の場所では、2人からの挟み撃ちに受ける場所になっている。


「わからんが、チャンスだヴァスィリサ!一気にトドメをさそう!」


「わかってる!」


 ヴァスィリサが灼熱のブレスを放ち、ティラノスは、ヴァンジャンスとの戦闘で見せた鬼神棒を地面に叩きつけての強烈な石礫を放つ。そのまま避けようとしないガルム達を見て、2人が勝ったと思った瞬間、ガルムは2匹同時に1列になり、ヴァスィリサの突進していった。


 もちろん2匹ともヴァスィリサの炎のブレスに直撃する形となったのが、1列になった事で、先頭のガルムが盾となって《エアリアルドライブ》とブレスが相殺される形で弾かれたが、後ろに並んでいた2匹目のガルムの《エアリアルドライブ》は、無傷のまま、ヴァスィリサに突進してきた。


「ヴァスィリサ!!」


 ティラノスが気付いた時にはすでに手遅れであり、ヴァスィリサもまた、《エアリアルドライブ》の暴風域により、逃げることが出来なくなり、今度こそ死を覚悟した。だが、そのガルムの捨身のとっておきですらも、ヴァンジャンスの装甲板が再び防ぐ。今度は1枚ではなく3枚の装甲板がガルムの前に立ち塞がり、《エアリアルドライブ》の突進を完璧に防いだのだ。


「そろそろ倒せよ」


 そう言い放つヴァンジャンスにヴァスィリサは、頷きながら目の前で自身の魔法をまともに跳ね返され、自らにダメージを受けた瀕死のガルムにトドメの巨大火球を放つ。


「また助かった……ありがとう」


「あぶね~これだからDランクは無茶だって言ったんだ」


 少し涙目のティラノスもそう言いながら、最初に盾となって弾かれたガルムにトドメを刺しに攻撃をしかける。


 結局、ことごとくヴァンジャンスによって攻撃を潰されてたガルムは、元々攻撃型の魔獣であるその自慢の攻撃力を封じられたことによってなす術なく、ティラノスとヴァスィリサはどうにか倒すことが出来たのだった。


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