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最終試験会場・イアールンヴィズの森

 二次試験トーナメントを無事合格した次の日、ヒイロとヴァンジャンスは、再びあの場所へと来ていた。


 それは、2年前に自分達が死にかけた場所であり、また運命の歯車が回り始めた日でもあった場所……《イアールンヴィズの森》である。


 あの日初めて《声》を聞き、自分達の使命と秘められし力を知ってから2年。2人は自身の能力を少しずつ自在に使いこなせるようになり、確実に強くなっていったはずだが、あの日から、このイアールンヴィズの森だけにはあえて近づこうとしなかった。それは自分達への戒めであり、覚悟だった。次、この森に入る時には、一人でもあの魔狼 《ガルム》を倒せるだけの力を身につけてからと……。


 自分達の中では、まだ時期ではないと思っていたが、翌日の騎士学校の最終試験がこの森だと知り、2人は最終試験を行う前にやるべきことをやりに来ていたのだ。


 2年ぶりの森。今度は堂々と森の入り口から入っていく。数多くの亜人種を含めた冒険者達がきちんと装備を整え、パーティーを組んで進んでいる。


 また運び屋という荷物や人を送る荷馬車に乗って、先を急ぐ者もいる。そういう冒険者は元の生まれが裕福な者や上位冒険者なのだろう。ヒイロとヴァンジャンスは、いわゆる布の服、そこら辺で街の人が来ている服、いやむしろその人達よりも贅沢ができない2人はもっと安い服だろう。その姿で冒険者達に混ざり、森に入っていく。


 過去の過ちから無能な劣等種として迫害の対象になってしまった知識人族。それもまだ子どもであり、身なりも見窄らしい2人のその姿を笑う者も少なくなかった。だが、本人達は気にしない、今はまだ冒険者ではないのだ。ただの力試し、この服で十分だった。 


 イアールンヴィズの森は入り口から定期的に、簡易的な休憩施設がある。そしてそれは小さな小道でつながっており、森の中腹まで続いている。今までの冒険者達が歩いて出来た自然の道。いわゆる獣道だ。


 その道を通れば、距離はあるもののほとんど魔獣と出会わずに、森の中腹にある最後の休憩施設までいける。多くの冒険者はこの道を通り、それぞれのタイミングで横にそれていくが、逆にランクが低い冒険者はあえて通らない。それは森の入り口に近ければ近いほど魔獣のレベルは低いからである。そのため、新人でこの森に挑戦するものはあえて入り口から横にそれ、ランクの低い魔獣から挑戦し、腕を磨いたり、魔獣から取れる素材や肉を集めていた。


 ヒイロとヴァンジャンスはあえて最後の休憩施設までまっすぐ進む。目的はランクの低い魔獣ではなく、Dランクの魔狼ガルムである。2年前は本当にたまたま偶然だったのだろう、本来ならガルムは最後の休憩施設以降にしか見られない魔獣だからである。2人をそのガルムを狙って進み続ける。


 そして、最後の休憩施設を過ぎると、冒険者の数はほとんど見かけなくなった。そこからは奥に進む方向には獣道は無くなり、皆それぞれの方向に向かう事と、これから先はCランク以上か、Dランクでも一握りのパーティしか進むことが出来ない難易度のため、人数も極端に少なくなるからだ。


 2人はその休憩施設で止まることなく、そのまま真っ直ぐに進む。すると遠くから大きな遠吠えが聞こえる。ヒイロとヴァンジャンスは顔を見合わせ、ガルムの遠吠えと確信し、急いでその場に向かう。


 少し森が開けた場所にいたのは、10歳ぐらいの知識人族の少年と、その少年を守るように冒険者が3人。そしてそれを囲むように8匹のガルムと、さらにその奥にガルムよりひと回り大きな白銀の魔獣、銀魔狼ギンガルムがいた。他にも近くに数組の冒険者達はいたが、周りを確認しながら離れていく者ばかりだった。


 わからなくもない、本来ならもっと奥にいることの多いそのギンガルムは、単体でもCランク相当の魔獣、さらにこの数の群れであるとBランクパーティー推奨のレベルだろう。冒険者Bランク、金級のゴールドプレート以上の冒険者は、世界で数多くいる冒険者の中でも、10%にも満たないと言われている。確かに、このイアールンヴィズの森の最深部は推奨ランクSランク、ミスリルプレート以上とされる神狼 《フェンリル》が住む森として有名な森でもあるが、そうそう都合よくBランク以上の冒険者がこんな近くにいるわけがないのだ。


 状況を見るに、男の子は知識人族の孤児で、冒険者の荷物持ちをしていたのだろう。そして、男の子を雇ったパーティーが、ガルム達に襲われ、このままでは逃げられないと判断したのか、囮として見捨てられていったのだと推測できた。それは孤児達とよく遊んでいた2人にはすぐに想像できる、よく知る現象でもあった。


 ヒイロとヴァンジャンスは、目当てのガルムを見つけた喜びよりも、この現実に怒りの感情の方が強かった。だが、今は怒りを抑え、冷静に状況を観察する。


 状況を見るにおそらく、2人のようにたまたま近くにいた違う冒険者パーティーが子どもを守っている形だったため、ヒイロが迷いなく声をかける。


「僕たちも一緒に戦います!」


「《神獣合体》氷神シヴァ」


「仕方ない……《デウス・エクス・マキナ》」

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