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第八話 皇帝陛下なんて公務員みたいなもの。

コーン帝国に降り立ったのは二人、とびっきりの悪い顔と特に考えてはいない心と帝都です。

デブガリ戦記


第八話 皇帝陛下なんて公務員みたいなもの。




 スネアと一緒に帝国旅行だ。


 コーン帝国、ダリオコナス人の土地だ。


 間には、旧クロマキアの山々に平野とか湿地や肉食植物の走る森があるが、マスカットを装備した探偵が何人か乗り込むドラゴンならばあっという間の距離だ。


 スネアが用意した中型ドラゴンは、もう少し小さいが、もっと早い。


 黄色い竜スパインちゃんは無口な子だ。


 目的地は──帝国東副帝都。


 親友との時間は楽しいということにしている。デブの僕、ガリのスネアのコンビは幸先の良かったことはない嫌われる人相の組み合わせだが……。


 ところで、僕はドブガエルと思われていたり醜悪さだけで正義に誅されるというくらいのことは弁えているし自覚があるのだ。


 僕がスネアと歩くと、よからぬギルドのボスみたいな扱いを受けるので人間とは見た目が大切なのである。


 スネアも悪人だ。


 正確には、悪人に見える悪に染まっている一見善良そうで悲しいと思いながらシレッと何百万人も生贄にできる真性の悪党みたいな顔だが、彼は一応僕の親友なのだ。


「参りましたねぇ……私、見てのとおりどこにでもいる小市民なのですけれどねぇ……くくっ」


 何も言うまい、僕はツッコミを入れない。


 ピーッ!


 ピーッ!


 聞き慣れたホイッスルが甲高く耳を刺す。そして僕は次の言葉も知っているのだ。


「増援を呼べ! 不審者だ間違いなく犯罪者だぞ、騎馬隊を至急もってこい!」


 東副帝の行政首都、その最高級の整備が備えられた百万都市の道で僕は追われていた。


 酷い言いがかりだ。


 酒場の窓からは騎馬が街中を過ぎていく姿が見える。ちょっと亡国の土地のオークションに来ただけなのにこの“ざま”である。


「助かった、店主」


「うちは……どんなのでも拒まない。おたくもどこぞの組織だろう? 情報屋は深くは聞かねぇ、知ってるだけだ」


 断じて違うが、奴隷商人はそっちよりだった。


「ならば情報を買おう。クロマキアの土地がオークションに出されているはずだが、それはどこで参加できる?」と僕はカウンターに金貨を積んだ。帝国金貨だ、まったく同じ皇帝の顔が四つも並んでいる。


「……気前が良いな。やっぱり慣れてやがる」と店主は言って、正確な場所と合言葉を教えてくれた。金貨一枚に皇帝は四人だ。


「おや、賑やかですねぇ」


 特に問題もなくオークション会場だ。自由参加なのだろう。ギャングだかマフィアだか暗殺ギルドに海賊ギルド、盗賊ギルドで見たことがあるような顔ぶれがあった。


「おや、アルパイン殿ではないか」


 知り合いがいるので他人のフリをしたいが、奴隷商人なのだからそうもいかない。海賊ギルドの戦利品や盗賊ギルドから仕入れるのも仕事なのだ。付き合いは深い。


 ガラには紹介しづらい顔だ。


 あまり悪い人間ではない……いや悪党だ。


「スネア殿ではないか」とスネアに集まったのが帝国貴族で柔和な顔なのは納得がいかないところだ。邪悪な笑顔で闇の話し合いをしてる。たぶん帝国転覆計画とかだ。知らないが。


 個人的な知り合いへスネアを紹介した。


 ガラは元気だろうか。


 強面の集団に、「いつ見てもアルパイン殿の顔は安心しますな」と言われても僕は嬉しくない。


 ガラに微笑まれながら一緒のベッドで寝るのが今は目標なのだ。優しい包容力のある女が欲しい。今は恋敵の『勇者さま』とやらを「なます”にできる実力をつけることが目標だ。奴隷商人としては行き詰まっている。


 ガラに捧げるため新しい国としてクロマキアを起こす。存外、国なんてその辺で滅びたり生まれたりしているものだ。でなければ奴隷商人が亡国から安く大量に仕入れて儲けることはできない。


 ただ……人が多いから恋も多いわけではない。奴隷商人の頭が奴隷を探しているくらいだ。切実というほどでもないが欲しい。


 恋が燃え尽きてしまう前にだ。


 クロマキアの復興はそんな理由である。


 土地オークションは適当に進んだ。


 全体として金貨一千枚単位と安いのが気になったが、


「帝国技術局が戦略魔法で焼いたり汚染した噂があるからなぁ。環境回復にどれほど金貨がかかるやら」という話を小耳だ。


「スネアは土地を買わないのか?」


「アルパインに任せますよ。原資に出資してますでしょ? クロマキアをさぞや過ごしやすい土地にしてくれると期待しています」


「お前が言うと人間牧場とかやってそうだな」


「私は世界を愛しています。平和が一番です」


 ニヤリと蛇のような目と耳まで裂けた笑顔のスネアだった。


 ステージではクロマキアとの戦争に参加した貴族が、獲得した土地を次々に売りに出している。僕は頭のなかでクロマキアの地図を広げながら、連結できる土地、交換可能な土地と予算を考えながらオークションへ参加する。


 売り出す土地が多いのはわかっていた。


 だがこれは……土地を買っている人間に帝国側、ダリオコナス系の貴族や商人はまずいない。全て外人だ。


 クロマキアを多人種で詰め込む気か。


 安価とは言え一国の土地だ。


 土地を膨大な金貨に交換している。


 金貨の皇帝も積み重なれば安物に見えてくる。威厳は数の金貨を積むほど薄まるが、もとより帝国の四皇帝なんて公務員で国家の凄い役人程度なのだ。


 ぞんざいに扱われるものだろう。


「ガラへ送る勇者としてのプレゼントならば安いものだな」


 ガラは勇者と懇意だ。


 ガラの心を勇者から奪うためには、もう僕が勇者よりも平和を愛して守るだけの力と均衡を証明するしかないのだ。勇者とは称号だ。僕は称号を買うために実績を積んでいる。クロマキア復興も経験値である。


「クロマキア復興への第一歩……アルパイン卿の王国があっさりと……さすがですなぁ」


「悪魔みたいな含み笑いをされるとまるでよこしまなことのようだね」


「まさか! 姫君のためその私財を投げて亡国復活に尽力する奴隷商人……面白い物語を綴ってくれているとしか思ってはいませんとも。『アルパインの平和』を望んでいるのをこの親友、しっかりと知っておりますので」


 なぜか、親友スネアが言うとその通りなのに『裏』を感じてならない。


「……ボゾンさまには良い報告ができそうだ。騎士フェオドラにもな」


「ガラには?」とスネアは言うが、


「クロマキアの復興がなってからだ。勇者とは、英雄とは、いつだって結果だけを見られてそう呼ばれるからな」


 本業は奴隷商人なのだ。


「クロマキア人の奴隷もついでに漁るか。クロマキアから帝国に来た者も多いだろう。僕の裁量で動くのは良いが、趣味で商会を潰すなんて物笑いの種にもなるまい」


「流石、奴隷商人アルパインですな」


「スネアの用事は終わったのか?」


「私の用事とは親友と過ごす時間以外にあるわけがないでしょう」


「前から思っていたが親友は良い男だな」


「世界を愛し弱者の味方、誰もに寄り添う善人ですからねぇ」


 それを言葉にして、ヘラヘラと笑うから胡散臭いのだ。


「帰りましょうか、ガラたちが心配でしょう」


 とスネアは舌の根も乾かないうちに、


「東副帝は何やら、クロマキアを滅ぼす理由があったらしいですがそれは関係のないことですからね」


 夢を見ていた。


 クロマキアの第一王女メリタは、嫌な汗を背中に感じながらの目覚めだ。子供のように悲鳴はあげない。どれほど恐ろしい夢でも、悲鳴を押し殺すだけの我慢ができる大人になったのだと、メリタは考えている。


「……クソ妹」


 妹が聞いていれば卒倒ものな暴言は、メリタの腹を蹴る第三王女マルグリッドへだ。


 第二王女フェオドラなら騎士ボケである。


「……」


 夢は、奴隷になってから少し楽になっていたのに今晩また──見た。


 悪夢だ。


 クロマキアと帝国の戦争は、当然のように地上と空中だった。クロマキアの海軍は川さえ遡上出来ずに軍港に留め置かれていたなか、クロマキアのあらゆる都市が次々と燃えた。


 メリタは覚えている。


 決して忘れない。


 マスカットを装備した戦列が、クロマキアの兵士を数百歩の距離から薙ぎ倒した瞬間、空を翼で隠す『ドラゴン』が人間を何人も載せてマスカットを撃たせながらブレスを吐き戦車を強大な鉤爪で破壊する瞬間。


 クロマキア貴族の騎士らが着込んだ積層咒式板金鎧は、野戦砲から放たれた榴散弾の雨にはよく耐えたが、戦列歩兵のマスカット斉射を弾き返しながら肉薄できるものでもなかったのだ。


 軍靴と団旗、警戒色の壁が銃剣の林を揺らしながら迫ってくる……それが、メリタの悪夢だ。


(どうして、また……)


 マスカットの存在を知り、奴隷に落とされた。


 だが幸運にもマスカットを手にして訓練を積んで、その正体が何かを理解することで悪夢にも打ち勝ったはずだだった。


 しかし……悪夢は再開した。


 ドラゴニュートの体、無敵のドラゴンがライフリングで回転する椎の実型の鉛玉に貫かれ、銃剣で串刺しにされ生きたままハラワタを引きずり出される。


 夢の中でメリタはやはり、悲鳴をあげない。正確には『そうしたくても声がでない』のだ。


「……」


 第二王女フェオドラが見えた。


 ベッドに彼女はいない。


 ちょろちょろと、姉妹揃って母ボゾン譲りの長い黒髪が尻尾のようにドアの先へ消えていくのが見えた。


 フェオドラは、騎士と呼ばれてからあっさりと『悪夢を振り切っている』のが……メリタには憎々しかった。

怖いなら、同じなら、私でも奪える、私でも変われる、だって私たちは一人なのだからとドラゴニュートは飛び出します。

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