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第五話 国営盗賊団て騎士団だよ知ってた?

クロマキア王国復興に奴隷商人の手助けが欲しいドラゴニュートです。

デブガリ戦記


第五話 国営盗賊団て騎士団だよ知ってた?




 また夜が来た。


 天幕を張り、火を起こす。


 なにせ大所帯なので作る土の窯の数は多い。


 野宿に慣れていない女たちばかりなので、僕もまた大仕事だ。窯、窯、窯、これが有ると無いでは火が違う。


 あとは狩り、狩り、狩り……手助けしてくれたのは意外にも第二王女であるフェオドラさまだ。


 僕がハッシャクムカデの頭をカチ割って捕まえているかたわらで、トゲウサギを五頭も仕留めていた。


 弓の名手だ。


 凄い自慢されたが、ハッシャクムカデを引きずっていくとドン引きされた。


「器用なものだな。金貨と書類で遊んでいるだけの男の手ではあるまい」と第二王女フェオドラに言われた。


 僕は手を見た。


 ちょっとだけゴツゴツしている皮の厚さだ。


 もしかして褒められた?


 いや、貶されたのかな?


 照れるのだが……。


 窯作りで土を捏ねた手が炭疽菌で犯されてもつまらない。地下水脈を口説いて水を借りた。手洗いうがいは絶対やるなよ! と炭疽菌が言っていたような気がするのでやるべきだろう。


「わっ! わっ!」


「フェオドラさま逃げないでください。体を洗うだけですよ、泥まみれなのですから。真っ黒です」


 服でさえ垢で汚れている。可憐な太腿や乳房を隠すそれの内側まで拭こうと引っ張る。実際に突っ込んだ。引き締まっているわりには柔らかだがやはり汚れている。不潔だと感染症になる。医者も病院も無いのだ。


「やめろッ、やめろ私はまだ……!」


 濡れた手拭き布で体を綺麗にしようとすると、フェオドラさまは酷く嫌がった。考えればそうか、フェオドラさまは恥ずかしいのだ。男女混浴に慣れすぎて忘れていたが肌を見せるのは恥ずかしいことだ。


 忘れないようにしなくては……。


「……」


 僕は夜中に全裸になっていた。ハッシャクムカデにも血は流れているのだ。体を清めておかないとだ。僕はけっこう綺麗好きなのである。


「私を手篭めするのか……母上のように」


「さぁ? 僕は望まれたからするだけです」


「ゲスだな……そう誘導するのだろう」


「嫌がるのであれば仕方がない。僕も強制はしたくはないので、また『外で自由に暮らす』ことができましょう。お願いされれば仕方がないですな。しかしお手伝いはしなければお願いは……」


「こんの……弱味に……クズガエルめ!」


 なんでさ。


 今、僕はフェオドラと二人きり。


 起こした火の灯りで揺れる『フェオドラ姫』が幻想的に見えるのは、彼女をドラゴニュートだからと知ったからだろうか? それとも彼女の純粋な魅力に酔わされているからだろうか?


「初めて会ったとき、近衛の騎士団長だと言いましたね、フェオドラ姫」


「そうだ」とフェオドラ姫はなだらかな胸を張った。姉妹揃って胸が不足気味なのは、母親のボゾンとは好対照だ。遺伝子の多様性を感じる。


 同じ黒髪、同じ左右の瞳、しかし、


「騎士は自称なのだがな」とフェオドラ姫は尻すぼみだ。普段の気の強さがあるだけに、少し気弱を見せるだけでとても弱っているように見えてしまう。


 怒りなどどこかに忘れたようにフェオドラ姫は、


「クロマキア王国の騎士というものはいないのだ。貴族領のお抱えが騎士であり貴族そのものでもある。王家は騎士ではなく、兵なのだ。近衛騎士ではなく近衛兵、近衛騎士団ではなく近衛隊だな。初めてこのことを知った時は、衝撃的で悲しかった」


「フェオドラ姫は騎士に憧れていたのですね」


「うむ。初恋が騎士だった。格好が良く、槍を手にドラゴンへも勇猛果敢に挑む勇者たち! それが私の知る『絵物語の騎士』であり初恋なのだ」


「笑うか?」とフェオドラ姫が訊いたので、僕は「素敵な話です。僕も絵本の姫さまが初恋ですから」と答えた。


 初恋は、絵本の姫さまだった。


 可憐で美しく、それでいて国難に立ち向かう気高さがあり……強さと優しさが両立するというのが僕の人生を決めたほどだ。


 人間ではなくドラゴニュートだったけど。


 そういえば、


「……今の状況は、けっこう似ています」


「何にだ、ドブガエル」


「ドブガエルやめてください」


 それはともかく、


「絵本ですよ。ドラゴニュートのお姫さまが亡国から逃げてきて国を再興するために冒険するんです。フェオドラさまはドラゴニュートで、クロマキア王国からここへ。絵本にぴったりです」


 絵本のような優しい男になりたいのだ。


「……」


 妙に気不味い沈黙が流れた。


「ちなみにフェオナ姫です。ちょっと似ていますな」


「貴様ぁ!」とフェオドラ姫が完全にドラゴニュート化した。燃え盛る炎を吸収するように光を喰らい、絹の肌には積層された呪詛の施された鋼鉄の鎧よりなお頑強さを感じるドラゴンの鱗が生え揃う。


 ドラゴニュート。


 人間の形をしたドラゴンが眼前にあらわれた。


 瞳は怒りに染まりきっている。


「……三文芝居の恋愛小説でもあるまい、何が目的だドブガエル。我が王国の復興? たかが奴隷商人風情が!」


 ふー、ふー、とフェオドラ姫は息を荒げていた。その度に、炎の吐息になりかけたものが吹きかけられる。


 フェオドラ姫は無意識なのだろうが、一般的な人間でしかない僕の肌は、その程度でもこんがりと焼けてしまいそうだ。


 真の姿を晒したドラゴニュートに、あちこちで騒ぎが大きくなり始めていた。


 ボゾンさまは小柄なのだろう。


 フェオドラ姫は、ボゾンさまよりもずっと大きく、僕の数倍の背丈がある巨大な、強いドラゴニュートだ。


 竜の人……それが僕に尋ねてくる。


「……お前にクロマキアを復興する意思があるのか?」と、先ほどまでの荒ぶりを抑えて、フェオドラは言った。


「貴女が望むのであれば、帝国との交渉は仕切りましょう。そう、全ては貴女が望むがままです、僕の口からはなんとも……約束はできませんなぁ」


「ドブガエルめぇ……」


 フェオドラ姫は鉤爪の太い足で地面を引っ掻く。まるで僕に対してやりたいことをしているように憎々しく。


「……我が体を好きにしろ……だから母の悲願であるクロマキアを消させないでくれ……頼む」


 フェオドラ姫が頭を垂れた。その美しい鱗の体は頭だけでなく腹までを地につけた。大空を支配するドラゴンの系譜が、だ。


「……」


 僕は、僕は胸が締め付けられた。


 ドラゴンが己の誇りではなく他人のために生きられると、『また』知れたのだ。ドラゴンは決して孤高であり人類社会と相容れない存在ではないのだと考えることができた!


 フェオドラの体を好きにできる。


 クロマキア程度、復興させよう。


 三姉妹の次女フェオドラは、昔から喧嘩しがちの荒れた性格だった。ある意味ではもっともドラゴニュートでありドラゴンの気質が強いのだろうとは、母ボゾンの談だ。


「早まりましたね、姉上」と第三王女マルグリッドがため息を吐きながら呆れた。諦めているとも見えるだろうか。


「昔からどうして思いつめたらそう!」と第一王女メリタが言った。同じ色の瞳は悲しみだけを浮かべ、穢される妹を、またそれを選択させたことを憂いているのだろう。


 当の本人であるフェオドラは、悲しげであり、姉妹の優しさに触れながら、しかし後悔はなかった


 同じ存在であり、ただ器に注がれた心だけが違う姉妹たち。全ては母ボゾンと同じ器でしかないのだ。ならば誰かが『残れる』のであればそれが至上ではないか?


 フェオドラはそのように考えて、自分の体をアルパインに捧げた。凄惨な陵辱が待ち構えていることに鱗が震えかけた。だが、決して弱さを見せることはなかった。


 それが第二王女フェオドラだからだ。


「フェオドラ姫」とやってきたのは、裏切りのエルフ性奴隷ガラだ。メリタとマルグリッドが憎悪で射殺すような視線を向けた。二人は、クロマキアの女を売ったのがこのエルフだと信じているのだ。


 フェオドラも最初はそうだった。


(全てはただの不運だったのだろう)


 フェオドラは不思議なことに今、あちこちに牙も爪も振ることはない。衝動に任せた力の力がないのだ。破壊的な力がである。ドラゴニュートの本質だけが、すっかりと丸くなっている。


「帝国に滅ぼされ、怒りに燃えていただけで燻る煙に隠されていた目が、今はとても澄んでいるように感じる。クロマキアの将来について私は何も考えられなかった。だが今は、少しはクロマキアのためになれるかもしれない」


 かつて憧れた自己犠牲の騎士のように。


 フェオドラは、ガラの手をとった。


 それは、アルパインの手と同じだった……。

貴い体を犠牲に王国へと忠しようとする第二王女……自己犠牲の献身に第一王女と第三王女の心が浮き立ちます。自分は何をすべきなのか、と。

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