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第四話 竜の穴は共有の一つだけ。

ドラゴニュート、クロマキア女王ボゾンが陥落しています。彼女はドラゴン末端の血に生きているので人間ではありません。

デブガリ戦記


第四話 竜の穴は共有の一つだけ。




 大行進だ。馬車には入りきらない。


 僕と王家とガラは馬車だが、その他は歩きだ。クロマキアの王宮女一行の数は五〇人。流石にそれほどの大所帯とは思わなかったので、これもスネアに伝書竜を飛ばして増援を依頼した。


 スネアの手のものが時期にやってくる手配だ。


「……母上……?」とメリタさまが、ボゾン女王を気にした。


 ドラゴニュートさまは今、僕の隣にちょこんと、そういうには大きな体を収めている。馬車の天井に頭が当たっていた。お尻は姫二人より大きい。……姫も安産な体形で小さくないが。

 

「やはり奴隷なんぞに落とされて、ご心労が!」


「いえ──」


 ボゾン女王の、勇敢なる生の象徴であるドラゴンと同じ顔が、僕を見ている。あまり見つめられると照れてしまう。


「──なんでも!」とボゾン女王の青い鱗肌が真っ赤になった。尻尾が切なそうに振れていた。


「貴様ぁ! 母上を手篭めにしたのかぁ! あぁ!?」


 王女三姉妹がずっとキャンキャン吠えてくる……静かな浮遊馬車とは不釣り合いなやかましさではある。


 ボゾン女王は、僕の隣で僕をその大きな翼で包み込んでいた。絶対に離してしまわないようにと言わんばかりにだ。少し大きな女性、人妻でもあるがドラゴンみたいなドラゴニュートだ。ちょっとだけ甘えた。


 獣のように!


「あっ、こらこら」とボゾン女王は叱るが、所詮は言葉だけで満更でもない感じである。


 僕はボゾン女王の青い鱗肌を鼻で擦るように、そして首を擦り付け彼女の顔に匂いをつけるようにじゃれた。さながら子犬や子猫のようにだ。


 これがすっごい落ち着く。


 猫や犬を相手に、彼ら彼女らも仕方がないな「ふっ」と言いながら顔を沈めさせてくれるが、ドラゴニュートの、ボゾン女王の包容力は底なしなのだ。溺れるのだ。


「まるで子竜のようですね。あの子たちの小さな頃を思い出します」


 ふふふ、とボゾン女王が撫でてくれた。まるで母のように……。


「母上!? 私そのドブガエルと同じなので!?」


「絶対嫌だ! 母上、何をされたのですか!」


「あまりにも醜い……モンスターめ!」


 酷すぎる評価でもないが、酷いとは思うし、僕が仮にドブガエルだとしてもドブガエルと言われれば傷つく。


「おい、ドブガエル! お前は母上に何をした!」と第二王女フェオドラに噛み付かれた。


 物理的にだ!


 フェオドラさまは頭を竜化して、僕の足に噛み付いている! 魔法で強化していなければ噛み千切られていたところだ。それでも痛みはある。牙が裂いた肌からは血が流れた。


 赤い血だぞ。


「……」


 フェオドラさまは渾身の力で噛み続けている。しかしその美しい目は、人の姿でも竜の姿でも変わらない。今は、引っ込みがつかなくて迷子の子犬のような不安が浮かんでいた。


 血が昇りやすいが性根は優しい子なのだろう。怒っていたのもボゾンがおかしくなった、何かされたと思ったからであろうしな。


 ならば、


「ふっ、フェオドラさまごときの顎力では大した傷も通らないでしょう。無駄なことはやめることです。もっとも、奴隷の主人から命じる、ということもできますが……」


「……ゲスめ」とフェオドラはヨダレを引く口を外した。痛い。


「……」


 フェオドラは噛み付いた傷が深く残る僕の足をチラチラと見る。気になるならやらなければ良いものを……。


「舐めておきましょう。化膿も怖いですから」


 ボゾン女王が、形の良い指で長い黒髪を後ろへ流しながらかがんだ。僕の股の前に頭をやり、ドラゴニュートの長い舌で傷口を舐めてくれた。


 じゅうじゅうと音を立て、傷口が塞がるが……王女の三人からは信じられないほどの嫌悪や憎悪の視線を集めてしまった。


 いたたまれないガラは外に逃げた。


 逃げるなガラー!!


 ドラゴニュート四人が怖いのはわかるから仕方がないが……そのような思い切りもガラの好きなところだ。


 ガチ!


 ガチ!


 王女、うち一人はドラゴニュートの頭になっている。ガチガチと歯を見せて威嚇してきた。


「母上、父上というものがありながらはしたないにもほどがあります」と第一王女メリタは注意した。


 ボゾン女王は少し考え、


「奴隷である以上は、その主人が望むことに尽くす。良き奴隷とは言葉以上の繋がりをもつものです。家族よりも深く、強い友情です」


「母上、昨日の今日で薬でも盛られましたか」


「……女は、優しくされると弱い……ましてやこの身は……」


「母上!?」


 そういえばボゾン女王は、何故ドラゴニュートで王の隣という高い地位にいられたのだろう? 様々な物語があったのだろう。もしかしたらクロマキアに流れ着くまで過酷を極めたのかもだ。


「ご主人」と敵前逃亡したガラが戻ってきた。


「所属不明の騎馬が一〇ほど土煙をあげています」


 なんだ?


 僕は馬車を止めて降りた。


 隣には護衛の奴隷エルフ、ガラが完全装備で肩を並べる。兜と胸甲に脛当て、得物は金砕棒だ。


 弓はどうした? と僕が聞けば、


「弦を張っていたら折れました」とガラは鉄弓を折ったことを教えてくれた。それなら仕方がない。


「高級品を気安く……ガラにはお仕置きだな」


 僕は怪力ではないのでフリントロックのピストル六丁をホルスターで体に巻いている。


 先ほどの山賊だろうか?


 遠目だが、僕の目にも見えた。


 きっとガラが持ち上げてくれたおかげだ。


 盗賊というには身なりの良い完全装備が一〇人、見事な手綱さばきで八脚馬を操っている。既に駆け足でこちらを補足しているだろう、真っ直ぐ接近中と。


 ふむん。


 女盗賊はいなさそうだ。


「最近、女に子供を産ませろと幹部の突き上げがあるのだ。子供は何人か育てたい。ガラへの愛もあるが将来を誓える仲に進むなら僕の子もそこにはいる」


「……そうですか」とガラは震える声だ。


 彼女は強いが実戦で肩を並べるといつも震えるじつは臆病な性格だ。守ってあげたい。僕はぽっちゃり体型だが鍛えているのだ。


 肉の盾になれる。


「滾った後にガラがいると考えるだけで……ぐふっ、ぐふっ……ぐふふ……不謹慎だがな」


「……」


 今日、死なせてくれるかもしれない期待は誰だ? 醜い化け物を打つと勇ましいのはどんな種族だ? どんなことを掲げるだろうか、どんな呪詛を吐くだろうか、奴隷商人を外道と罵る正義だろうか?


 僕は今、楽しみである。


「ガラにも興奮してもらえるよう少し数を減らすか」


「……恐縮です」


 盗賊は五、馬乗りで弓を番えた。


 手綱もなしにお見事。


 遊牧民なのかもしれない。


 僕は適当な小石を拾った。


「願いがある、愛しい我が小石」


 ガラにいいところを見せたいから協力してくれ!


 神さまはけっこう気安い。


──ヒュゴゥッ!


 エルフの目は見ていた。


 エルフの耳は感じていた。


 それは変哲のない小石で、“ドブガエル”アルパインが無造作に投げた石飛礫で、騎馬の頭蓋を打ち抜き、騎乗していた人間の胸甲を貫き落馬させる瞬間だ。


 パッ、石飛礫を受けた人間の背中で弾けた肋骨か背骨か……血肉が咲いた。石飛礫で打ち抜かれた背後の騎馬に臓腑が飛び散る。


 盗賊は恐慌してすぐさま馬首を翻し逃げていく。


「どうだ、ガラ……ぐひゅひゅ、なぁにお前にはもっと『優しい』から安心しろ」


 貫かれた盗賊は風穴を開けられて死んでいた。明らかに死んでいた。


 アルパインは異常だ。


 ガラは、主人である奴隷商人の下卑た顔を横目で見た。


「ぐふふ、しかし熱いものを発散したいな……」


 アルパインが人間に見えなかった。

盗賊を惨殺したアルパイン……怒れるドラゴニュート三姉妹、一夜を共にしたドラゴニュートの母は変わってしまった……彼女たちは今は亡きクロマキア王国の王家、滅ぼした帝国から追っ手が来ることもありましょう。

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