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第三一話 そして龍は目覚め世界は眠りました。

デブガリ戦記


第三一話 そして龍は目覚め世界は眠りました。




「あっ」


 見つけたとき、それが誰かなんて『わかるはずがなかった』のだ。下半身がなく顔のほとんどを失ったそれがどうしてかわかった。


 アルパインも……。


「エーデルワイス……」とアルパインは言った。


 ほとんど死体と変わらない勇者アルパインは、声を聞いてゆっくりと振り返る。


「アルパイン?」


 はっきりと聞こえた。


 いや、聞こえたフリをした。


「ガラ。僕は最後をやる。お前はここまでだ。エーデルワイスと残れ」


「……はい」


 もう会うことはない。わかっていても背中を見送るのに躊躇いはなかった。


「よかったの?」


「私は勇者になりたかったですから」


「実は勇者になりたくなかった。ずっと、後悔してきたから。お前が勇者なのか? と責める自分がいたから」


 勇者エーデルワイスの最後の告解だ。


「アルパイン……どこだ? アルパイン」


「先に行きました」


「そうか、あいつはそうだろうな。後ろにはそうなにも、いるもないから先を探すしかないって言っていた」


 アルパインとエーデルワイスは知り合いだったのだろうか。今ではもう私の知るところではなくなってしまった。だが私が龍脈に帰ればもしかしたらその時に触れられるかも知れない。


 でもきっと、知らなくて良いだろう。


 勇者は倒れた。


 私は立っている。


 勇者よりも強い。


 約束は守るのだ。


 守ってくれ、そう言っていたのを覚えている。最強の勇者は知らないところで倒れた。私は側で勝ち続けた。そして送り出せた。


 これはひょっとして大勝利では?


 そう思えばこの瞬間で全てが成った。


「アルパインと龍脈のなかへと進まなかったのは何故ですか」


「私の役目は全てこの瞬間に終わりましたから。役目を終えた役者は消えるものでしょう? 役者は物語の上でしか生きられない。私の物語にはこの先はないのです」


「勇者エーデルワイスも、その道連れか」


「独りで消えるのは寂しいですから」


「アルパインは?」


「独りこそが良いと判断しました」


「冷たいな」


「私は、ちょっと有名な怪物ですから。人間のような心は持ち合わせていません」


……なんだろうか。


 こんな半端で、こんなものか。


「龍脈とはなんでしょうか」


「さぁ? 少なくとも私たちにそれを考えるだけの時間は、残されてはいなさそうだ」


 もっとも深きの龍脈が露出しているものを見た。


 初めてだ。


 透き通った空のようである。


 それはあかく、夕焼けのような鏡面で、海で、空と海が全てだ。


 僕はこんな景色を想像してはいなかった。


「龍脈なのか? これが」


 踏み出す。


 水のように足首まで浸った。


 龍脈ならばこれは高密度のエネルギーで、僕なんて生身は蒸発しそうなほどのものがありそうなのになにも感じない。


 あるいはもう死んでいて、脳を駆け巡る信号が気がついていないだけなのだろうか。


 わからぬ。


 だが、感覚ではまだ残っている。


 誰もいない場所だ。


 だが、誰かがそこにはいるのだ。


 龍脈か。


 古い龍を流れる魂と聞いた。死んだものは無色の魂として龍脈へと還り循環する。そのシステムが龍脈であると。そんなものは僕でも知っていた。


 知っていたが…………世界が滅ぶ今日まで見たことがなかった。


 今、古い龍がドラゴンズドリームから目覚めようと言うのであれば、夢でしかないこの世界が消えるのであれば、抗いようのない不条理であるならば、


「それもまあ良いか。うむ、良い」


 終わるのならば仕方がない。


 僕は龍を道連れにしようとやってきた。


 勝手に目を覚まして、勝手に世界が消える。


 なんと不条理なのだろうか!


 景色を見れば少し気持ちが変わった。


 全ては龍脈へと還る、それだけなのだ。


 世界は消えるが龍脈は残る、


 龍脈とは龍なのだから……。


 龍が眠る日、再び世界が目覚めるだろう。


 それまでは眠るだけだ。


 そう考えれば、少しは気が紛れる。


 世界は眠るだけだ。


 龍が目覚めた。


 世界が眠る。






 再び目覚める遠い日まで……。


〈デブガリ戦記 了〉

おしまいです。

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