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第一三話 やっぱりきた偽徴税官です。

ドブガエル、恋に悩むが成就と同時に失恋を強く意識しています。

デブガリ戦記


第一三話 やっぱりきた偽徴税官です。




 帝国貴族だ。


 完全武装の騎士を率いている。


 小クロマキアにやってきたのは帝国の徴税官を名乗る連中であったがまさか無碍に扱うわけにもいかずに彼らは案内されてきた。


「坊ちゃん。騎士さまにお気をつけて」


 メイド婆さんは普段、九割あっちの世界に幽体が抜けているが、なんで今日は半分戻って来ているのかと思えば騎士がいたからだ。


 騎士はわりと精鋭兵なのだ。一貴族が抱える数十人もいれば中規模までの有耶無耶の農民や徴兵で士気の低い兵士を蹴散らすし、鎧は大規模な戦闘でマスカットの斉射や野戦砲を受け止めるのはともかく、小競り合いではほぼ無双に近い戦闘能力を人間に与える。


 簡単に言えば、ささやかな小クロマキアに怒鳴り込んできた騎士一行は脅威というわけだ。


 小クロマキアを裏から支配するクロマキア王家のドラゴニュート女王や三姉妹をまさか出すわけにもいかないので、


「帝国への税を納めよ、アルパイン卿」


 矢面は僕である。


 パスタでも湯がいて皆に振る舞おうか。ソースには自信がある。クリーム系がフェオドラ姫の好みだ。ガラは確かキノコだったな。……肉食キャベツだったかもしれないが、基本的にガラの舌はあれなので、この前は、小石と木の実の殻の区別がついていなかった。


「正式な手続きはあるのかな、徴税官殿。私はこの土地を買った。そのとき徴税権と封建を約束された契約を結んでいる。つまりは私の王国であり、そこに帝国が介入するのは違約ではないか」


 舌打ちされた。ドブガエルめ、文字が読めるのかと小声で言っている。離れているが聞こえるものは聞こえるのだ。


 そういえば、ボゾンさまやメリタさま、マルグリッドさまの好みをしらないな。もう少し親睦を深めないとだ。ドラゴニュートには食べてはいけないものとかある可能性がある。腸内細菌的な話で。


「……」


 沈黙──直後、騎士が剣を抜いた。


「アルパイン卿、身の程をわきまえたほうがよろしい。税を払うのか、略奪されるのか」


 ガラは護衛だ。少なくとも僕はそうだと任せている。剣を抜かれた。ならば長身の女エルフの奴隷はやるのだ。


 机を飛び越え、ガラが腰に下げていた剣を両手で渾身、騎士の頭を殴り割った。背筋の全てと重力加速と体重の全てが載った一撃は、砲弾型の兜が剣を滑らせることさえも許されずに頭蓋諸共叩き潰され、スリットから血を吹く。もう一人、騎士は対応して剣を構え、鎧でよく防げるよう備え同時に突き入れだ。騎士の剣先がガラへ迫る!


 ガラは両手で握っていた剣から片手を外し体を半分ズラして直線的な剣を胸で受けた。ギャリギャリと火花が散り、しかし騎士ならば即座に力任せに剣を動かすとか籠手で殴るなり繋がるだろうが、その隙をガラは許さない。


 剣を離し短く握りこみ、騎士の兜の隙間へ剣先を捩じ込む。顔、目、頭蓋の穴を破壊しながら脳を貫き兜の裏に当たって突き飛ばされた騎士は後ろへ仰け反り倒れた。倒れる騎士から金属の擦れる音とともに剣が抜かれる。視神経を断ち切れた目玉が床を転がった。


「徴税官殿」


「なんだ」と、ふてぶてしく答えられた。


 護衛の騎士二人が倒された。


 だが偽徴税官は落ち着いている。


 それは僕がピストルのコックを起こして銃口を向け、その額に青白い銃創と後頭部から脳漿を壁に叩きつけて倒れて死体になっても変わらなかった。


「何家の使いだった?」


「ファルシス家です」


「……それ、家の名前か?」


「どうしてでしょうか、主人」


「ファルシス人て騎馬の民族がいる」


「……クロマキアに土地をもった遊牧民ですか」


「帝国のオークションには外人も多くいた。『そういうこと』もあるか」


 確か中央の砂海では民族同士の戦いが続いていたかな。しかしアリアン人とファルシス人の衝突は、クロマキアまでは関係のないことだ。流れてきて賢く金貨を回収しようとはかったというところだろう。


 東副帝は本当に、クロマキアへ色々な民族を押し込んでいる。多民族にも限度があるし、こんな腐った土地に何を好き好んで……。


 まあいい。


 騎士の生き残りが先だ。


「電信。生かして帰すな」


 町が騒がしい。


 あちこちでドラゴニュートが中身ファルシス系騎士を襲っていた。馬で駆け出した騎士数人をドラゴンが攫う。ドラゴンは馬よりも速いのだ。


 死体を片付けるガラに、


「僕は奴隷商会の人間だが──」


 僕らしくない質問だ。


「──勇者になれると思うか」


「奴隷商人をやめることです」とガラは即答した。


 善性のある秩序側の人間であるならば。


 お互いに苦労するな。


 ガラは勇者さまのために善性でありたい。秩序側であろうとするために、『正義の味方ではなく悪の敵になろうとしている』のだ。


 僕はガラのために、正義こそが授かるはずの勇者と呼ばれる称号が欲しい。


 だがお互いその根っこは……難儀するな。


 ガラは知っているのだろうか。


 正しい人間は、同じ人間を例え悪いやつでも殺してしまえば悲しむものなのだ。ガラ、君は騎士二人を殺したが何か感じているだろうか。


 僕の目には、雑草を引き抜き、小石を蹴飛ばすように人を殺して何も感じてはいないようにしか見えない。


「ボゾンさまに今後のクロマキアを相談しないとな。彼女がクロマキアを支配する……いや復興するわけなのだから」


 独り言なのだと思うことにした。


 ふと、目を瞑れば感じる。


 ドブガエルにだって悲しさはあるのだ。


 誰かの視界に入ることが罪であり、醜悪さを晒せば棒で打たれるだけで済むなら容易い。醜い、それは殺されるだけの価値があったのだろう。町を歩けば殺されかける。悪党にではない。普通の人間が、『普通の正しい感性』でドブガエルを潰して死体を捨てる穴に放り込んでしまいたいと『自然に思えて実行できる』のだ。


 ガラ、正しさとはいったい何なのだろうな。


 僕は大嫌いだ。


 悪いやつは、悪いやつにしか救えない。


 救われてはならないという世界なのに。


 僕はだからこそ奴隷商人をやっている。


 今夜のパスタは中止だ。


 パスタを湯がいている。


 燃料は家畜の糞、木は貴重品だが家畜がいる。虫や、土の中で暮らすモグラが家畜だ。水も少しだけ深いが大きな井戸から汲みあげることになるができる。


 だから、小クロマキアの痩せた土地でパスタを食べられる。


「母上、クロマキアですね」とマルグリッドは冷たく平坦に言った。


「そうですね、マルグリッド」とボゾンは娘であり自分自身をチラリと見るが……。


 ボゾン女王がみずから大釜で茹でた。


 本当は乾燥した麺を水で戻すだけだ。


 水を温めないのだから当然に冷たい。


 だがボゾン女王が振る舞うときには『温かい食事』だと住民が集まる。彼女の人気と知名度は一番だ。ドラゴニュートとしての姿は忘れられている。


「ほーほっほっー!」とボゾンは高笑い、パスタを次々と盛り付けては、もっと!とねだる連中を尻尾で追い立て次を盛り付けた。


 マルグリッドは、母ボゾンが調子にのっているなと思っていた。思慮深いようで案外、お調子者なことを知っていた。


(メリタとフェオドラは不仲だし)


 無愛想にパスタにソースをかけた。


 メリタが心配しているのは、上の姉二人だ。何を思ったのか、長姉メリタが次姉フェオドラの『騎士』を奪って成り代わっていた。


 それは……ボゾンのクローンであり、容姿がまったく同じ姉妹のなかでは禁忌だ。


(変わってしまう)


 ソース、煮込んで潰れた野菜、マルグリッドには内臓のように見えた。

欲しい、何を犠牲にしてでも。その犠牲が姉妹であっても。自分の爪が私という証拠を残したがっている……衝突でしか表現できないドラゴニュート長女は迷い続けています。

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