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第一話 親友、僕ら嫌われてるかも。

奴隷商人のアルパインが勘違いされています。

デブガリ戦記


第一話 親友、僕ら嫌われてるかも。




「好きで死んだわけではない」


 美しい母の乳首から乳を貰って育った。


 慈悲深さに泣き、元気な子だと褒められた。


 魔法を失敗してクッキーが弾けても、魔法が使えるなんて天才ね! と褒められた。


 父は奴隷商人で、母は性奴隷だった。


「クリスぅ」


「ふふっ、何かしら私だけのご主人さま!」


「いややめて、クリス二世の前でキスはやめて」


「ふざけてるの?」と母クリスは底冷えする声で、


「ケルマ二世よ、あなたの息子だもの」


「そっちの息子はやめろぉ!」


「もう、最近全然勃たないくせに娼館にいくんだもの」


「クリスが怖いからだ」


 僕はそんな親子の間ですくすくと育って、当たり前のように奴隷商会を継いだのだ。


 倫理的に問題のあるような奴隷のやりとりも、もうすっかり慣れてケルマ二世として奴隷商人の支部だって取り仕切るし、それは仕入れから販売に点検など保守まで一任された一人前だということだ。


 奴隷商人をやっています。


 けっこう儲かっています。


「ぐふっ、ぐふふ……」


 ケルマ奴隷商会の執務室で、僕は笑い声を漏らす。最近は癖になっているので気をつけなければならない。


 護衛の女エルフ騎士ガラが、兜で表情を隠しているが、その鉄の中で引きつった顔であるのを僕は知っているのだ。


 防具は頭だけで、首から下は目を潤すようなシルクだ。小妖精のように肉体と爆乳を晒していると言える。エロいのだ。揉もうとは思わないが。……性奴隷見習いの少女たちに酷い目にあったことがトラウマになっているわけではない。


「ガラ」


 机の上の契約書と金貨の山に囲まれて、しかし仕事はあまりない。部下の判断を信じるか信じないかを承認するのが仕事だ。


 奴隷商会の頭だから自分の目利きで仕入れや販売をするのは趣味でしかない。頭は、頭を使うから頭なのだと父は賢いことを言った気がする。


「ガラ?」


 濁音が強くて名前から美女の印象が全くないエルフが返事をしない。


「ガラ!」


「ひゃい!」


 やっと返事をした……。


 待ち合わせについて聞きたいのだ。


「我が友はいったいいつ顔を出すのだ? そろそろ太陽が頭上を通り過ぎると思うのだがね」


 ぎぃ……。


 僕はゆっくりと高級椅子から立ち上がる。


 ガラに近寄った。


 僕の背はガラの乳より低く、横幅は倍はありそうだ。もしかすれば彼女から僕を見下ろすと見えていないのではないかと時々思ってしまう。


「駄目じゃないか。すぐに返事をしないと。お仕置きが必要かなぁ、ぐふっ、ぐふっ」


「ッ!? も、申し訳ございません!」


 怯えた声だ。


「どうした? 声が震えているではないか」


「そのようなことは……」


「怖いのか? 貴様、この僕を醜いと見下したな?」


「め、め、滅相もございません!!」


 ガラは土下座した。


 膝を床につけ、額を何度も叩きつける。


 大きなお尻が突き上げられていて目のやりばに困る……ガラはエッチなのだから自重してほしいものだ。山と山の谷間が……うぅ。


「おやおや、私の親友? まぁたガラを虐めているようですねぇ」


 粘りつくような声色で男が執務室のドアをノックもなしに入ってくる。そんなのは僕の親友スネアくらいなものだ。


 蛇のような無機質な瞳孔を開いたような死んだ目をチラリと一瞬覗かせてすぐ、高身長の彼はいつもの線目にどんなときでも笑顔を貼り付けている表情を浮かべる。


 胡散臭い男だ。


 たぶん王国とか裏で牛耳ってる。


「スネアさま!」とガラは頭をあげるが、


「へぇ、スネアが来たと分かればすぐに……」


 お客さまのスネア前で土下座は恥ずかしいよね。


「も、申しわけ……」


 ガラが今にも死にそうな声だったので、休暇を取ってもらうことにした。


「は……い……」とガラは退出する。


 スネアと二人きりだ。


 僕は金貨を袋に、契約書を机に片付けた。


「ケルマ二世は相変わらずおっかないですねぇ、ガラのあの怯えっぷり! 流石は奴隷商人の元締めと言えるのでしょうかな?」


「ふふっ、アルパインとは呼ばんのか? ケルマ二世とはどうもな……」


「おやこれは失礼を──『アルパイン卿』殿下」


「ぐふふ、やはり名前は心地が良い響きだな!」


 アルパインとは母ではなく父が名づけてくれた名前だ。ケルマ二世はアルパインでもある。パイナップルみたいな響きでちょっと好きなのだ。最近、果物を探している。


「それでスネア、用があるからと来たのだよな?」


「ははは、そうでした、アルパイン卿はおしゃべりがお嫌いでしたな。特によくお滑りになるお口が……」


「卿はいらんよ。僕とスネアの仲ではないか。なぁ、スネアよ」


「ですな、アルパイン」


「それにだ。僕はおしゃべりが大好きだぞ。この舌は正直だ。聞きたいことを、つい教えてしまう」


「……肝に命じておきましょう」


「スネアほどの親友なら問題など起こりようがないとは思うがね」


「ははは。えぇ、この私スネアは古い友人であり続けましょう、アルパイン」


 実際は対等どころではない、スネアは商人だが傭兵事業なども手掛けて幅広く牛耳っている。僕はスネアから特権として奴隷業を剥ぎ取っているような形だ。


 切っても切れぬ縁、スネアにとっては忌々しい刺さった棘なのかもだが、奴隷くらい利権は守りたいものである。


「本題なのですが……」


──ガラが聞き耳を立てていた。


 扉に耳を当て、防音魔法を中和することで秘密の会合の中身を聞き出そうとしている。増幅された聴力のエルフ耳がそばだてる。


「召喚戦士が……」


 召喚戦士? ガラは聞き慣れない単語を心の中に書き留めた。考える仕事は彼女ではない。


「大規模な戦争で国が……王族も借り入れどきで……」


「保護……銀行から……」


 途切れ途切れの断片だ。


 だがガラの脳内では素早く、意味を組み立てた。


 亡国の姫君を手慰みに奴隷狩りをする!


 ガラはすぐさまこの情報を、勇者たちに伝える為に走ろうとして──


「おやおや」


「あっ……あっ……」


──扉が開いた。


 立っていたのは、『史上最悪の奴隷商人』の怪物アルパインと組んで王国を腐らせている男スネアだ。


 馬鹿な!


 ガラは内心で叫んでいた。


 足音などなかったのだ。


 扉を開ける音にも気がつかなかった。


「悪い子ですねぇ」


「おい、スネア!」と『ご主人』が叫んだ。


「ふふっ、私は何も……悪い子はお仕置きを、楽しみたいようですよ、アルパイン」


 ガラは絶望した。


 執務室の最深では、


「ぐふっ、ぐふふ」


 腐ったドブガエルのようなチビでデブ、性欲の生物であって断じて人間種ではないおぞましい怪物が立ち上がり、膨らませ、立っていたのだ。


 スネアが出て、招かれるままにガラが入る。


 扉はゆっくりと閉まり、防音魔法が全てを消した。

亡国で追っ手から逃げる王族の女たちに奴隷商人の毒手が迫る……果たして彼女たちは逃げられるのでしょうか?

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