ある勇者の生涯
処女作です。誤字脱字は大目に見て欲しい。
俺は勇者だ。魔王を倒して世界を救った。
―――――俺は結局救われなかったが。
俺は辺境とはいえないが田舎の村に生まれた。
生活は大変だったが、貧しいというほどではなくそこそこ飯は食えた。小さな村だったが、穏やかで争いも少なく平和で心地良い所だった。
俺には幼なじみの女の子がいた。
「ねぇ、●●●!こっち来てよ!」
「待ってよ、今いくから!」
なんてやり取りをしてはよく一緒に遊んでいた。
村の中では一番仲が良くて、優しい性格をしたその子に俺はよく構っていた。今から思えばそれが初恋だったのだろう。
・・・今の俺にはその子はおろか、自分の名前すら思い出せないが。
この世界には魔王がいて、人々を襲う魔物の脅威に溢れていた。
魔王の下には、魔王を崇拝する魔族がいて人間の国家とよく戦争をしていた。しかし長い間決着が付かず、膠着状態になっていた。魔物の被害は相変わらず多かった。
―――――俺は小さい頃、騎士になりたかった。
今でこそ平和だが、いつ魔物や魔族の被害に遭ってもおかしくはなかった。だから、俺は騎士になってこの村を守り、家族と幸せに暮らすことが夢だった。
もちろん勇者にも憧れたが、自分には到底無理だと分かっていた。
だがそれでも、村の農作業の合間で仲の良い友達と剣術の鍛練(今からすれば、チャンバラでしかない)をするくらいには憧れたし、勇者は好きだった。
俺が15歳になったとき、ある程度の自由が手に入るので立派な騎士になるために、村を出て王都へ行くつもりだった。だから俺はその子に告白をした。
「俺が立派な騎士になったときは結婚してほしい。」
「うん!楽しみに待ってる!」
その子は俺のつたない告白を笑って受け入れてくれた。とても嬉しくて、その時は何でも出来そうな気がした。
村から王都までは片道で丸1日かかる道のりだった。王都に着いて、両親がくれたお金を頼りに年中募集している騎士の採用試験のための訓練所へ行った。
俺はそこである男と会った。
「よう!お前も騎士志願者か?あー、俺の名前はアルディートだ。よろしくな!」
「俺は●●●だ。よろしく!なぁ、アルって呼んでいいか?」
「おう、いいぞ!じゃあ俺も●●●って呼ぶぞ」
「ああ、一緒に頑張ろうぜ。」
アルはなにかと俺に絡んできて、俺のことを田舎者だとバカにせずよく酒をおごってくれた。
訓練所は入所にお金が必要だが、一度入ると出ていくまでは厳しい訓練のかわりに寮に入ることができ、そこでは無料で食事ができた。
週1の休みでは近隣の魔物を狩り、そのお金で好きな物を食べたりもできた。
俺とアルはもう親友と呼べる間柄になっていた。
楽しかった。俺はそこで2年間の訓練のあと、騎士団への推薦状をもらって騎士になる予定だった。
1年半が経って、
―――俺の村が襲撃されたという情報が耳に入ってきた。
すぐには理解できず、周りに何度も確認し直したがどうやら本当に襲撃されたらしかった。
俺は急いで村へ戻った。
もう遅いという奴もいたが、全て無視して来るときは丸1日かかった道のりを相場より高い金を払って無理矢理半日で帰った。
――――そこは地獄だった。
燃えて炭となった家、その家の下敷きになった人や切り裂かれて死んだ人、顔もわからないほど潰れてしまった人もいた。村中の畑は焼かれ昔の姿は跡形もなかった。
俺の夢を応援してくれた両親も、村に帰ったら結婚する約束をしていた初恋の子も、一緒にチャンバラをした友達も、皆死んでいた。
俺は吐いた。しかしそれでも誰か生きていることを諦めきれず、村中を見て回った。しかし、生きている人などいなかった。
当然だった。村が襲撃されて、俺がここに着くまでに丸1日以上かかっている。生きている人など・・・
いるはずもなかった。
俺は王都へ帰った。同じ訓練所の皆は慰めてくれたが、俺には魔族への憎悪しかなかった。
そこから俺は訓練をした。今までの訓練がまるで天国かのような地獄の訓練をした。皆は心配してくれたが、俺は血反吐を吐きながらも訓練を続けた。・・・この世の全ての魔族を怨みながら。
アルはそんな俺を見捨てずに一緒に同じ訓練をして、俺を気遣ってくれた。俺はそんなアルを気にもしなかった。
半年後、俺とアルは晴れて騎士になった。だが、"今さらなんだ、もう遅いんだよ"という気持ちしかもてなかった。
・・・守りたかったものはもうないのだから。
騎士になっても俺は訓練を続けた。そして初めての戦争で何人もの魔族を殺すことができた。そのなかには俺の村を襲った奴もいた。村の皆の仇がとれ、とてもすっきりしたが、俺は全ての魔族を殺したかった。
アルはそんな俺を気に掛け、酒を飲んだり彼女を紹介してくれた。二人とも子供じゃないのに初々しく、微笑ましかった。彼女ならアルを幸せにしてくれると思い、盛大に祝ってやった。
初陣で多くの魔族を討ち取った俺は英雄だともてはやされた。
そんなことを繰り返しているうちに俺はいつしか勇者と呼ばれ始め、王からも勇者という認定をもらった。アルは出世した俺と対等に付き合ってくれて、とても嬉しかった。
勇者がいるという話は広がり、それに感化された各国の戦争も魔族相手に勝ち始めた。人類は長く続くこの戦争がやっと終わるという希望をもちはじめた。
俺は勇者となってから人の模範であるように、貧しい人には仕事と食料を与え、弱い人には優しく、罪を犯した人には慈悲をかけ、少しでも多くの人が幸せになれるように頑張った。
―――守りたい人を失い、仇を討った俺は人類の光であるようにする以外何もすべきこと、したいことが分からなくなっていた。その頃の俺の唯一の楽しみはアルと酒を飲むことだった。
ある戦争で俺は「聖女」と呼ばれる人と会った。聖女の力は人々を守り、その祈りはたとえ地獄に落ちたものでも救うことができるらしい。聖女のみ使用可能な結界魔法とものすごい効果の回復魔法は俺や多くの兵士を何度も救ってくれた。
彼女はまさしく聖女で、守りたいものがなくなった俺に対して
「ほらもう●●●さん!またそんな暗い顔して。ほらあの子供達をみてください。あの子達が笑顔になれたのも貴方のおかげなんですよ。もっと自信を持ってください!」
だなんて、幸せを説き、厳しくも優しく導いてくれた。そんな彼女に俺はいつしか恋をしており、それを自覚した日から俺の毎日は幸せだった。
―――守るべき人を見つけた、守りたい人を見つけた。
だから俺はより努力し、少しでも世界が平和になるように頑張った。
告白したとき、彼女もそんな俺に惹かれていたようでこの世界が平和になったら結婚しようと約束した。
そのころの俺は幸せの絶頂だった。
その日から俺は魔族の親玉である魔王を討伐するためにアルと協力して準備を始めた。
アルは子供が出来たようで、
「子供のためなら魔王でもなんでも倒してやるよ!」
とやる気になっていた。
ある日、聖女が魔族に誘拐されたという情報が届いた。就寝中にさらわれたらしい。
結界の張られている王都に魔族は入れないので、人間の協力者がいるらしかった。
俺は全ての計画や鍛練を一時的にやめ、聖女を奪還するために動いた。
·····聖女誘拐に協力した人間は、俺が慈悲をかけ通常より早く牢からでた奴らだった。
―――――俺の中でナニかにひびが入る音がした。
俺は捕まえた奴らから聖女の居場所を聞き出して救出に向かった。
魔族の中でも名のある奴が根城にしている城だった。
俺は止める人間の声を無視して最速でその城に向かった。
・・・強かった。俺はボロボロになって、片目が見えなくなっていた。
それでも俺は勝利し、聖女のいる地下牢へ向かった。
・・・聖女は死んでいた。最後まで抵抗したのか、その体にはたくさんの拷問のあとがあった。
――――俺の中のナニかから取り返しがつかないような音がした。
王都に帰り、魔族に協力したゴミどもを始末したあと、俺は彼女の願いだった世界平和のため途中までたてていた魔王討伐の計画を完成させた。
しかし、俺の強さが圧倒的にたりなかった。
だから俺は1年かけて、
禁呪と呼ばれる自分の命を削って放つ超高火力の技術を修得し、寿命を代償に身体強化する薬を開発させ、世界各地の達人のもとで修行した。文献しか残っていなかった悪魔召還を行い、悪魔と契約もした。
俺のなりふり構わない行動に多くの人は"狂ってる"と言った。俺の周りから人は減っていったが、俺はどうでもよかった。
・・・アルはそんな俺の無茶に付き合った挙げ句、俺のミスをフォローするために死んでしまった。
―――――この日、俺は人生で一番死んでしまいたいと思った。
1年が経ち、俺は魔王討伐に乗り出した。
俺の責で死んだアルの妻も、子供と一緒に俺を見送りに来てくれた。
・・・俺は何も言うことができなかった。
各国も支援をしてくれて、過去最大の戦争が起ころうとしていた。俺の存在もあり人類は破竹の勢いで魔族を倒し、囚われていた人々を助けた。
多くの人が感謝し、涙を流した。しかし、助けた人に
「何でもっと早く来なかったんだよ!もう遅いんだよ!お前が、お前がもっと早く来れば、妻は、妻は死ぬこともなかったのに!何が勇者だふざけるな!!」
と言われることもあった。
・・・俺の心はなにも動かなかった。
魔王城へ突入し、魔王と戦った。ここに来るまでに多くの人が犠牲になり、魔王と戦えるのは俺含めて数人しか居なかった。魔王は強かった。とんでもない強さだった。数人だけだった仲間は死に、俺も禁呪や開発された薬を使わないと勝てないほどに。
俺は魔王に勝った。自分の全てを犠牲にして世界を平和に導いた。このあと俺は死ぬだろう。薬を使った代償として、地獄の苦しみを味わいながら。
死んだ後、俺の魂は地獄へ落ちる。俺が悪魔と契約したのは、その力を使う代わりに死後俺の魂を奴に捧げるというものだからだ。
俺はやっと死ねることに、生きる理由を見出だせない自分の人生が終わることに、どこか安堵していた。
・・・辛かった。苦しかった。投げ出したかった。消えたかった。どうして俺だけがこんな思いをしなきゃいけないんだと思う。自分の大切な人は守れないのにどうでもいいその他のために命をかけ、こうして死んでいく。おかしいだろう。ふざけるな。そういってももはや何も変わらない、変えられない。
・・・ああ、本当にふざけてる。
そうして俺は、俺のおかげで平和になった世界を見ることもなく地獄へと落ちていた。・・・来世があるなら、もう一度だけ彼女に会えるかな?
こうして、勇者と呼ばれた俺の人生は終わった。
――――――どこからか、声が聞こえる。
俺が地獄へ来てからどのくらい経ったのか。
何年いや何千年だろう。
俺は剣山で体をバラバラにされ、血の池で溺れ、獄卒に体を引きちぎられこの世全ての苦しみを味わった。
そして、もう自我もなくなりかけた頃
「ルーク!手を伸ばして!一緒に行きましょう!もう貴方は救われてもいいはずです!」
そう・・・言われた気がした。
目を開けると、そこには俺の婚約者だった聖女とたった一人だけだった親友がいた。その後ろには村の皆や俺と一緒に魔王と戦ってくれた仲間達がいた。
夢かもしれない、俺が無意識に造り上げた幻かもしれない。いや、きっとそうだろう。
それでも俺は嬉しかった。もう二度と流れないと思っていた涙が止まらなかった。
「立てよルーク!ほら、一緒に行くぞ。」
・・・そうだ、俺はルークだ。俺の名前は、ルークだ!
俺は手を伸ばして彼女たちの手を取った。
「貴方のおかげで世界は平和になりましたよ。ありがとうございます。・・・これでやっと結婚ができますね!」
・・・ああ、俺はやっと幸せを手に入れられたんだ。
これまでの人生が全て報われた気がした。
俺は今、幸せだ。
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