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1.(2)

 それからの日々は流れるように過ぎていった。

 学年が変わり、クラスが変わり、そして新しい生活が始まり、理亜の存在は瞬く間に学校から薄れていった。学校側から音羽の部屋を別室に移動する案も出されたが、音羽はそれを頑なに断った。


 みんなが忘れていく理亜の存在を、音羽だけは覚えておきたかったから。


 しかし、すでにこの部屋からも理亜の痕跡は消えつつある。

 二段ベッドの彼女が使っていた下のベッドには、クリーニングから戻ってきた布団が袋に入ったまま置かれてある。彼女が使っていた荷物は、もう何一つ残っていない。


 あの日、二人で一緒に段ボールから出して片付けた彼女の物は、何も。


 理亜の家族が荷物を引き取りにきたのはいつのことだっただろう。葬儀が終わって数日ほど経った頃だっただろうか。

 憔悴しきった顔で淡々と理亜の荷物を段ボールに詰め込んでいく彼女の両親は、一度だって音羽の顔を見ることはなかった。

 一つ、また一つと部屋から消えていく理亜との思い出を、音羽は部屋の隅に立って眺めていた。その隣に立つ彼女の弟もまた、同じように。

 小学生くらいだろうか。理亜とはあまり似ていない顔立ちの少年だった。思えば、彼女から家族の話を聞いたことがない。弟がいたことを知ったのも、そのときが初めてだ。

 彼女は自分のことよりも音羽のことを話したがっていた。音羽のことを知りたがっていた。

 だから音羽は昔の彼女のことは何も知らない。知っているのは、この寮で暮らし始めてからの彼女だけ。


 どうして何も話してくれなかったのだろう。どうして自分は何も聞かなかったのだろう。


 そんな思いがないわけではない。

 けれどもう、今更だ。

 今更彼女のことを知ったところで、理亜が戻ってくることはないのだから。


「――理亜、なんで死んだの?」


 すぐ隣で呟かれた悲しそうな声に視線を向ける。理亜の弟は、泣き腫らした目で両親の動きを眺めていた。耐えるように、その薄い唇を震わせながら。


 ――どうして。


 そんなこと、誰にもわかるはずがない。

 ただ一つはっきりしていることは、もう彼女はこの世のどこにもいないということだけだった。


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