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7-これで終わりか⁉︎

 諦めかけたその時、


「睦!」


 かすかに聞こえる声。

 ……誰だ?

 そして、何かが俺の視界を横切った。


「リャアー!」

『……!』


 呻く様な“声”。

 そしてわずかな衝撃ののち、腕の力が緩んだ。

 俺はすぐさまそこから抜け出す。

 助かった……いや、誰かが助けてくれた⁉︎

 振り返ると、そこにいたのは……

 

「彰人⁉︎ 何で?」

「昨日のあのダルマさ、どっかで見た気がしてたんだが……あの祠のヤツじゃないのか?」

「お……おう」

「やっぱりか。それを気になって確認しようかと思い、朝一に睦の部屋へ行ったんだ。でも留守だったんで、どうしたものかと思ってたら睦が学校の方へ向かう姿が見えてさ。この祠に行くつもりだと思ったんだよ。で、慌てて後を追ってきたらこの状況に出くわしたって訳だ。ところでアレは……何だ?」


 彰人は佇むヤツに視線を向けた。

 そして、構えをとる。

 確か小さい頃から拳法だが空手だかやってたんだっけ? にしてもそれでヤツとやり合う気か?

 にしてもコイツ、昔っから恐怖心が欠けてるというか……無茶を平気でやるヤツだったな、そういえば。ネットにおバカなチャレンジ動画をあげてる外人連中と同類なのかもしれん。

 それはともかく、だ。


「俺にも分からんよ。いきなり後ろから襲われたんだ。……あの腕、別にワイヤーかなんかで操ってるワケじゃないみたいだぜ?」

「ふ〜む? そうか。誰かのいたずらかと思いきや、ホンモノの怪物なのか。実物見たら信じざるを得んな。……ゲームでよくあるスケルトンの類ってトコか? あるいはボーンゴーレム? まさかこんなモノが現実にいるとはな」

「オイオイ……」


 ヨユーじゃねーか。

 ……と思ったら、冷や汗垂らしてやがる。

 そりゃ当たり前か。……って、安心してる場合じゃないな。

 と、思ったら怪物が動いた。


『!』


 ヤツの抜手が彰人を襲う。

 しかし彰人はそれをスウェーでかわした。そして、


「ハッ!」


 そのまま脚を踏み込み……

 いや、スケルトンの左足を踏み砕きやがった。

 そして今度は前蹴りで、ヤツの右脚の膝関節を粉砕する。

 たまらず頽れるスケルトン。

 っつーかアイツ、エゲツねェ……

 しかし、


「!」

「何だと⁉︎」


 ボロ布の中から更に一対の脚が現れ、踏みとどまった。

 ……もしかして、元は人間じゃなくて手足がたくさんある生物とか?

 いやまさか。どう見ても、アレは人間の手足だもんな。

 もしかして、あのボロ布の中に二体以上のスケルトンがいるのか? それとも、一つの胴体に手足が多数をくっつける改造を施されたヤツか? ゲームにはありそうだが。

 ……しかしコイツが何者であれ、どうにかしないといけないんだよな。

 助太刀されてる俺が観戦だけしてる訳にはいかん。水希を助けるのは俺なんだ。


「ヤロウ!」


 木刀で殴りかかる。

 それは、右手にヒットし、数本の指が砕け散った。


「……ッシ!」


 ダメージ有りだ。

 さらに彰人が蹴りを左手にヒットさせ、指を数本蹴り飛ばす。そしてすぐさまそれを踏み砕いた。

 おっしゃ。こうやってちょっとずつケズって行けば何とかなりそう? で、動きが鈍ったところで一斉に逃げれば……

 ……そう思った直後。


『…………』


 ヤツは声にならぬ唸りを上げた。


「うおっ⁉︎」

「ぐぅっ!」


 頭が締め付けられる様に痛い。

 クソッ。コレはマズい。

 俺達は頭を抱えて(くずお)れた。

 そして


『ーー‼︎』


 ヤツから放たれる衝撃波。

 闇の咆哮とも言うべきそれは、俺たちをたやすく弾き飛ばす。


「うっ!」

「ぐおっ!」


 俺は地面に叩きつけられ、呻いた。

 それでも何とか身を起こす。

 ……そういえば、あいつは?


「くっ……彰人、無事か⁉︎」


 視線を向ける。が、彰人は木の下で倒れたままだ。どうやらあの幹に叩きつられたらしい。

 そして木刀は少し離れたところに転がっている。

 クソッ、ちょっと遠いぜ。取りに行く間にヤツにやられちまうか……。


「くそっ!」


 これで終わりか⁉︎ 彰人まで巻き込んでしまって……

 いや、まだだ。ここで諦めてどうなる。

 ……しかし、どうすりゃいい? ……ン?

 俺の左手が、何かに触れた。

 ン? コレは……そうか。

 ポケットからこぼれた“それ”。

 ばあちゃんからもらったお守りだ。

 ええい。イワシの頭もナントヤラ、だ! ばあちゃん! 俺を守ってくれ!

 祈りつつ、それを投げつける。


『……ァアッ!』


 命中。ヤツが“声”を上げた。

 当たった所から白煙が上がってやがる。……効果アリ? 休みにでも肩揉みいくぜ、ばあちゃん!

 なら、次は桐咲神社のお守りだ! こいつも持ってけ!


『ガアッ!』


 命中。そして、さらなる絶叫。

 おっしゃ。いい感じだ。

 次は……

 って、弾切れか!

 お……オワタ?

 いや、まだあったハズ。確かあのお札はポケットに……

 ……って無いィ⁉︎ どこ行った?

 視線を巡らす。


「……あ」


 数メートル先に転がってやがる。

 何とか取りに……って、ヤツが邪魔だ。すぐそばに居やがる。

 つか、俺の意図を察して待ち受けてやがる。

 あ、今度こそ終わった。スマン、水希、そして彰人……

 そう思ったその時、


「!」


 お札が淡い光を放った。


『オォォ……』


 絶叫。そしてヤツはよろめきつつ後ずさった。

 な……何が起きた⁉︎ あの光は一体? 助けて……くれたのか?

 そしてお札の上に、陽炎の様なモノが浮かび上がる。

 誰だ? ……いや、あれは。

 思い出した。夢の中のヴィジョン。

 炎の中に佇むシルエット。

 アレはおそらく、怨霊と化した神主。そして昨晩ダルマに宿って俺を襲ったモノ。だが……ずいぶんと穏やかな顔だ。


「何故、俺を?」


 だが“それ”は俺の問いに答えることなく消失した。

 が、何となく言わんとすることはわかった。

 身を起こし、ダッシュ。そしてお札を掴んだ。そしてヤツに向き直る。

 ヤツは呆然とした様に立ちすくんでやがる。

 チャンスだ。

 木刀の先端にお札を巻きつける。そして、


「喰らいな!」


 それをヤツに向かって突き入れた。

 バチバチと弾ける様な音。そして上がる白煙。


『お……オぉ……』


 ヤツが苦悶の“声”を上げた。

 聞いてる、か。なら……

 さらに深く突き入れる。


『あ゛アぁア゛あァぁあ゛ーーッ‼︎』


 絶叫。そして……


『あ……ァ……』


 ヤツは白煙となって消えた。

 そして後に残るのは……小さなボロ布と、わずかな骨片。


「終わっ……た?」


 俺はそのままへたり込んだ。



 数分の忘我。

 そして我に返る。

 ……おっと、いかん。また終わっちゃいなかった。

 立ち上がり……またへたり込む。

 ハハ……足に力が入らねぇ。ああ、情けない。

 そのまま這いつくばってお札を拾い上げた。

 とりあえず、これをダルマに貼ってこの場所に戻せばこの件は終わりだ。そうすれば、水希も元に戻るだろう。

 ……多分。

 俺は木刀を杖代わりに立ち上がろうと……

 あ……いかん。目眩が。

 何で、こんな、時、に……。

 暗転。



――闇の中。

『……少年』


 誰かの声。


「? 誰だ?」


 男の声。聞き覚えは、無い。

 と、ぼんやりとした視界の中に、淡い影が浮かび上がる。

 あれは、さっき見たモノ。神主の姿だ。


『感謝する』


 その言葉と同時に弾ける淡い光。そして流れ込んでくる“記憶”。

 ……ああ、そうか。

 神主の怨霊は、遠方へ逃亡した最後の一人を仕留め損ねた無念さを抱いたままだった。だから、封印を剥がした水希を乗っ取って最後の一人を探し出そうとしたのか。あれから何十年、事故死していなかったとしても間違いなくすでに死んでいたヤツを……

 おそらくそれは、強い恨みによる狂気故か。

 だが、彼女を乗っ取ることはできなかった。それは、彼女が神主の子孫であるが故に。

 だからこそ、水希の家にあの資料が残っていたのだろう。

 まー、本人は知らなかった様だがな。

 ともあれ、結果的にダルマの“中”に彼女が取り込まれてしまったワケだ。

 ……今、その肉体がどーなってるかはワカラン。オカルト的なハナシだから、質量保存の法則もあったモンじゃなかろうし。つか、どうして身体ごと取り込まれてたかとか、分からんことだらけだ。……考えるだけ無駄かもな。

 それはともかく、だ。

 さっきのアレは、神主の怨念でとり殺された者たちの成れの果てらしい。あのダルマが封じてたのは、神主の怨念だけじゃなかったのか。

 ……そりゃ、そうだよな。誰だって殺されたくないし、殺されたら恨みを持つだろう。

 まぁ、あの地上げ屋連中には全く同情できんけど。自業自得だしな。

 何にせよ、これで神主の怨念は消えた。

 あとは……


「……」


 ン? 別の声だ。男の声。


「おい、起きろ」


 聞き覚えがある声。確か、これは……


「睦、起きろ!」

「おうっ⁉︎」


 頬に衝撃。

 そして俺の意識は一気に覚醒した。

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