3-にしても、ムナシイ
――部屋
「カバン、ココに置くぜ」
彰人が玄関先の床上にカバンを並べておいた。
「すまんな」
「……にしても、当の本人は鞄放り出して何処へ行ったんだ? しかもこんな物まで押し付けてさ。このダルマ、なんか変な雰囲気だし……もしかして、呪われてるんじゃないか?」
彰人はコンコンとダルマの頭を叩いた。冗談めかして言ってるが、コイツ、妙なところで鋭いんだよな〜。
『痛ッ!』
と、水希の“声”がかすかに聞こえた。
あ゛。ちょっとヤバいか?
「ン? 何だ、今の?」
「どうした? 何かあったか?」
とりあえず、何も気づかなかった振りをして声をかけてみる。
「いや、妙な声がな」
戸惑ったような顔。どうやら確証はないようだな。
「声? いや……俺は何も聞こえなかったぜ? 気のせいじゃね?」
「そ、そうか……」
俺の答えに彰人は首をひねっているものの、それ以上は追及しないようだ。
……セーフか。
「……それよりさ、いつまで置いとくんだ? その鞄とダルマ」
「多分、もうしばらくしたら連絡があるさ」
「……そうか。何かあっても、断るべきところは断れよ。それじゃ、俺はこれで」
そして彰人は去っていった。
「ああ。ありがとう。またな」
俺はヤツを見送り、扉を閉める。
そして、
『な……なんなのアイツ! そっ、そりゃ、あたしもちょっとだけ強引だったかな〜〜、なんて思う事もあるけどさっ! ……あのっ、マコちゃんも迷惑じゃ……ないよね?』
早速水希が憤慨している。が、少し自信なさげだ。
「……俺と水希の仲だからな。気にしちゃいない」
半分諦めてるともいう。
『あ、ありがとう! マコちゃんだけが頼りだよ!』
一応感謝してくれてるようだ。
まっ、そうまで言うなら仕方ねーか。
……にしても、ハラ減ったな。それに汗だくだから、シャワーも浴びたい。
とりあえず部屋に上がると真ん中あたりにダルマを置き、クローゼットを……
『えっ、ちょっと、ココで着替えるの⁉︎』
しまった。コイツこれでも一応女だった。仕方ねぇ、向こうで着替えてくるか。
俺は着替えをまとめると、洗面所へと向かった。
着替えを終え、部屋に戻る。
そして、俺はベッドに座って水希を見た。
「ところでその身体、どうなってるんだ? 感覚はあるみたいだけれど……」
『うん……。だいたい上半分は顔と頭、下半分が胴体に相当するみたいね』
ふむ、見たまんまか。
彼女の前に座る。
そして側面真ん中辺りを触った。
「ここは?」
『首筋と肩ね。あ、あんまり下は触らないでよ。さっきだって我慢してたんだから』
「そ、そうか。ところで……ソレ、中は中空だろ? 内面触ったらどうなるんだろうな」
『な、な、何考えてるのさこのスケベ! ヘンタイ! 女の子のカダラに手を入れようなんて……。さっきは竹刀をムリヤリねじ込もうと……』
「オイ、待て! ヘンな意味じゃねぇよ!」
でも、よく考えたら……コレ全裸なんだよな。一応……
『へ〜〜、どーだか。あそこに隠してある本……』
げっ……俺の背面、ベッドの下には確か……
コイツ、こんな姿でも冷静に部屋の中観察してやがった!
「コイツ、言いたいコト言いやがって……そんなヤツはこうだ!」
『わひゃあっ⁉︎』
テキトーにベタベタ触ってやる。
『あ゛あ゛あ゛ぁ……どどどどこ触ってんの! そこは、そこだけはダメっ! ってこの(以下聞くに堪えない罵詈雑言)』
半泣き状態で喚いてるが、無視。そしてトドメは穴あきクッションの上に、逆さまで置いてやった。
……にしても、ムナシイ。だって俺には張子の人形撫でてる感触しかないもんな〜。
思わずタメイキ。
……とりあえず、シャワーだ。
――十数分後
サッパリした俺は牛乳を飲みつつ部屋に戻った。
『このバカッ! ヘンタイ! あたしにこんなカッコさせた挙句にシャワーまで浴びて! そこの本みたいなコトするんでしょ⁉︎』
オイ。ムチャクチャ言ってやがる。
「……なぁ、今の自分の姿を冷静に観察してみてくれ」
椅子に倒れ込みつつ問う。
『動けないのをいいことに、は、裸のまま恥ずかしい場所を晒されてる……』
「……俺の目の前にあるのはひっくり返ったダルマなんだが」
『し、失礼ね! ウソでもいいからイヤラシイ事考えてよ!』
「ゴメン無理」
だって今は髭面のオッサンだし。
『ケチぃ。だからマコちゃんなんだよ』
どーいうイミやねんソレは。
ため息をつきつつ、元に戻してやる。
「それはそうと……どうするんだ? 家には連絡しなきゃいかんだろ? 今すぐ戻れそうにないしな」
『うっ……ど、どうしよう。そうだ、マコちゃん、ウチに連絡してくれる? マコちゃんの家に泊まるって』
「ヲイ……。そんなこと言ったら親父さんに怒鳴り込まれるがな。幾らナンでも男の家に一泊するってのはマズかろう」
『えっと、じゃぁ……友達のところに泊まってるっていうコトにしてもらうわ。麻耶ちゃんの所なら大丈夫だと思う。でも……』
麻耶……村瀬麻耶だっけ。水希のクラスメートか。俺とはあまり接点はないな。
しかし、だ。
「スマホ借りて、俺がメール打っとくしかないか」
『……それしかないか〜。えっと……ロック解除しないといけないよね』
「ああ。……とりあえず問題が解決したら、暗証番号変えてくれ」
『そ……そうだね』
「スマンな。……鞄開けるぞ」
俺は彼女の鞄からスマホを取り出す。
……やはりロックがかかってるな。
「暗証番号を教えてくれ」
『うっ……』
「どうした?」
ま、いきなり暗証番号教えろつっても抵抗はあるか。
『わ、分かったって。教えるから。番号は……』
「……おう」
ふむ? 何か覚えのある数字だな。
も、もしかして俺の誕生日⁉︎ いや、まさか……
とりあえず冷静なフリだ。
よし、ロック解除。
「で、どれだっけ……」
インスタントメッセンジャーを開いて彼女に示す。
『え〜っと、麻耶ちゃんはその画面の上から3番目。そう、それ。……他のは見ないでね?』
「分かってるって」
と言いつつも、さりげなく他の面子を見る。が、見える範囲じゃ親父さん以外の男はいない様だ。
「大丈夫だ。……これだな。とりあえず、文面を教えてくれ」
――約十分後
なんとか水希の友人の了解を取り付け、家族にも連絡を入れておいた。正直、確認の電話がかかってきたらどうしようかとヒヤヒヤしたぜ。
それに……水希の文面をマネるのが、ここまで疲れるとは思わなんだよ。よくあそこまで絵文字やら何やら使いこなせるもんだ。
「とりあえず明日までは大丈夫だが……明日中になんとかなるかな……」
明日は土曜日だから、昼間も調査可能だ。もしこれが平日だったらどうにもならん。この点はラッキーか。
『うぅ……それまでに戻れないと家出扱いになっちゃうかな。麻耶ちゃんにも迷惑かかるし……』
「まぁ、とりあえず写真の解析からだな。何か手がかりがあればいいが……」
と、言ったところで俺の腹が鳴った。
もう七時過ぎか……。仕方ねぇ。飯にするか。