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1-どうしてこうなった

「どうしてこうなった……」


 俺は目の前に佇む“それ”を見て、呆然とつぶやいた。

 訳が分からない意味不明な出来事に直面すると、人は笑うしかないのかもしれない。


「ハハ……どうしてこうなった」


 俺は再び、力なくつぶやいた。

 否。

 そうするしかなかった……



――先刻 桐花学園高等部 昇降口

 剣道部の練習を終えた俺達部員一同は、着替えをすませると各々帰宅の途についていた。


「なぁ、どっか寄って何か喰ってくか?」


 そんなことを言い出したのは、部の友人である吉倉哲也だ。相変わらず食い意地が張ってるな。


「オウ、腹も減ったし……角のラーメン屋でも行くか? それともバス通りの、新しく出来たお好み焼き屋か」


 応じたのはこれまた部の友人である野嶋慎吾だ。


「……(まこと)はどうする?」


 吉倉の視線。


「俺も行くよ。ついでに夕飯も済ませればいいしな」


 俺――高柳(たかやなぎ)睦――はそう応じた。

 俺は寮での一人暮らしだ。寮、と言っても賄いがついてるわけじゃないので自炊である。どうせ外食するならそこで済ませた方がラクだ。


「じゃ、決まりだな。どこにする?」


 と、野嶋が口にした直後、俺のスマホが鳴った。


「ン?」


 メールか? いや、これは……ちょっとヤな予感がする。

 インスタントメッセンジャーを開き、内容を確認。

 予想通りだ。思わずため息をつく。


「……スマン、行けなくなった。呼び出しだ」

「なんだ? ああ、カノジョか」


 と、吉倉。よりによってアレを『カノジョ』というか……


「いや、クサレ縁だ」

「可哀想ーに。幼馴染だっけか? でもいいよな〜、そーいうの」


 そこまで古い知り合いってワケじゃないがな。

 視線を向けると、野嶋がニヤニヤ笑ってやがる。この野郎……


「なら……代わってやろうか?」

「いや、エンリョしとく。だってオレ、カノジョいるし」

「なっ……」


 野嶋に彼女がいるとは初めて知った。


「慎吾なんぞに先を越されただとォ⁉︎」


 隣で愕然としている吉倉。そこまで絶望的な顔せんでもええがな……


「オイィ⁉︎ どーいうイミだよ!」


 野嶋が噛み付いた。それをきっかけに、何やらぎゃいぎゃい言い始めた二人。

 付き合うと長くなりそうだな……。


「じゃ、またな」


 そう二人に言い置いて、俺は足早に昇降口を出た。

 まぁ、アイツらはなんだかんだ言っても仲がいいから、別に仲裁せんでもいいだろう。



――裏庭

 俺はプールの脇を抜け、その先にある裏門へと向かった。


「やれやれ、またか……」


 歩きつつ思わず独語し、一つため息をついた。

 先刻メッセージをよこしたのは、俺の腐れ縁である桧山水希(ひやま・みずき)だ。

 アイツは新聞部所属で、時々こうやって俺に取材を手伝わせるのだ。拒否権は、無いらしい。

 まぁ、付き合いもそこそこ長いし、協力するのもやぶさかじゃ無いけどさ……。

 メッセージによれば、どうやらアイツは学校の裏山にある(ほこら)を調べるつもりらしい。ちなみに『学園の怪談』シリーズの一環だそうな。

 ちなみにこの裏山も学園の敷地の一部だ。だから一応シリーズには入るらしい。

 正直言って怪奇現象なんぞ、校舎内でも十分ありすぎるんだがな。元々ウチの学校は創立が古い上に、戦前からある校舎も健在だ。現在でこそ耐震基準がどうので使われていないが、十年ほど前までは現役だったそうな。

 それだけに、怪談の類には事欠かない。

 まぁ、ほとんどはガセなんだろうが……中にはガチなのもあると聞いたことがある。

 ただ……霊感なんぞ無い俺は、多分そういうのには遭遇することなんて無いだろう。恐らくは、だが。

 ……その時はそう考えていた。



――裏山

 裏門を抜けると、山の中を抜けていく細い道が続いている。

 一応申し訳程度の舗装がされてはいるものの、所々ひびの入ったアスファルトの隙間から草が生えている有様だ。

 そしてその道から少し外れた場所に、調査予定の祠があるハズだ。

 え〜っと……確か、この辺り。

 舗装された道をそれ、獣道のような更に細い小径が伸びている。

 足場が悪くて歩くのが大変だ。古い街道らしいが、昔の人はよくこんな場所歩いたな。

 もうすぐ日没。その薄暗い中を歩むこと数分。

 古びた鳥居と木造の祠が見えてきた。

 水希の姿は……無い。

 祠の中か?

 そう思い、呼びかけてみるが返事はない。

 ん? どういう事だ? 用事でもあったんかな?

 とりあえずスマホをとりだしメッセンジャーをチェック。

 が、特に水希からのメッセージは無い。

 もうしばらく待ってみるか。



――数分後

 スマホが鳴る。

 水希? いや……吉倉か。

 ……ラーメンの画像を送ってきやがった。チャーハンまで頼んでやがる。

 クソッ、こっちは腹減ってんのによ。アイツら覚えてやがれ。

 ……にしても、水希はどうしたんだ? もうすぐ日が暮れて夜になっちまう。

 『着いた』とメッセージを入れておくか。

 ……よし、送信、と。

 ン? 何だ? 近くで音が鳴ったな。

 多分祠の方、だよな。

 よく見ると、扉が少し空いている。まさかあの中に入ったのか?

 祠は幅2m、奥行き3mほどの大きさだ。人は入れるが、声が聞こえないわけはないだろうに……。

 スマホの入った鞄をあの中にでも置いてどっか行ったんか?

 バチあたりめ。

 仕方ねぇ。ちょっと覗いてみるか。この時間じゃ中は真っ暗だな。

 祠に近づき、キーホルダーのLEDのライトを向ける。

 失礼して、と。


「あれは……鞄か」


 格子状の扉の隙間から、鞄らしきものが見える。

 そこについているストラップには見覚えがあった。

 水希に強奪された――本人曰く俺からもらった――物だ。

 やはりそうか。じゃあアイツはどこいったんだ?

 そう思いつつ、扉に手をかけた。


『……』


 ん? 今何か聞こえたような……。


「水希?」


 戻ってきたのか? それとも中にいる?


『マコ……』


 今のは……


『マコちゃん!』


 今度は明確に“聞こえ”た。


「水希か! どこにいる⁉︎」

『あたしはここだよ』


 “声”がするのは……祠の中か!

 扉を開け、中に踏み込んだ。

 と、目に飛び込んできたのは、鞄と、その隣に散乱する女物の制服だ。そして彼女が大事にしていたデジカメも転がっている。


「み……水希⁉︎」


 一体ここで何があった⁉︎ 最悪な想像が頭をよぎる。


『マコちゃん……あたしは……』


 力ない“声”。

 顔を上げる。

 まさか……


「み……水希⁉︎」

『そう。あたし』


 闇の中から浮かび上がったのは、変わり果てた姿の彼女であった……

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