2章 3話 風紀委員
次の休み時間、リズたちに転入のことを聞こうとすると、二人にクラスメートたちが群がってしまった。
オリヴィアが質問に答えている。
「日本人じゃないよね? 外国人ってことでいいの?」
「そんなところだ」
国内ではないし、嘘にはならないだろう。
「日本に来たのは初めて?」
「初めてではないが、まだ慣れなくて四苦八苦している」
「二人はお友達なの?」
「主と従者だ」
「……なんか凄いね」
二人を取り囲むのは女子ばかりで、男共は明らかに興味があるのに、離れた場所からちらちらと一瞥を投げるだけだ。
そんな中南条が、戦場で先陣を切って猛進する戦士のように、勇猛果敢に女子の輪に突っ込んでいった。
リズの顔に警戒心が浮かび上がる。
後ろに下がりかけた足が、躊躇いを見せ後、踏みとどまった。
「日本に慣れてないんだって? だったらさ、放課後俺がこの街を案内するよ。実は誰も知らない秘密の場所があるんだ。一緒に行こうよ」
淀みなく誘い文句を口にする。
あいつは口から生まれたんじゃないだろうか。
オリヴィアの目つきが鋭くなる。
「案内の必要はない。その気持ちだけ受け取っておこう」
「えー、いいじゃん。せっかく同じクラスになったんだし、仲良くしようよ」
南条がリズの肩に手を回そうとした瞬間、オリヴィアが胸倉を乱暴に掴んだ。
「馴れ馴れしい男だな」
一触即発の気配に、俺は慌てて割って入った。
「勘弁してやってくれ」
オリヴィアは俺から南条に視線を移し、手を離した。
俺の言うことを聞いたのではなく、今後のリズの学校生活にとって良くないと、冷静に判断したのだろう。
「南条、二人とも困ってるだろ。こっちに来たばっかりで疲れもあるだろうし」
「そうだよな。リズちゃん、オリヴィアちゃん、ごめん。悪かったよ」
南条はすぐに納得して、二人に謝った。
こいつはバカだが、決して頭は悪くない。
「木場と二人って、知り合いなの?」
当然そうなるよな。とにかく、一緒に住んでいることは知られたくない。
からかわれるに決まってる。
「親父の知り合いの子たちで、面倒見るよう言われてるんだ」
そう言いながら、リズたちに目配せをしておく。
「へー。そう言えば、木場の親父さんって、海外で仕事してるんだもんな」
南条を始め、クラスメートたちは得心いったように頷いた。
後で御影先生に同居のことを口外しないように、お願いしておこう。
「騒がしいわね」
後ろから冷たい声がした。
振り返ると、藤堂が立っていた。
風紀委員の藤堂 透子は、大きな眼鏡が顔の半分を覆い、素顔を見たものはいないと言われている。
黒髪を低い位置で一つにまとめているが、お洒落のためというより、邪魔だからゴムで適当に縛っているという感じだ。
風紀委員の活動に熱心で、象徴的なのが常に竹刀を帯刀していることだ。
この学校に剣道部はあるが、所属はしていない。
では、風紀委員が私物を持ち歩いていいのかという話だが、あの竹刀は風紀委員会の備品だそうだ。
「女には興味ないみたいな顔しておいて、随分可愛い知り合いがいたのね」
「安心しろ。藤堂の手を煩わせるような関係じゃないから」
藤堂の何かを見定めるような視線を一身に受ける。
南条が冷やかすように、
「あれ、藤堂もしかして、木場のこと気になってるの?」
「南条君うるさい。私はこの学校の風紀が乱れるのを危惧しているだけよ。勉強道具も持ってこないどこかの誰かと違って、木場君なら大丈夫だとは思うけど」
南条は藤堂の皮肉を意に介さず、
「木場はともかく、二人は分からないだろ? 実際どうなの? 木場のことどう思う?」
オリヴィアは平然とした顔で、
「こんな軟弱なやつと付き合うくらいなら、一生草むしりでもしていた方がましだ」
……いや、別に良いんだけどね。
一方リズは頬を朱に染めながら、「えーと」と困惑し、悩んだ末に、
「恭平くんは、何だかお兄ちゃんみたいだと思ってます」
お兄ちゃん……何だこの甘美な響きは。
未知の扉が開きそうなんだが。
朝ベッドに俺を起こしに来るリズ。
風呂上りに「あー私のプリン食べたでしょ」と頬を膨らませるリズ。
怖い映画を見たせいで、深夜枕を 抱えて俺の布団に潜り込んでくるリズ。
あれ? ただの最高じゃねぇか。
――って、何考えてるんだ、俺は!
藤堂が冷え切った声で言う。
「お兄ちゃんプレイとは、マニアックね」
「なんだよ、それ。そんなのあるのか?」
「木場君は少し見どころがあると思っていたけど、他の男子と一緒だったのね」
「待ってくれ。俺とリズはそんないかがわしい関係じゃ――」
「うるさい!」
藤堂は吠え、竹刀を床に打ち付けた。
ほとんど不良じゃねぇかよ、怖ぇよ。
肩を怒らせ、大股で席に帰っていく。
とにかく、リズたちと話し合う必要がある。
二人を教室から連れ出した。