表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/52

3章 2話 恋愛成就のお守り

 最寄りの駅に到着した。

 休日の早朝ということで、駅の構内にはほとんど人がいない。


 縁結び神社のある駅までは、私鉄、在来線、私鉄と二度乗り換えがあるはずだ。

 とりあえず、最初の乗り換えである、在来線の駅までの切符を三枚買う。


 リズとオリヴィアに一枚ずつ渡し、


「最初の乗り換えまでの切符な。失くすんじゃないぞ」


 俺が改札を抜けると、後の二人も俺に倣って切符を通した。

 ホームももちろん閑散としている。

 電光掲示板の時刻案内を見る。

 俺たちが乗る電車までは、まだ少しある。


「座って待っていようぜ」


 設置されている椅子に並んで座る。

 朝の澄んだ空気の中で、ひと気のない駅のホームは静寂に包まれている。

 この簡易な椅子でも、体を預けて目を瞑ってしまえば、眠りに落ちてしまいそうだ。


「ちょっとコーヒー買ってくる」


 立ち上がると、オリヴィアが俺を見やり、


「電車が来る前には戻ってこいよ」

「コーヒー買いに行くだけで乗り遅れるかよ。ホームに取り残されるなんて、間抜けじゃねーんだから」


 自販機に行き、缶コーヒーを買おうとしたとき、


「あれ?」


 聞いたことのある声がし、振り返ると不知火がいた。

 その後ろには出雲さんもいる。


「こんなところで会えるなんて、運命感じるね」


 満面の笑みを向けてくる不知火から、俺は反射的に後退った。


「そんなに警戒しなくてもいいじゃない」

「あんな目に遭わされて、無警戒でいるやつなんかいないだろ」


 危機感のない個体は、あっという間に淘汰されてしまう。

 騒ぎを聞きつけたオリヴィアがやって来た。


「貴様ら! 性懲りもなくリズ様に害をなしにきたのか!」

「心を入れ替えたんだよ」


 不知火が飄々と言った。

 絶対嘘だ。

 オリヴィアも同じように思ったらしく、


「だったら、こんなところでちょろちょろしてないで、さっさと魔界に帰ったらどうだ」


 硬い態度を示すと、後から来ていたリズが、


「姫ちゃんはきっと、本当に反省したんだよ」

「いや、しかし、リズ様……」


 納得していないオリヴィアに、不知火が俺を一瞥してから、


「安心して。もう無理矢理彼の唇を奪おうとはしないから」


 リズの言う通り、本当に反省したのか?

 不知火が俺の前まで来る。


「私の魅力で君をメロメロにして、君の方から私を求めるようにさせるわ」


 全然反省してねーな。

 リズがわたわたと両手を振り乱し、


「だ、だめです~!」

「今日はその第一歩として、神社にお参りして、お守りを買うんだから」


 え? それって――。


「まさか縁結び神社の恋愛成就のお守りじゃないだろうな」

「そうだよ。すごいご利益があるって、昨日テレビでやってたんだ」


 同じ番組見てたな。オリヴィアが青筋を立てて、


「お守りはリズ様がご所望なのだ。数に限りがあると聞く。貴様らなどに手に入れられては困るな。よし、ここでライバルを減らすのもいいだろう」

「一族の再興っていう大いなる野望のために、あのお守りは渡さないわ」


 一触即発の空気が流れる。


「おいおい、駅のホームで危ないだろ」


 電車到着の警笛とアナウンスが、ホームに響き渡った。


「俺たちが乗る電車が来たぞ」

「我々が先だ」


 オリヴィアが不知火を突き飛ばして走った。


「私たちの方が先よ」


 不知火もダッシュする。

 競わないでいいところまで競ってるよ。


 押し合いながら走っていると、不知火が躓いた。

 顔から倒れる。

 うわ、痛そう。


 他の四人は発車メロディーを聞きながら、車内に体を滑り込ませた。

 不知火はホームでうつ伏せになったままだが――プシュー。

 無情にもドアが閉まる。


 顔を押さえながら、起き上がった。

 しかし、電車はもう動き出している。

 「え、あれ?」と茫然とする不知火。


 不知火が遠ざかっていき、完全に見えなくなると、出雲さんが頬に手を当て、鷹揚に一言だけ。


「困りましたね」


 確かに困り顔をしているが、何故かこの人が言うと、困っているように思えない。

 結局出雲さんは次の停車駅で下り、不知火を待つことにしたようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ