表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/52

2章 5話 白旗弁当

 昼休みになったが、今のところ特に問題はない。

 オリヴィアの話を聞いた後で過敏になっているが、今まで何もなかったし、すぐにどうこうっていうものでもないのだろう。


 転校生、美少女、というワードはいたく学生の興味をそそるようで、リズとオリヴィアを見に、学年、性別問わず多くの生徒がうちのクラスに殺到した。

 彼らが知ることは、転校生が噂に違わぬ美少女であることと、その美少女が硬派気取りの強面――つまり、俺とどうやら仲が良いということだ。


 それに伴い、俺の机、ロッカー、下駄箱に呪詛の言葉が書かれた大量の手紙が押し込まれた。

 他には、藤堂がすれ違う度に舌打ちしてくる。

 それでも、この騒動も時間の経過によって徐々に収まり、数日後には日常に帰るだろう。


 昼食は、いつもは購買部で適当にパンとかおにぎりを買うのだが、今日は弁当がある。

 オリヴィアが作ったのだ。

 今朝リズが弁当を作りたいと言い出したときに、オリヴィアが「私がやります」と、何とか諦めさせた。

 やはり、包丁や火を扱わせるのが嫌だったのだろうか。


 オリヴィアは当然三人分作っているが、さすがにリズたちと机を並べて食べるわけにはいかない。

 弁当箱を開けようとすると、南条が覗き込んできた。


「あれ、今日弁当?」


 オリヴィアが作ったと知られると、面倒そうだな。

 それどころか、同居も露見する恐れがある。

 「いや、これは」と誤魔化そうとすると、


「オリヴィアが作ったんですよ」


 いつの間にか、横にいたリズがバラしてしまった。

 男共の視線が俺を貫く中、


「恭平くん、一緒に食べませんか?」

「いや、いいよ」


 断ると、リズは残念そうに自分の席に戻っていった。

 リズには後で、リスク回避について説明しよう。


 リズとオリヴィアの席は横並びで、それぞれ弁当箱を開けた。

 卵焼き、からあげ、プチトマト、ポテトサラダなどが見える。

 色合いも考えられていて、どれもおしいそうだ。

 リズたちに群がる男から、感心する声が上がる。


「うまそー」

「木場、一万で売ってくれ」

「落とし穴にはまればいいのに」


 不吉なことを言うやつがいるな。

 それに、女の子の手作り弁当は金じゃないだろ。


 騒ぐクラスメートたちを背に、俺も弁当箱を開ける。

 白一色だった。

 白米だけ。

 日の丸弁当ですらない。


 オリヴィアを廊下に連れ出す。


「おい、どうなってんだよ。シンプル過ぎるだろ」


 オリヴィアは弁当箱と箸を持ったまま、


「なんだ? 騒がしいな。食事のときくらい黙れないのか」

「弁当作ってもらっといて悪いんだが、白米だけで、あと何にも入ってねぇんだけど! 日の丸ですらないんだけど!」

「あー、あれは雪原弁当だ。深々と降りつもる白銀の世界を表現している」

「良いように言うな!」

「じゃあ、白旗弁当。お前の人生にあつらえ向きだな」

「喧嘩売ってんのか、てめぇよぉ!」


 こいつ、やってくれたな!


「もぐもぐ……お前の世代は平和ボケしているから分からないかも知れないが、……もぐもぐ、ごっくん、……白米を食べられるというのは幸せなことなんだぞ?」

「食いながら喋んな!」

「ごちゃごちゃうるさいなー。あ、喉乾いたから飲み物買ってこい」

「お前人の話聞けよ! 何自然とパシらせようとしてんだよ」


 オリヴィアに付いてきていたリズが、頬を膨らませ、


「もう、オリヴィア、ダメだよ。恭平くん、私のおかず分けますから」

「ありがとな」


 リズと一緒に教室に戻ろうとすると、オリヴィアが眉間にしわを寄せ、


「リズ様がお優しいからと言って、あまりベタベタするなよ。早く飲み物買ってこい」

 只ならぬ剣幕に圧倒され、俺はパシリの大役を仰せつかったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ