悪役令嬢に転生しましたが、部下達がチンピラすぎて怖い
こちらでは文字数の関係上最後まで載せられませんでした。
完結まではこちらで掲載しております。
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悪役令嬢に転生した。
分かりやすく言えば、私の今の苦難は上の一行に凝縮する。
わたしの苦難。
私を慕い、私に仕えてくれる人達。
この人達が、今の私の苦難。
「あんじゃあぁ!!! あのクソアマァ!!! 舐めとんのかぁ!!!(あのウンコみたいな女性の方は、私を甘く見ているのでしょうか?)」
「ダル〇にして売り飛ばしたろか!!! ゴミィ!!!(手足を切〇して見世物として売りさばいてよろしいでしょうか?)」
「オラァ!!! 口ばっかりイッチョマエ叩いてねーで!!! 実際にタマ取ってクビ並べとけキャア!!!(威勢のいい言葉を使っていないで、実際に相手を殺して生首を並べておいてください)」
口が悪い。
否、見た目も悪い。
モヒカンもいれば、パンチパーマもいる。
あ、異世界ですよ。ここ。
ちゃんと王子様がいてですね。
貴族もいるんです。
私は貴族の令嬢、ローメルト・ファルニーズ・リストコール。
親しい人からはローメルと呼ばれてる、そうです。
うん。
まだ転生して半年だからね。
私は日本に住んでいた。
普通にOLをやっていた。
その話は後でいい。
それよりも、目の前の話だ。
これからの話だ。
私は、突然この異世界に転生した。
意識はこのローメルの中に入り込んだ。
彼女の記憶は明瞭に残っている。
日本で育った、私の記憶を保持したまま、混ざり合っている。
その記憶から辿るに、ローメルは典型的な
「悪役令嬢」だった。
「悪役令嬢」
つまり悪役というからには正義がいる。
ローメルが恋い焦がれていたこの国の王子様には、好きな人がいるのだ。
それが、貴族としての身分はローメルより低いが、誠実で美しい貴族の令嬢エステメラルダ。
そして、ローメルはこのエステメラルダに嫌がらせをしていた。
王子を自分のものにするために。
王子の話は後回し。
素敵な人でしたね。ええ。
それはともかく、この口の悪い人達。
彼らが私の忠実な部下です。
「悪役令嬢」なんですよ。
「悪役」ね。
だから、部下も「悪役」
いやぁ! 分かりやすい!
私の部下は20人いる。
これがまた慕われているのだ。
ローメルの記憶でも、全幅の信頼をおいていた。
こう見えても、気のいい人達……
「お嬢!!! あのクソアマァ! バラしていいですか!?」
ひいいいぃぃ!!!
バラすとか、ダル〇とか、怖いからね!
根は良い人とか、気が良い人とか、フォローになってないよ!
「オラァ!!! うるさくてお嬢がお話できねえじゃねーか!!! 黙らんかい!!!」
リーダーのジーマさんが黙らせる。
この人頼りにはなるのだが
「お嬢!!! 一声頂ければ! アッシラ! 今すぐエステメラルダ一行のクビ並べますぜ!!!」
並べなくていいから。
「……あの」
やっと声が出た。
この人達の声が怖すぎて、いつも声が出ないのだ。
「あの?」
「殺さなくて、いい」
片言。
いや、だって怖いんですって。
モヒカンに、片眉に、スキンヘッドに、パンチパーマだよ?
なんか「悪い人達」のイメージをごった煮したみたいなね。
そんな怖い人達ばかりで声が出ますか?
「分かりました」
ジーマさんは物分かりがいい。
「テメエら!!! 口ばっか動かしてねえでな! まずは腕一本引きちぎって持って来いってよ!!!」
『ウスッ!!!』
言ってないからぁ!!!
結局、なんとか止めました。
こんな毎日なのだ。
怖い部下達を上手く宥める日々。
正直、転生先の人生なんて知ったことじゃない。
私は自由に生きる。
そうも思っていた。
でも
「ローメル!」
王子様。
笑顔で近付いてくれる。
笑顔で、手を握ってくれる。
悪役だ。
私の評判は悪い。
あんな怖い連中に囲まれていれば、そりゃあ評判は悪い。
でも、この人は
「ローメル、今日も少し顔が青いよ」
こうやって気をつかってくれるのだ。
美しい顔立ち。
鍛えられた筋肉。
王子というと、儚げさを感じるが、この人は身体を鍛えている。体格もいい。こうやって側にいられると、とてもドキドキしてしまう。
転生直後で、混乱して狂乱していた私を
「大丈夫だよ。怖い夢を見たの?」
と、抱きしめて、宥めてくれたのだ。
その温かい体温に、私は正気に戻れた。
この世界でこうやって生活出来ているのは、この人のおかげ。
わたしにとっての恩人。
好きとか嫌いとかを越えて、守ってあげたい人。
そして、エステメラルダ。
良い娘だ。
良い娘のままなら良かった。
私は悪役令嬢であり、彼女に嫌がらせをちびっとして、王子様は幸せになりました。
それならば良かったかも知れない。
でも
「お嬢、エステメラルダはマズい」
ローメルの記憶と、ジーマさんの報告。
正義の令嬢、エステメラルダは
「世界を救うために、王子を殺しますよ」
この世界は滅びる。
王子が原因で滅びる。
それを止めるのがエステメラルダ。
エステメラルダと、その取り巻きはそう認識していた。
実際にエステメラルダには様々な奇跡が起こっていた。
エステメラルダは神に愛された存在。
物語の主人公。
世界を救う英雄。
そして、私は、悪役令嬢として、正義の令嬢をやっつける。
この凶暴な部下達を率いて。
世界より、私を救ってくれた王子を守るのだ。
それが、私の今の苦境。
「悪役だからね、わたしは」
現悪役令嬢の元OLは、チンピラを率いて、正義の令嬢をぶっ倒す。
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悪役令嬢の朝は早い。
「この世界寝るの早すぎなのよ」
夜の九時には完全に寝る。
夜出歩くなんて有り得ない。
夜に光なんて火がもったいない。
強制的に寝るしか無いのである。
日本にいたときはいつも深夜だった。
九時に寝れば、そら四時には起きる。
「今日もいい天気……」
窓から眺める風景。
花が咲き誇る花園。
ちゃんと手入れされている芝生。
門の前でヤンキー座りをしているモヒカン。
モヒカン。
「お嬢!!! おはようございます!」
こちらに気付いたのか、モヒカン頭の部下が頭を下げる。
窓越しでも声が貫通するって。
私はぺこりと頭を下げる。
「おらっ!!! テメエラァ!!! お嬢が起床なされたぞぉ!!! いつまでもねてんじゃねーよ!!! くそったれ!!!」
起こさなくていいよ。怖いから。
この距離だから顔の細かいところまでは見られてないよね。
ノーメイク姿は例え部下でも見せたくないです。
この世界の文化はよく分からない。
でも化粧品はキチンとしていた。
「下塗りしてっと」
部下達の前でもキチンと身嗜みは整える。
一通り準備をしてから、部屋を出ると
『チャーーッッス!!!』
私の扉の前に怖い人達が20人ほど並んで頭を下げていた。
もう慣れた光景ではあるので、その間を通り執務室に向かう。
私は令嬢なのだが、ちゃんと仕事がある。
結構忙しいのだ。これが。
この身体の両親は既に流行病で亡くなっている。
私がこの家を継いでいるのだ。
この部下達は両親の部下だった人達。
肖像画と、元の身体の記憶を照らし合わせても『The ヤクザ』そのものだった。
「お嬢、今日の予定ですが」
ジーマさん。
この人には秘書みたいな事もやってもらっている。
私は言われたとおりサインしたり、裁決したりするだけ。
本当に助かる。
この人は父の子飼いで、とても可愛がられた人だった。
両親を失い途方にくれた私に同情し、必死に守ってくれる人。
それは良いんですが。
「お嬢、今日こそエステメラルダのタマ取りますか? いつでもいけますよ」
タマ=命
とりますか=殺しますか
いちいち物騒なの。
「いえ、今日は話し合うから」
いきなり戦うんじゃない。話し合いからです。
とはいえなぁ。
エステメラルダ、色々アレなんだよなぁ。
この半年間。私もなにもしなかったわけじゃない。
この世界を知り、王子を知り、そしてエステメラルダを知った。
悪い娘じゃない。なのだが。
くりくりとした大きな目。
美しい栗色の髪の毛。
白い健康的な肌。
典型的な美少女。
これで、素直な性格で、誠実で。
欠点なんてなにもない。
そら、王子も惚れます。わかります。でもね。
その長所は裏を返すと。
「わたしもつらいんです!!! あんな!!! 素晴らしい王子様を殺すだなんて!」
泣き出すエステメラルダ。
二人きりの時に「王子を殺すな」と言ったらこれ。
「でも、わたくしはぁ……世界を……」
悲劇のヒロイン。
本当にそんな感じ。
エステメラルダは王子も好きなのだ。
本来は相思相愛。
でもこの使命感。
世界を救うという使命感とのはざまで苦しんでいる。
ここだけ見るとね、同情もできるのだけれども
「ローメルト・ファルニーズ・リストコール! エステメラルダをいじめているのか!?」
颯爽と現れるイケメン。
「ビローチェ!」
エステメラルダは泣き顔のままそのイケメンに抱き着く。
あーあ。また悪役ポイントが増える。
「ビローチェ、違うの、あのね」
言い訳しようとするエステメラルダ。
その間に胸をギュウギュウ押し付ける。
あざとい。これ天然なんだよね。だから、たち悪い。
このビローチェはエステメラルダの取り巻き。
そう、エステメラルダはめちゃくちゃモテる。
男に困らない。
王子以外にも選択肢は沢山あるし、正直王子がいなくたって良いと思ってるでしょあんた?
感が消えないのだ。
そしてこの天然行動。
泣かしたのは私がきっかけにしても、勝手に悲劇のヒロインモードで大泣きを始めたのはエステメラルダである。
でも駆け付けたビローチェから見れば私が悪いのだ。
The 悪役。
イライラ。
「ローメルト・ファルニーズ・リストコール! 返事によっては決闘を申し込むぞ!」
決闘。
貴族は決闘で決着をつけることが多い。
多いが、私は女だ。
「別にいいわよ、ビローチェ。受けてたつわ。戦うのはジャビラグランだけど」
ジャビラグラン。
筋肉、スキンヘッド、大男。
寡黙だが、とにかく強い。そのパンチは剣をも砕き、パンチが当たれば相手は死ぬ。
全身、これ凶器みたいな人。
その言葉に青ざめるビローチェ。
「ひ、卑怯な!」
戦闘訓練してもいない女相手に決闘挑むほうが卑怯だわ!!!
「ビローチェ、私の機嫌がいいうちに去りなさい」
王子とは全然違う。
ビローチェは嫌いだ。カッコつけマン。
言葉が軽い。
しかし、ビローチェはエステメラルダの実質的な護衛。しかもかなり優れているのだ。
今までも襲いかかってきた魔物を単独で撃退している。
エステメラルダにも睨みつけ
「話は終わった、出て行って」
追い出す。
「エステメラルダ。世界なんて関係ない。私は守る」
その言葉にエステメラルダはうつむいていた。
「はあ」
ため息をつく。
するとジーマさんが入ってくる。
「お嬢お疲れさまでした」
「本当に疲れました」
話し合いは無理。私たちは対立する。
その覚悟はできている。問題は。
「エステメラルダは何者かに愛されてる。直接の攻撃は全部無駄。そうよね」
「はい。すでに俺たち以外の連中が何度か襲撃していますが、すべて失敗しています。一度も暗殺どころか、傷一つ加えられません」
エステメラルダは世界を救う救世主。
そもそもその話は魔族から聞いたのだ。
魔族と呼ばれる、人間に仇なす連中。
彼らは執拗にエステメラルダを狙っているのだが、すべて上手くいっていなかった。
そして魔族と接触し、なぜエステメラルダを狙うのか? と聞いたら答えはそれだった。
エステメラルダ本人も、その取り巻きも自覚している。
『神』と呼んでいる、何者かの声を聞いたらしい。
そして、その『神』はエステメラルダを露骨に守っている
「エステメラルダ本人ではない。周りから攻めましょう」
私だってあんな純粋な娘を殺したくない。
悪役といってもね。穏便にしたいわけです。
「ビローチェは色々厄介。毒とかないの?」
なんか悪役っぽいですね。毒で攻撃。
ジーマは心得たというようにうなずき。
「館に戻りましょう。そういったモノならば、ザラップが得意です」
帰り道。王子様に会った。
王子様。正式には
「ランド=フィリップ=アルスペルド=バレッチェ殿下。今日もご機嫌麗しゅう」
正式なお辞儀をする。
愛称はランド王子。
「やあ、ローメル。今日は調子が良さそうだ」
ニコニコしている王子様。
ガッチリ系なのだが、筋肉ムキムキ系とも違う。
引き締まった身体。
身長はこの世界ではかなり高い。
190cm近いのだろうか。
顔は彫りが深く、単純なカッコよさというよりも、その内面を映し出す落ち着いた顔つきに惹かれていた。
年齢は18歳。
でも現代日本の人たちよりも、なんというか負っている責任の大きさのせいか、もっと年上に見える。
「ランド王子、いつもお気にかけてくださってうれしいですわ」
「ご両親が亡くなって大変なのに、気丈に頑張っているのだもの」
そう! この人ものすごい気を使ってくれるのだ。
怖い部下に守られた、悪役の私。
他の人間は両親の死でもめげない「血も涙もない人間」扱い。
でもこの王子は違う。
私を一人の人間として見守ってくれている。
転生直後に混乱した私を支えてくれたのも、そのあとの苦難にも前向きに向かい合えているのも、この王子様がいたから。
この優しさ、この気遣いに惹かれた。
「エステメラルダさんはあちらにいらっしゃいますよ」
その言葉にランド王子は微笑む。
「ローメル、あなたはいつも私の心を見透かすようだ。でもあなたが心配なのは本当です」
「そこに疑いなどもってはおりませんわ」
優しい人。
私はこの人を守る。
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館に戻ったら、ジャビラグランが吼えていた。
「お嬢!!! この俺を御指名頂いたそうで!!! この肉体にかけて!!! 必ずやビローチェのクソボケを肉塊にして参ります!!!」
普段は寡黙なジャビラグランがこれだけ興奮すると怖い。
怖いです。
筋肉がピクピクしてる。
「待ってください。まずは毒です」
この人本当に肉塊にしそうなんだもん。
殺すのは無しですよ。最後の手段にしたい。
「お嬢。ザラップを呼んで参りました」
このザラップという人は私の部下ではない。
館に出入りする商人。
この人がフードを被っていて非常に怪しい人。
一度フードを取った姿を見たが、スキンヘッドで顔を含めた全身に刺青が入っているという、あまりにも強烈なビジュアルだった。
「……ごきげんうるわしゅう、おじょうさま」
ネットリと、まとわりつくかのような言葉。
この人の言葉はいつもこんな感じ。
最近慣れた。
「いと、美しき御脚を眺めるだけで、この下蔑な身と心は高鳴りまする」
この気持ち悪い言葉には慣れません。
「ザラップ!!! とっとと商品出さんかい!!!」
部下の人が文句を言う。
いいぞ! この場合はもっと言え!
「はい。はい。なにぶん、このような美しい方との取引は、舞い上がってしまい。いつまでも話が止まらないものです。今回はこちらの5つをお持ちしました」
THE 毒
という、変な色している液体が5つ。
ガラス瓶に入っていた。
「左からご説明致します。
骨を溶かす毒でございます。この液体を少量でも混ぜれば、即座に骨が溶けていき、飲んだ相手は激痛と恐怖の中、崩壊していく身体を見守るしかないのです……」
「却下」
怖いからね!
「次でございます。こちらの毒は身体の毛穴という毛穴から血が吹き出るという薬であります。この薬の恐ろしいところは、この血を浴びた人間が、また同じ病にかかるという……」
「却下」
無差別殺戮じゃない。
「では、こちら。この毒は全ての食べものを飲み込めなくなる薬です」
おお
「それは良さそうね」
程よい嫌がらせだ。
何日間かこの毒にかかっていてもらえれば、実質無力化できる。
「おお、さすがお目が高い。そう、こちらの薬は恐ろしいものです。食事をしないと死ぬ。けれども、その食事が苦痛で、吐いてしまうのです。餓死するまで、必死に食べ物を飲み込んでは嘔吐の繰り返し。私も毒を扱って久しいですが、これほどの苦痛を継続的に与える毒というのは……」
待って。
「げ、解毒剤は?」
「ありません」
ダメじゃん。
どれも手加減無く
『苦しんで死ね』系しかなかった。
「殺さなくていいの。常にエステメラルダの側にいて、護衛のように護っているビローチェを無力化出来ればいいのよ。動けなくなるとか」
痺れ薬とかね。
「ふむ。ふむ。一つございます。それはルルドアフェツという毒でして。筋肉が溶け動けなくなるのです。飲ませすぎれば死にますが、手加減をすれば、歩けなくなる程度です」
「それ。それ」
うん。それでいい。
「これも恐ろしき毒。今まで鍛えた男の誇りとも言える筋肉が溶けていく恐怖。今までの努力が消え去っていく虚無感。ヒヒヒヒヒ、大変に愉快な毒でございます」
待って。私性格が最悪な人みたいじゃない。
「さすがお嬢!」
「感服しますぜ!!!」
部下の人達からの拍手喝采。
ちがうからねー。
私は日本にいたときに保険会社の営業をしていた。
会社に入り込んで、ひたすら営業。
でも、最近は昔と違い会社にすら入れない。
部外者は立ち入り禁止。
じゃあどうしたか。
オフィスビルの前、ひたすら出入り口でティッシュを配りながら勧誘をしていた。
そら、大変だった。
まず話から聞いてくれない。
でも私はメゲなかった。
根性でひたすら立ち続け、勧誘し続けた。
警備員のおじさんから怒られて場所を変えたりした。
雨の日も風の日も、ひたすらそのオフィスビルに狙いを定めて行き続けた。
2ヶ月で1契約。
滅茶苦茶に怒られた。
それでも私は続けた。
自分の狙いは間違っていない。
この巨大なオフィスビルには他の保険会社含めて誰も入れないのだ。
それだけ新しい需要が眠っているはず。
先輩からの忠告も聞かず半年が経ち、ある日突然報われた。
「入って営業しなさい」
オフィスビルの一社が許可を出してくれた。
「それだけ続けたんだ、本物だ」
その人はその会社の社長さんだった。
立ち続けた、営業し続けた私をずっと見てくれていたのだ。
本当に嬉しかった。
保険会社からは表彰された。
そのオフィスビル全体が
「保険会社の営業をまた入れましょう」と申し合わせてくれたのだ。
そして、立ち続けた私の会社は全社許可をもらった。
その時の社内報は宝物だった。
私は周りの意見関係なく、生意気に独断で物事を進める癖があった。
あの時から悪役だったのだ。
たまたま評価してくれた人がいただけ。
下手をすれば会社の評判が下がったかもしれない。
邪魔だとも言われた。
不快に思った人もいっぱいいただろう。
でも、私は、自分の信じた道を突き進む。
あの巨大なオフィスビルに、胸を張って入った時の感動は忘れない。
半年間、あの大きな扉の中に入れなかった。
それでも諦めなかった。
だから、わたしは
「世界がなんだっていうのよ。王子が世界を滅ぼす? 滅ぼさないように努力すればいい」
このビルには入れないから。通報されちゃうから別のところに行きましょう。
そう言った先輩そっくりだ。
出来ないから諦めよう。
違う。
出来ないなら、問題があるなら、どう突破するかを考えろ。
私は考えるのを止めない。
努力することを止めない。
突き進むことを止めない。
私は立ち上がり
「親愛なる臣下諸賢!!!」
みんなに呼び掛ける。
普段は怖くてマトモに話せない。
でも、王子を守るため、私は勇気を振り絞る。
私の声に、みなが立ち上がる。
「我々の方針が決まった!!! エステメラルダを止める!!! ランド王子はこの国にとって得難い人物!!! その王子を葬ろうとするエステメラルダと、その取り巻きは排除する!!!」
『おっす!!!!!!』
大声での返事
「まずは護衛のビローチェ!!! 毒を使う! 殺すのは最終手段だ! まだ排除すべき人間は多い! 警戒させるな!」
『おっす!!!!!』
「エステメラルダへの攻撃は無駄だ! それよりも取り巻きだ! 取り巻きを一人一人潰す! ガイゼン!」
「はい!」
ガイゼン。
この人はこのチンピラーズの中で一番マトモなファッションの人。
顔もそこそこ良い
「ビローチェの次に厄介なのはホウファイだ!」
ホウファイ。
実質的なエステメラルダの参謀。
年齢は30過ぎの女性。
知恵袋だ。この人がいる限り、王子への暗殺は避けられない。
「ホウファイを徹底的に籠絡しろ! 手段は問わない!」
「この命にかけて! 必ずや!」
「他のみなも! 協力して立ち向かう! 絶対に王子を殺させるな! 攻撃される前に! こちらが襲いかかれ!!!」
『おっす!!!!!!!』
力強い声
私の心の中には、あの巨大なオフィスビルの扉が浮かんでいた。
こじ開けてやる。
例え、その道が苦難でも。
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私が住んでいるのは館である。
両親が残した館。
ここに部下20人と暮らしている。
女は私しか住んでいない。
他20人全員男。
料理や掃除は近くに住んでいる人達を雇って、まかなっている。
夜になると帰る。
なんで、部下が住んでいるのに、他の人達は住み込みじゃないの?
と言うと。
「ご飯が出来ました」
料理番の方が言うと
「おらぁぁぁあああ!!! 飯じゃあああ!!!! とっとと食わんかい!!!」
「じゃかしいわ!!! 飯がマズくなるから騒ぐな!!!」
「あんじゃあ!!! ボケ!!! やんのかコラァアアア!!!」
部下同士の掴み合いの喧嘩。
こういうのが怖くて住みたくないそうです。
分かるよ。
私も怖いし。
でもそれだけではない。
この館にはもっとヤバいのがいる。
それが理由で住みたがらない。
滅多に来ないのだが、今日は来た。
私、ローメルの叔父にあたる、親族唯一の生き残り、ボーゲンアデル・ファルニーズ・リストコール。
通称
『ボーゲン叔父貴! チャーーッス!!!』
部下達が一列になりお辞儀をする。
叔父。
部下達は「叔父貴」と呼んでいるが、私とは本当に叔父の関係だ。
頭はスキンヘッド。
目は燃えるような赤い目。
顔には十文字の傷痕。
身長はそこまで高くないが、筋肉の盛り上がりが異常。
服の上からでも分かるほど、不自然な筋肉。
世間からは「最終兵器」と呼ばれている。らしい。
兵器って、この世界あるの?
「ローメル!!! 今日も美しいな!!!」
私も立ち上がり出迎える。
「ボーゲン叔父様。今日も私を気遣い、わざわざ足を運んでくださり感激ですわ」
「ローメル!!! その顔の美しさは内面の美しさだ!!! お前の叔父であることを誇りに思うぞ!!!」
満面の笑みで微笑む。叔父さん。
怖い。
「テメエラ!!! 俺の可愛いローメルをキチンと守ってるか!!!」
『へい!!!』
部下に対しては鬼のような顔をする。
この人は親族に対する愛情が異常で、それ以外の人達には本当に厳しい。
だから、館にいる人達にもかなり厳しく接するのだ。
それが怖くて住み込みでは働かない。
「叔父様、わたしがこのように元気に過ごせているのは、無論、叔父様の愛情のおかげです。ですが、この有能な家臣達がいなければ、私はとっくに死んでおりました」
その言葉に、ボーゲン叔父さんは泣き出した。
「おおおお!!! ローメル!!! この俺の不甲斐なさを責めてくれ!!! お前の両親を守れなかった不甲斐なさを!!! それに対する償いを愛情と呼んでくれるその心の広さに!!! 俺は!!!」
いや、両親死んだのは流行り病ですよ。
叔父さん関係ないのに。
それはともかく、こんなに身内への愛情が異常な叔父さんがこの館にいない理由。
それは
「今日もお土産を持ってきたからな!!!」
積み上がる金貨。
叔父さんは、私に苦労をかけないように、代わりに稼いでくれているのだ。
なのだが、その稼ぎとやらは
「ヤクが馬鹿売れしてのー!!! やはり戦争が起こるとヤクが売れる!!!」
ヤク=ヤバいお薬
頭がハッピーになったり、痛みを感じなくなったり
飲み過ぎたら廃人まっしぐら
人を不幸にした金で食べる飯はうまいかー!
うまいぞー!
私は悪役だ! 悪役令嬢だ!
人の不幸で飯が旨い!!!
いや、そこまで割り切れないんですよ。
正直、怖いし。
「叔父様。前から言っているとおり、私は両親の意志を継ぎこの館を守っているのです。自らで稼ぎます」
実際、私は両親の仕事を受け継ぎそこそこ稼いでいるのだ。
貴族は結構お金入る仕事が多い。
殆どは部下の人がやってくれるのだけれど。
「ローメル!!! その慎ましさ!!! まるで女神だ!!! 分かった!!! 困ったらいつでも言うんだぞ!!!」
叔父さんも無理に押し付けない。
私の自立を喜んでいる。
あ、そうだ。
叔父さんに頼むことがあった。
「叔父様、お金ではなく、叔父様にしか頼めない事があります。聞いて下さいますか?」
「無論だ! 無論だ! ローメル! なんでも言え!」
「ガンドーラ伯爵はご存知かと」
ガンドーラ伯爵。
エステメラルダの後援者。
多額の金を援助している貴族。
「おお! あいつか。知っておるぞ、無論な」
少し顔をしかめる。
嫌いなんだろうな。
凄い真っ直ぐな人なのだ。ガンドーラ伯爵は。
「今、私には敵がいます」
その言葉に
叔父さんは立ち上がった。
「野郎共!!! なにをグズグズしていた!!! 可愛い姪の敵をまだ生かしているのか!!!??? 聞き次第その場でぶち殺せ!!!」
声がデカい。
「叔父様、殺せません。あの魔族が束になっても傷一つつけられないのです」
「……なんだと? ガンドーラが?」
「いえ、敵はエステメラルダ」
その言葉に叔父さんは目を見開く。
「ガンドーラはその後援者。叔父様、エステメラルダへの直接的な攻撃は無駄です。しかし攻撃方法は他にある。それが」
「可愛いローメル。それ以上言わなくていい。汚い言葉は俺達だけが言えばいい」
怖い顔の叔父。
でも、とても優しい笑顔を見せた。
「心配しなくていい。ガンドーラの件は引き受けた。ローメルはなにも心配しなくていい。良い知らせをすぐ届けよう」
分厚くて、大きな手。
その手で頭を撫でられた。
「ローメル、エステメラルダの噂は聞いた。そうか。あの娘が敵か」
後ろを振り向く叔父さん。そして
「優秀な部下諸賢!!! ローメルを頼んだ!!! 例え世界全てが敵に回ろうとも!!! 全てをはねのけろ!!! 俺達は勝つ!!!!!」
『オッッッス!!!!!』
私とよく似た演説。
そう、私の演説は、この叔父さんを真似ているのだ。
「世界を救う救世主。実にくだらないと思った自分を恥じるぞ!!! そうだ!!! くだらなくはない!!! 俺は!!!」
叔父さんは館中に響く声で
「世界の敵だ!!!!!」
エステメラルダは世界の救世主。
ランド王子はこのままでは世界を滅ぼす。
この2つ。
これは魔族からの情報。
その魔族が館に遊びに来ていた。
「ハロー♪ ハロー♪」
全身真っ黒で、尻尾が生えた美少年。
これが魔族。
パッと見、ハロウィンのコスプレした男子中学生。
「私はエステメラルダを止める」
「ニャハハハハハ! そうこなくっちゃ!」
魔族。
こいつはその王子。
アマダと呼ばれている。
大きな黒い目。
小悪魔な笑顔。
否、こいつは悪魔である。
笑顔で人を不幸にする。
人間に価値なんて認めていない。
少しでも私に興味を失ったら、その場で残忍に殺すだろう。
側で守ってくれているジーマも、かなり緊張しているようだ。
「方針は決まった。だが情報が足りない。王子が世界を滅ぼす。何故? そんな人間ではない」
「そんなの関係ないじゃん。なんでそんなの知りたがるのさ」
「いいか、エステメラルダへの直接攻撃は無駄だ。いい加減悟れ。周囲から攻めていくしかないんだ。そのためにはありとあらゆる情報が必要だ」
私は懸命に言う。
すると
「ふむふむ。じゃあ教えよう世界を巻き込んだ大戦争になるんだ。あの王子をこのまま生かしていくと」
戦争?
「あの人は戦争を否定している」
「そんなの知らないよ。ただ、魔族の未来視が言うにはそうらしい。そして、それを防ぐのは、同じ国に住んでいるエステメラルダ。逆に言えばエステメラルダを排除出来れば大混乱は起こる」
「これが分からない。エステメラルダは単なる1貴族だ。他にも王子を暗殺しようとする人間はいる。エステメラルダだけに狙いを絞っている理由は?」
アマダは楽しそうに私の横に寄り添う。
ジーマが思わず剣に手をかけたので、それを制止する。
アマダはぴっとりと私にくっつく。
なんだ、なにするんだ、こいつ。
「分かってるだろ?」
甘い吐息。
耳にかかる吐息。
真っ黒の目が、私を楽しそうに見る。
「他の人間など雑魚だ。いくらでも殺せる。だが、エステメラルダだけが殺せない。なにをやっても。あれは『神』の加護だ」
『神』
そう呼ぶもの。
エステメラルダを守る『神』
「直接攻撃が効かないならば、搦め手を使い追い詰めればいい」
「それだ! 君は前から言っていた! 直接攻撃は無駄だと! 僕もそう思ってきたよ! それで、君なら戦えるんだね!」
間近で叫ぶから唾が飛ぶ。
ううう。美少年の唾。
バッチイけど微妙な気分。私は変態ではないのだ。落ち着け。
「それで聞きたい。エステメラルダを守る『神』とはなに?」
あんなに露骨に特定の人物を守る存在。
私のいた世界のイメージの『神』じゃない。
「語り得ぬものは、語るべきではない」
肩をすくめるアマダ。
「語れないよ。エステメラルダはそいつに守られている。以上終わり」
溜め息をつく。
「エステメラルダは精神的には脆弱」
私は淡々と喋る
「エステメラルダの周りの人間を不幸にする。孤立した彼女は弱い」
「楽しみだ。僕はキミを気に入っているんだ。だって賢いからね♪」
そう言って
「な!?」
頬にキス。
ほっぺに暖かい、唇の感触が、って
「楽しかったよ、また会おう」
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今日はお城に用事があり出かけていた。
「ローメル、今日は一人か」
ビローチェが話しかけてくる。
「ええ。今日はみんな他の仕事があるの」
いつもジーマさんと一緒に来ているのだ。今日は別行動。
「そうか、ならいい」
ビローチェは頷き、元来た道に戻った。
わざわざビローチェが私に確認をする。
嫌な予感。
「いや、今の段階で王子に危害を与える決断を、エステメラルダがするとは思えない」
あの葛藤はまだ続くはず。
だが、気になる。
ビローチェは単独で私と会っていた。
ビローチェはエステメラルダの取り巻きであり、護衛。
護衛が離れるほどの用事。
城に提出する書類を持ちながら私は考え事をして歩いていた。
すると
「ローメル」
「ランド王子!」
王子が声をかけてくれる。
「忙しそうだね」
「とんでもありません。私は苦労らしい苦労もしていません。ありがたい話ですわ。領民に恵まれています」
私の持ってきた書類は、直轄する領地の住民たちの税金書類。
結構ごまかしが多かったり、そもそも税金の支払いをごねたりするので、貴族は苦労するのたが、うちは部下が優秀なので。
『笑顔で税金満額はらうかぁ!!! 泣き顔で家族の生首並べられるかぁ!!! 好きなほう選べ!!!』
などという穏便なお願いで、皆様きちんと書類を出してくださっています。
怖いからね、本当に。
「ローメルは、なんでこんなに優しくて真面目なのに、変な噂がたつのかな?」
変な噂。まあ、部下がああならそら噂ぐらいたつでしょう。
あと、私が転生前のローメルの行動はかなり酷かった。
エステメラルダへの嫌がらせとかね。
「王子、噂は貴族の好物ですわ。名前が挙がるだけでありがたい話です」
「……ローメル、無理してないかい?」
王子は、ゆっくりと私に近づき額に手を当ててくれる。
「……え?」
手が、大きな手が、私の額に
「ローメルの真面目さは私がよく知ってる。無理しないで」
そういって。
抱きしめて
「……お、おうじ」
こんな、抱きしめられるなんてされたら。
私の胸が破裂するからぁ!!!
ドキドキと高鳴る鼓動。
逞しい身体。この人に包まれると、安らかな気持ちになる。そして、体中が熱くなって、ドキドキが止まらない。
「ローメル、私はね」
耳元で聞く王子の声。
優しい人、優しい声。この体温と、声にいつまでも包まれたい。
わたしは、潤んだ目で王子の顔を見る……
「え?」
天井。
大理石の天井。
反射されたその姿。
背後に
「王子!!! 伏せて!!!」
全力で王子を押し倒す。
本来ならば、こんな小娘の力では押し倒すことなど不可能。
でも、突然の力に、王子は転んだ。
その刹那
「ああああああぁぁぁ!!!!!」
肩を、痛みが
「ローメル!!!」
王子が驚きかけよる。
肩にあたったのは矢。
天井で反射した姿は
ビローチェ
「……あははは、どっちを狙ったか知らないけれど」
あたしは倒れない。仁王立ちして王子を守る。
背後は既にだれもいない。
「誰か!!! 襲撃者だ!!!」
ランド王子が大声で呼ぶ。
廊下は大騒ぎになった。
「姿は見ましたか?」
側近の呼びかけに
「いや、見なかった。ローメルは?」
王子から見えなかったのか。
大理石の反射で見えた。
背後にしても、隠れて射ったのだろうか。
私は集まった人たちを観察していた。
エステメラルダがいたが、ビローチェがいない。
実行犯はすぐに顔を出さないほうがいいということか。
「いえ、背後からですので」
注意深く、皆の顔をのぞいた。
そして、祈るようにエステメラルダの顔を見る。
エステラレルダの指示ならば、実行犯が確認されなかったことで、安堵の表情を浮かべるはずだ。
でもエステメラルダは表情が変わらない。
怯えた顔のまま
(演技できるタイプじゃない)
天然なのだ。だからカチンとすることが多いのだが。
でも、明らかに相好を崩した人間がいた。
ホウファイ。
エステメラルダの参謀
つまり
(エステメラルダのために独断で攻撃した)
私は現地で治療を受けながら、次の手を考えていた。
館に戻ると
『お嬢!!!』
皆が入り口で出迎えてくれた。
黙って、扉を閉める。
そして
「私が甘かった」
そう、甘かった。平和ボケしている。
「お嬢、仇は必ず……」
ジーマさんが言うが
「今すぐ、ビローチェをぶち殺してこい」
甘い。毒とか甘い。
向こうは独断で攻撃を仕掛けてきた。
悪役のくせに、なにをグズグズしているのだ。私は。
「お嬢!!!」
驚いた顔のジーマさん。
「叔父様ではないけれども、私に二度汚い言葉を使わせる気?」
「お嬢様!!! 失礼しました!!! 今すぐにでも!!!」
ジーマさんが叫ぶ。
「ジャビラグラン。止めた私が間違っていた、ビローチェを肉塊に変えなさい」
「お嬢様!!! このジャビラグラン!!! 必ずや使命を果たします!!!」
「ガイゼン」
「ここに控えております」
「今回の襲撃はホウファイの指示だ。ビローチェは実行犯。ホウファイに地獄を味合わせなさい。レ〇プでもなんでもいい、セッ〇スのことしか考えられないメス豚に作り替えなさい」
「はっ!!! 全力で!」
「ジーマ、ビローチェが死ねば、次の護衛は誰になる?」
「……そうですね、ヴィルツかと」
「先制攻撃」
「わかりました」
ぶち殺す。
あの襲撃はどっちを狙ったか。
それはわからない。
でも
「王子の排除は間違いない」
下手をすれば王子に当たっていたのだから。
あわよくば両方殺そうとしていた。
肩が痛い。
異常な痛み。
治療が足りていないのだろうか?
「速やかに動きなさい」
私は部下たちに命令し、自室に戻った。
包帯をとる。
酷い腫れ。
「……薬が合わなかったのかな」
「あれ、また凄い毒」
部屋に突然現れる魔族。
「アマダ、これは、毒?」
「うん。致死性の毒。強烈だよ、これ」
アマダは突然現れる。
それは慣れた。
「そう、解毒剤とか、あるのかしら」
「人間には無理じゃない?」
くそ、こんなところで死ぬのか。
「僕なら、治せるけど?」
ニコニコしながら喋るアマダ。
「代価は?」
こいつは悪魔だ。魔族というよりかは、悪魔というほうがイメージぴったり。
無償で救いなどするわけがない。
「僕の子供産んでよ」
は?
「気に入ってるんだよね、ローメル。こんな頭いい人いないし」
魔族との性行為?
そもそも私から見たら、コスプレした男子中学生だ。
「まあ、とりあえず治してあげる。死なれるの嫌だし」
そう言って、私の傷口に口づけをする。
すると
「……痛みが」
身体を駆け巡る爽快感。
痛みが消えた。
「相手はエステメラルダ?」
「奴の部下だ。後手後手に回るとは愚か。反省してるわ」
「気にいってるよ、ローメル。さっきのは本気」
にこーっと笑うアマダ。
「人間には惜しいよ。きっといい魔族になる」
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(三人称)
「間違いなく毒は塗ったのよね?」
「ああ。確実だ」
ビローチェとホウファイは密談していた。
「矢は深く突き刺さった。ならばあの毒でローメルは今日死ぬ」
「王子に当たらなかったのは残念だがな」
「簡単には上手くいかないわ」
ホウファイはお茶を飲みながら
「私、ローメル嫌いじゃ無かったな」
「……あの性悪女がか?」
「ええ。昔は酷かったけどね。両親亡くなったあたりからかしら? 随分頭を使うようになったわ。私としては先にローメルを殺せて満足よ。このままでは厄介な敵になっていたもの。人としては嫌いじゃない。それだけ」
二人はそのあと今後の打ち合わせをしていると
「あー、デートかな?」
ニコニコしながらエステメラルダが来る。
「エステメラルダ、まだ起きていたのかい?」
もう夜だ。皆寝る時間。
「なにかね、寝付けないの」
「ふふふ、そうよね。あんな怖いことかあればね」
二人は襲撃したのは自分達だと伝えていない。
エステメラルダは顔を曇らせ
「ローメル、大丈夫かな?」
「……心配したと、明日伝えれば喜ぶわ」
「……うん」ニコッとエステメラルダは笑い
「じゃあ、私は寝……」
突然、エステメラルダは凍り付いたように立ちすくんだ。
「エステメラルダ!? まさか」
ビローチェが騒ぐが、ホウファイが手で制する。
「『神卸』よ、黙って聞きなさい」
すると、エステメラルダは、残忍な笑顔を浮かべ
《お前らここにいたら死ぬぞ》
声とも違う、なにか特殊な音がエステメラルダから聞こえる。
「『神』よ、敵が来るのですか?」
ホウファイが答え、ビローチェが構える。
《暴風だ。暴風には逆らうな。身を潜めろ。風を斬りつけようと無意味だ》
ホウファイは頷いた。
だが、エステメラルダは、ニターと笑い
《でなければ、無惨に死ね》
「ビローチェぇぇぇえええ!!!!!」
外から大声。
「この声は、ジャビラグランか」
「……ローメルの仇討ちかしらね?」
二人はこの襲撃は、ローメルが死んだ事による報復だと認識した。
なぜバレたのかは分からないが、ローメルの部下は頭が悪い。
適当に知り合い全部に喧嘩うっているのだろう。
ぐらいの理解だった。
だが
《ローメルを舐めるな。風は奴から巻き起こる》
愉快そうに笑うエステメラルダ。
「でいりじゃあああああぁぁぁぁ!!!! ビローチェ!!! テメエの存在を肉塊に変えてくれる!!!!!」
ジャビラグランは素手で入口の扉を破壊した。
ビローチェは、応戦しようとするが
「なにしてるの? 逃げなさい、隠れなさい」
ホウファイは既に部屋から出ている。
「だが!?」
「『さもなくば死ね!』」
エステメラルダの身体を乗っ取り、語っていた存在の口真似。
ビローチェはその言葉をキッカケに、一気に走り出した。
「エステメラルダ! すまん!!!」
「大丈夫よ」
二人はエステメラルダを置き去りに逃げる。
逃げながらホウファイは言った。
「『神への攻撃は不可能だから』」
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「お嬢!!! この度の失態!!! 命をもって償います!!!」
ジャビラグランはエステメラルダの館に特攻したが、二人の姿を確認しながら取り逃したという。
でも、それよりも気になる事がある。
「エステメラルダは、笑っていたのね」
「はい。悠々としておりました。それと、声、というか、なんというか。変わった音がしていまして」
ジャビグランの答えは要領を得ない。
でも、ジャビグランはこう見えてとても知性的な人だ。
つまり、その状況で本当にエステメラルダは笑っていたし、声ともつかない奇妙な音を出していた。
「ジーマ、一体なんなのかしら? エステメラルダは多重人格? いえ、もっと深刻な」
「お嬢、それは俺には分かりません。ですが、ジャビグランからの報告で深刻な点は、『身を隠せ』という指示が飛んでいた点です。これは想定外。正直ビローチェはそれで良いですが、ホウファイに身を隠されたまま策を弄されると……」
それだ。
厄介極まりない。
すると
「お嬢様! 私への命をお忘れですか!!!」
ガイゼンが前に出る。
「ガイゼン、身を隠したホウファイを探し当てられますか」
「身を隠したならばこそです。このガイゼンに策があります」
おお! 頼もしい!
「その為に媚薬を使わせて頂きたいのです。高価な買い物になりますが」
「構いません。全力でやりなさい。私が望むのは、高くて出来ませんでした、ではありません。全てを費やし、任務を果たした、だけです」
「はい!!!」
その日の夕方、館の執務室に茶瓶があった。
「なにこれ? 栄養ドリンク?」
ファイトー! イッパーツ!
みたいなやつそっくり。
変なにおいするなーと嗅いでいると
「お嬢!!! 大変です!!!」
外からの怒鳴り声に思わず
「あっ!」
ちょっと身体にかかった。
大丈夫? これ?
不快な匂いでは無いけれど
「どうしました?」
ジーマさんが慌てていた。
珍しい。
「王子が! ランド王子が! お嬢のお見舞いに来られています!」
な、なんだってー!!!
自分の寝室に王子を入れるというのがとても恥ずかしいので、執務室に来て頂きました。
「ランド王子、わざわざお見舞いなど」
「いや、元気そうな顔を見てとても安心したよ。ローメル」
にこやかないつもの顔。
本当にこの人といるとホッとするんだよね。
うん。
安心する。
でもドキドキもする。
でも、今日はなんかおかしいな。
やけにドキドキするぞ。
あ、そうか。自分の館に王子が来てくれているからかな。
ドキドキもするよね。
でも、ちょっと違和感。
ランド王子もヤケにソワソワしてる。
その、視線が、妙に……
『あんじゃあ!? よりによってなんでお嬢の部屋に置くんじゃクソボケェ!!!』
『ご報告するのを止めてたのは誰じゃあ!!! ゴミィ!!!』
館内のいつもの喧嘩。
うん、ちょっと正気に返った。
「すみません、王子。騒がしい館で」
「いや、それはいいんだ。それより、その……」
王子は少し照れながら
「いつも綺麗だけれど、今日は一段と綺麗だね、ローメル」
ぱああぁぁぁぁ!!!
そんなぁ♪ 可愛い格好していたかな。急いで化粧は整えたけど。
嬉しい。
ランド王子はそのまま、近付いて
「……側で話したい。いいかな?」
密着! 憧れの王子と密着!
ああ、幸せ! 私幸せ……
「お嬢! お話中申し訳ありません!!! 大事なお話が!!!」
ぐぬぬぬ! 空気を読むのだぁ! 部下達よぉ!
「客人の王子を差し置いてでもですか?」
思わず問い掛ける。
ジーマさんは申し訳なさそうに室内にはいり、私に耳打ちをした。
(お嬢、この部屋にガラスの瓶がありませんでしたか?)
ガラスの瓶。
うん
指差す。
(良かった。これは強烈な媚薬なのです。ガイゼンが注文したものが、何故かお嬢の部屋に……本当に失礼しました)
媚薬。
ああ、媚薬ね。
うん。私の疑問が晴れました。
ありがとうジーマさん。
つまりだ。
私の今の発情と、王子の密着は、だ。
「ローメル」
「ひゃっ! ひゃい!!!」
変な声が出る。
媚薬、私の身体に引っ付いてるし、部屋中に撒いた気がするし。
「済まない、本当はこんなつもりじゃ。でも」
ギュウッ! 抱きしめてくる。
大きな身体。溶けそうな気持ち。
でも、王子は。エステメラルダが好きじゃないの?
それでも、私の身体は王子に抱きしめられて、多幸感に包まれる。
「ローメル、ローメル」
耳元で囁かないで。
わたし、心臓が
暖かい王子の体温。
その吐息。
私の身体は脱力してしまう。
「王子、わたしは……」
その刹那。
ゆっくりと王子の顔が近付いて
私は全てを受け入れるように目を閉じた。
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朝ちゅん。
鳥の鳴き声。
暖かな日差し。
そして、隣にいる温もり。
「……ローメル、起きたか」
ランド王子。
ああ、夢ではなかった。
その温もりは本物……。
「……んんん!!!」
ねっとりとした口づけ。
わたしの口の中を味わうように、ゆっくりと舌が口中を這う。
「……あう…… ひゃん!」
強く抱きしめられる。
まだお互い裸なのだ。
「ローメル、昨日言ったこと憶えているか?」
昨日?
「側にいるんだ、ローメル。今日城に来なさい」
王子は朝お帰りになられた。
私は水浴びをし、身支度を整える。
城への呼び出し。
その前にやることがある。
そう思い執務室に行こうと扉を開けると
『チャーッス!!!』
王子を見送るときは部下は誰も出てこなかった。
彼等なりに気を使ってくれているのだろうか?
そう考えると少し恥ずかしい。
執務室に行くと
「お嬢、ボーゲン叔父貴が、ガンドーラ伯爵と抗争を始めました」
行動が早い。
さすがボーゲン叔父さん。
「抗争ね。具体的には?」
「ガンドーラ伯爵の領地に禁制の薬物をバラまいています。それにキレたガンドーラが叔父貴と部下を拘束しようと兵士を動員。それに対し、叔父貴と部下達は公然と逆らい、内戦状態です」
いやー! 清々しいほど悪役ですね! 叔父さん!
でもなぁ。私だって昨日のやったことは
「片思いの王子を媚薬を使って虜にした」
という完璧な悪役ぶりですからね。
「ボーゲン叔父様はそれでいい。それで? ホウファイは時間がかかるのは分かる。他は?」
「はい。お嬢。まずはビローチェ。奴は目立ちます。既に潜伏場所の目処がつきました」
「近く?」
「いえ、なにをどう移動したのか。ここからかなり距離のある領地です」
「無理に深追いをしなくていい。こちらに戻ってきたら仕留めなさい」
「はい。次にヴィルツです」
ヴィルツ。ビローチェがいなくなれば、次の護衛はヴィルツ。
「ええ。どう?」
「ビローチェと比較すると忠誠心が足りません。どうもエステメラルダの豹変に戸惑っているようです」
「……懐柔のしようがあると?」
「はい。ヴィルツはビローチェなどよりも本来は護衛向きなのです。それが好戦的で護衛というタイプではないビローチェが勤めていた。その事から言っても、おそらくヴィルツは抱えているものがあるはずです」
「分かりました。今日、城に行き接触します」
城に着くと、真っ先に声をかけてきたのは、エステメラルダだった。
「ローメル!」
「心配かけたわ、エステメラルダ」
部下達曰わく、エステメラルダはずっと私を心配してくれていたらしい。
「うん。良かった。それでね、聞きたいことが」
エステメラルダはかなり不安気にしている。
「なにかしら?」
「ビローチェとホウファイ知らない?」
じっとエステメラルダを見る。
演技の様子はない。
襲撃したジャビラグラン曰わく
「その場にエステメラルダはいた」のだ。
だが、壮絶な笑顔を浮かべ、声ならぬ音を発していたと。
つまり、その間の記憶はない。
「エステメラルダ、私にもビローチェとホウファイがいなくなったという話は聞いたわ。でもそれだけ。城に行けば分かるかな? と思ったんだけれど」
「……昨日から急にいなくなって……」
「……エステメラルダ、あなた一人なの? 他の人は?」
エステメラルダは取り巻きが多い。
単独行動というのは珍しい。
「うん。今はね。このあとミカルードと会うけど」
この期に及んでもヴィルツは側にいない。
相当ね。
王子の部屋にノックする。
「ランド王子、ローメルです」
「ああ、入れ」
「失礼いたします」
ドアを開けた途端
「わっ!?」
王子に抱きしめられる。
「ああ、ローメル。よくきた」
「お、王子?」
あの今朝までしてたじゃないですか?
というか、もう媚薬効果ないでしょう?
「ローメル、こっちに住めないか?」
単刀直入。
「わたくしは両親の跡を継ぎ、あの館を任せられています。王子のご厚意は嬉しいのですが……」
「また命を狙われるかもしれない」
「あの館のほうが安全ですわ、王子」
実際そうなのだ。
あの館は、特定の人間以外は絶対に近付かない。
この城には敵も多い。
「……ローメル。明日も来い」
「はい」
逆らわない。
いや
「来るのは夕方からでいい」
その言葉に、胸が高鳴った。
帰り道。
わたしはヴィルツに会いに来た。
「ヴィルツ」
「……珍しいな、ローメルがなんのようだ」
「エステメラルダの件」
「……っ!?」
驚いたような顔。
「ホウファイが消えた、ビローチェが消えた。あなた、心当たりは?」
「むしろ、俺はお前にそれを聞きたいんだがな」
皮肉気に言うヴィルツ。
「エステメラルダは多重人格なのか? それともなにかの呪いか?」
カマをかける。
「!? ……そうか、知っているのか」
「ホウファイ達の失踪と関係が?」
ここらへんは情報吸い上げるためのはったり。
でも、ヴィルツにはてきめんだった。
「……俺は、ホウファイが怪しいと思う。ある時から、ホウファイはエステメラルダを『神』と崇め始めたのだ」
『神』
「笑いそうになるけど、冗談ではないのね。あの変貌を『神』と呼んでいるの?」
「あれは本物だ。エステメラルダの演技でもはったりでもない。だが、俺にはあれは邪悪なモノにしか見えぬ」
かなり反発しているヴィルツ。
「手を組みましょう、とは言わないわ。でもね正直ホウファイにはかなり警戒しているの。私を襲った連中は、ホウファイの手のものよ」
「……エステメラルダは無関係か」
「エステメラルダはね。『神』の存在の指示かは知らない」
「いいだろう、ローメル。俺はエステメラルダは大切だが、ホウファイと『神』には懐疑的だ。手を組もう。正直俺も恐ろしいのだ」
ヴィルツは頷き
「まずはホウファイを探し当てる」
夜、アマダが遊びに来た。
「ベタベタするな」
アマダはずっと私にまとわりついて、ベタベタしているのだ。
せっかくの王子様のエキスが抜けてしまうではないか。
「ねえローメル。キスしていい?」
「いや」
王子としたばかりなのです。
いやです。
「えー。せっかく命救ったのになぁ」
コスプレDC(男子中学生)にしか見えないのに、調子にのりおって。
「あのね、一個教えてあげる」
「なに?」
「魔族に狙われて無事だった女はいない」
そう言って、長い、長い舌が、私の頬を撫でる。
「僕は気に入ってるんだ、ローメル。共にエステメラルダを打倒しよう」
--------------------------------------------------
夢だ。
それはすぐに気付いた。
私は日本のオフィスビルにいた。
保険会社のフロア。
成果主義、ノルマの押し出し。
皆が辛い顔をしている。
でも、外にでたら満面の笑みで営業。
それが私の生活環境。
私は特に辛いとも思わなかった。
私は無責任だった。
ダメならダメでいい。
やりたいことをやってやる。
どうせ新入社員だ。
失敗してもフォローされる。
だから好き放題していた。
その結果、私は新入社員の中で孤立した。
和を乱す、言うことを聞かない。
厄介な人間。
そんな評判の中で私は生きてきた。
そのオフィスビル。
みな、諦めたような顔。
そんな中で、私は。
ああ、これは夢だ。間違いない。
私の顔が見えた。
嫌われている私の顔が。
私の目は爛々と輝き、目の前の光景を喜んでいた。
肉食獣のような顔で笑っていた。
『わたしは、信じた道を歩きますから』
「すっげー、厄介な女だな、私」
先輩の忠告を聞かないわ、同僚と仲良くしないわ。独断専行で適当に物事進めるわ。
そら嫌われるよ。
変に成果だしたのかもっと良くなかった。
その後の嫌がらせも凄かった。
そう言えば、私はなんでこの世界に来たのか未だに分からない。
こう言うのは死んで転生なのだろうが、死んだ記憶はない。
長い、長い夢の可能性もある。
でもねぇ。夢にしては
『チャーーーッス!!!』
こんな訳の分からないシチュエーションにする必要無いでしょうに。
なによ、部下が全員チンピラって。
「ジーマさん。ヴィルツとは協力関係が結べそうです」
「さすがお嬢。ガイゼンの報告はしばらくお待ちください。二週間は頂きたいと」
「二週間。頼もしいわ。期待しています」
「それと、エステメラルダですが、想定外に弱っています。チャンスかも知れません」
「……もう?」
慎重にいきたいが
「仕留めるチャンスはそうはありません。これを逃すと、次はいつになるか」
「ヴィルツとの協力関係もある。必ず仕留めないとマズい」
私の覚悟が足りないんだろうな。
まだ、エステメラルダを殺せる覚悟が足りない。
正直、ビローチェやホウファイが逃げてくれてホッとしているのだ。
殺せと言ったが、私の覚悟はそこまで出来ていない。
王子が殺されるぐらいならば、殺せぐらいの。
でも
「ホウファイが先」
ヤバいのはホウファイだ。
エステメラルダはまだいい。
「お嬢、分かりました」
素直に頷いてくれる。
「私は今日も城に行きます。夕方行きますから、それまで執務します。貯まっている書類を片付けるわ」
「お嬢、了解しました」
一生懸命仕事をしていると、BGM代わりの怒声
『あんじゃあボケナス!!!』
『ゴミィ!!! 汚ねぇ唾とばすんじゃねぇ!!!』
うるさぁい。
『お嬢の仕事の邪魔じゃあ!!! 黙らんかい!!!』
騒がしい館。
本当に。
でもそんな中、突然のざわめき。
『な、なんじゃあ!!!』
『どのツラ下げてぇ!!!』
部下達の叫び声。
まさか
「エステメラルダが来たの!? それともホウファイ!?」
すると
《どけ、雑魚共》
声じゃない。
音だ。
エステメラルダは不適な笑顔を見せ真っ直ぐ私の部屋に向かう。
「入れ」
私の執務室に招き入れる。
しかし、一昨日は王子、今日はエステメラルダか。
《話がある、ビッチ》
カチン。
「だれがビッチじゃ」
エステメラルダの方がビッチじゃねーか。
わたしは、王子一筋じゃ。
《私の目的は王子の殺害ではない》
「本当に!?」
それなら良いんだけど。
《世界を守ることが目的だ。代替案がある》
「なに?」
《アマダの子を産め》
は?
「は?」
そのまんま声が出る。
《アマダの子を産めば世界は救われる》
「わたしが?」
《そうだ。お前とアマダの子だ》
なに言ってるのだ、この間抜けは
「あんたが産め」
《私では意味がない》
そもそも
「あんたは何者なのよ。エステメラルダを乗っ取ってなんなの?」
《神だ》
「意味分からないし」
《分かる必要はない》
まあね
《アマダと子を作らないならば、王子は世界を滅ぼす。いや、正確には王子ではない》
私をゆっくり指差し
《ローメルト・ファルニーズ・リストコールと、ランド=フィリップ=アルスペルド=バレッチェの子、アルドール=フィリップ=アルスペルド=バレッチェが世界を滅ぼす》
わたしは、その言葉に卒倒しそうになった。