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そうやって観察を続けていたが、段々と世界に異変が起こり始める。
新人類以外の動物達が凶暴化し始めたのだ。
いや、凶暴化というレベルではない。
明らかに暴力的に進化を始めている。
小さなネズミが、世代が進むにつれて巨大化し、新人類を積極的に襲うようになった。
ネズミはどんどん毛が抜け落ち、肌は緑色になっていく。
二足歩行を始め、手でこん棒や石を持ち新人類を襲い始める。
ネズミだけではない。
様々な動物や虫、魚、果ては植物まで凶暴化し始めたのだった。
新人類は軍隊をもって対処したが、どうしても軍隊だけでは対処が追いつかない。
そのうち、民間から協力者が現れた。
新人類は彼らを「冒険者」と呼び、一種の職業として凶暴化した動物を処理していった。
各国は凶暴化した動物を「魔物」と呼び、魔物を処理した場合は報奨金を出したり、部位を市場に流すことで冒険者の収入を支えた。
しかし魔物の数は減ることは無く、むしろ増え続けた。
それだけではない。
段々と魔物達は強くなっていった。
それと比例するかのように、新人類は強力な魔法を開発し、これに対抗した。
炎を出して魔物を焼き払う魔法はもちろん、己の肉体を強化したり、魔物を弱体化したりと魔法の幅はドンドン広がっていく。
それでも魔物を完全に駆逐する事は出来ない。
大規模な魔物掃討作戦を実行しても、翌月には掃討前よりも魔物の数は増えているのだ。
新人類が魔物に頭を悩ませている時、私は魔物の発生原因を調べていた。
まあ、ドローンから得られる情報を整理するだけで簡単に原因は分かった。
魔物の発生原因は「魔法」そのものだった。
魔法を使うことで大気中に「魔力のカス」、つまりは「汚染物質」が発生していたのだ。
その汚染物質を動植物が吸引する事で、動物は凶暴化し魔物となっていく。
これが魔物が生まれた原因だった。
では新人類は何故魔物にならないのか?
それは彼らは体内で魔力を作り出す事が出来る魔力臓器を備えており、それが汚染物質から体を守っていたのだった。
例え魔法を使えない者であっても、臓器として体内に備わっている限り、魔物になる事は無い。
時々、生まれつき魔力臓器が無いもの、事故や病気で魔力臓器を失ってしまった者は長い時間をかけて魔物になることはあった。
しかし、それは一種の精神病だという事で新人類は処理していたため、誰も気が付かなかった。
旧人類も大気汚染や水質汚染、土壌汚染には苦労したものだ。
これは新人類に与えられた試練の一つなのだろう。
私は新人類がこの試練をどうやって乗り越えるのかをワクワクしながら観察していた。
そのうち新人類は世界会議を開催し、魔物に対する抜本的解決方法を話し合った。
何故魔物は生まれたのか?
一体魔物は何をするために存在しているのか?
人類はどうすればいいのか?
といった事を世界中の知識人が話し合ったのだ。
もし私がその会議に参加していたならば、
魔物は魔法が原因で生まれた。
魔物は体内で汚染物質を浄化しており、彼らのお陰で地球の環境は維持されている。
魔法を使うことを即時停止し、汚染物質が出ない魔法、もしくは汚染物質を除去する方法を検討するべきである。
と助言していたであろう。
もちろん私に会議への招待状は届いていないし、たとえ届いたとしても参加はしない。
これは彼らの成長に絶対必要な事なのだから。
ドローンから送られてくる情報をワクワクしながら感じていると、会議は変な方向に進んだ。
「この魔物達は人知を超えた何かが作り出している違いない」
「それは神の力を持つ者に違いない」
「では女神様が我々を苦しめているのだろうか?」
段々と会議は私が魔物を作り出しているという結論に近づいていく。