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人工島は太平洋のど真ん中、昔ハワイがあった場所に存在している。


そんな場所に彼らの船がやってきたのだ。


故意にここまで来た訳ではない。

やって来た彼らは遭難している最中だった。


既に水も食料もほとんど残っていない。

極めて原始的な帆船に乗った彼らは偶然、人工島を見つけたのだった。


彼らは何とか島にたどり着こうと必死に船を動かしたが、目視できないバリヤーに阻まれ島へはたどり着けなかった。

結局船乗り達は全員、船の上で餓死してしまうのだった。

しかし彼らは遺した、その後世界を激変させる情報を。


人工島の絵と説明を日記に書き遺したのだった。


真っ白な人工島の絵を、どうやっても近づけない不思議な見えない壁の説明を、そして、人工島から見つめる一人の少女の事を書き残した。



遭難していた帆船はまるで幽霊船の様になりながらも、どこかの国に流れ着いた。

そして人々は死んだ船員の亡骸を弔い、持ち物を調べた。


そして見つけた。

人工島が描かれた日記を。


最初は遭難した連中がおかしくなり、夢でも見ていたのだろうと誰も信じなかった。


しかし世の中には不思議な奴が居るもので、その日記を信じ、遭難のルートを逆算して人工島の場所を探ろうとする輩が現れた。


そしてそんな輩に金銭的支援をする金持ちまで現れたのだ。


大きな帆船に大量の船員を乗せて船は港を出発した。

人々は好奇心に満ち溢れた顔で船を見送っていた。




まあ、結局は人工島を見つけることは出来なかったのだが。


その後も時々、遭難船が人工島の直ぐ側を通りかかる事があった。

そして日記に人工島の情報を遺し、みんな死んだ。


そんな事が続くと人々は「海の向こうに何かある」「それを見たら生きて帰れない」という想いを持つようになるまで時間はかからなかった。

そして船乗りの間では人工島は「死の島」と恐れられ、港を出るときには死の島に辿りつかない様に祈りを捧げる程になっていた。


そんな日々が続き、人々は人工島を探すのを諦めた。


たどたどしいながらも前進していく彼らと観察して、私としてはまるでわが子がヨチヨチ歩きを始めたかの様な感覚となってしまい、あまりの感動に月までジャンプしてしまった程だ。



そんなある日、またしても遭難船が人工島の直ぐ側を通りかかった。


しかし今回の遭難船は一味違った。

装備が今までの遭難船とは桁違いだったのだ。

多分時代の変化なのだろう。

今までの漁船のような船とは違い、ちゃんと居住空間まである巨大な遭難船だった。


遭難船の船乗り達は人工島を見るや否やテンヤワンヤと動き始める。

船を人工島から遠ざけようと帆を広げる者や、舵にしがみ付く者。

必死に人工島に向けて土下座する者や、天を仰ぐ者まで居た。

彼らの言葉を翻訳すると


「どうか!どうか!見逃してください!」

「生まれたばかりの子供が居るんです!どうか!国に帰らせてください!」

「ああ!神さま!お助けください!!」

「早く!早く帆を広げるんだ!急いで逃げるんだ!」

「舵が!舵が動かない!誰か!!」



涙を流し、私よりも大柄な男性達が必死に頭を下げ続ける。

鼻水を出しながら必死に帆を広げる。

緊張の余り力が入らず、舵を動かせない。


そんな彼らを私は肉眼で見ていた。


人工島の岬に立ち、彼らをジッと見つめた。


「みみみ、みんな!!岬を見ろ!!あああ!!助けて!!助けて!!」

「なんて恐ろしい目なんだ!絶対逃がさないつもりなんだ!!急げ!!急げぇぇぇぇ!!」

「こ、この金の置物を捧げます!!どうか見逃してください!!あああ、お願いします!!助けてええええ!!」



遭難船は必死に人工島を離れ、陸地を目指していった。


彼らが初めて人工島を見て生還した船乗りとなったのだった。


それから船乗り達は、もしもの時に死の島に捧げる為の金の置物を欠かさず船に乗せるようになった。



しかし一方で、死の島を見ても生還出来たという情報は世界を駆け巡った。


そして人々が死の島を神秘的な存在と見なすまで時間はかからなかった。


曰く、あの島には黄金が大量にある。

曰く、あの島の少女に願いを言えば、どんな願いも叶う。

曰く、あの少女は実は神様で、我々の平和を守護している。



なんともめちゃくちゃな情報だったが微笑ましい。

まるで、我が子が「私のお母さん」という作文を書き、授業参観で読み上げているような感覚に近いのでは無いだろうか?



そのうち人工島は「死の島」から「神の住まう島」へと名前を変えたのだった。


私はどうやら新人類の神になった様だ。


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