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そんな私がとても興奮した事がある。
あまりに興奮して100年間は感動が続いた位だ。
ある日、ふと外を歩きたくなった私は近くの公園で散歩を楽しんでいた。
すると足元に小さな青虫がモゾモゾと動いているのを見つけた。
その時、なぜ私の足が止まったのか分からない。
私はその青虫から目が離せなかった。
青虫はモゾモゾと動きながら葉っぱを食べていた。
私はジッとその様子を眺め続けた。
そのうち青虫は体に糸を巻き付けサナギになった。
そしてサナギから綺麗な蝶になって空に羽ばたいていった。
そのうち蝶は番となり、次の世代を生み出して死んでしまった。
私はその間、蝶から離れられなかった。
気が付いたら私は散歩に出て1年も家に帰っていなかった。
その間、食事も睡眠も入浴もしていないが、そこは問題無い。
神の如き力を持つ人類にとっては、そんな事は全く問題にすらならなかった。
道端に落ちた蝶の死体を蟻が見つけて巣穴に持ち帰り、蝶は蟻達のご飯となったのだった。
そこまで見て、私は気が付いた。
泣いていたのだ。
私は泣いていた。
体が感動で震えていた。
目の前が一気に開けた気がした。
理由は分からない。
もはや表現出来ない気持ちがこみ上げてくる。
私は生まれて初めて、声を出して泣いていた。
その後、私は様々な虫や動物を観察した。
そしてその度に感動を味わうことが出来た。
何も珍しい虫や動物が対象ではない。
そこら辺にありふれた生き物を観察し続けた。
不老不死の我が身にとって、時間は関係が無い。
私は好きなだけ観察を続けたのだった。
そして人工島の中に存在する生き物を全て観察した私は、産まれて初めて人工島の外に目を向けた。
人工島の外には既に人類は居ない。
完全に環境を管理された人工島には居ない生き物がワンサカいるはずだ。
私はワクワクしながら、真珠玉の様なドローンを大量に解き放った。
ドローンは重力なんぞ関係なく、フワフワと飛び回り、人工島から離れると音速の数倍の速度で地球全体に広がっていった。
空中はもちろん、海中、土中の全てにドローンは飛び込んでいった。
今回解き放ったドローンには一見してカメラもマイクも無い。
しかし私はこのドローンが感じたことを感じる事が出来る。
五感をドローンと共有することで、ドローンが見たもの、聞いたもの、感じたもの、味わったもの・・・、その全てが私に伝わってくる。
もし、脳みそが産まれたままの状態ならば、情報過多で死んでしまうだろうが、私はそんな事は無い。
脳みそすらも人類は改良し、今では大量のドローンから送られてくる全ての情報を簡単に処理する事が出来る。
私は椅子に腰掛け、外の世界を楽しんだ。
流れる川、天を切り裂く稲妻、大地を揺るがす巨大地震・・・。
そんな外の世界を生きる様々な生き物達。
私はそれから長い間、外の世界を観察して楽しんだ。