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また、夜空に花火が打ち上がった。
これで何発目だろうか?
もう一週間は続いているはずだ。
最初の頃は数えていたが、段々と面倒になって1万発辺りから数えるのをやめた。
コンピューターで調べれば正確な数が分かるのだろうが、そこまでする必要も無いだろう。
汗を流し、息切れしながら踊る私しか広場には居ない。
いや、より正確に言うならば、地球には私しか旧人類は残っていない。
人類が地球に産声を上げたのは今から約1億年前の事だ。
それから人類は様々な技術的発展を遂げた。
その技術を使い、人類は地球から飛び出し、遠い宇宙の果てまで活動範囲を広げた。
まるで大航海時代を再現したかのような時代だったらしいが、それも長くは続かなかった。
簡単に言うならば、人類は老いたのだ。
新しい物質はもう見付らない。
新しい技術も見付らない。
人類はこの世の全てを知り尽くしてしまった。
ワープ航法なんて赤ん坊でも理解出来る。
太古の権力者が求めた不老不死は、望めば誰でも手に入れる事が出来る。
エネルギー問題、環境問題、人種問題、宗教問題・・・、様々な問題も既に過去の事だった。
全知全能となった人類にとって、宇宙は既に魅力を失っていた。
その後の世界はゆっくりとした滅亡の時代だった。
人類は活動範囲を狭め、最後には地球に戻ってきた。
まるで黄昏の様に、広い宇宙から人類は姿を消した。
地球に帰ってきた人類は、最初の頃は人口も億単位で存在していた。
しかし時代が進むにつれて、人口は減り続けた。
そして人類は大陸を捨て、この人工島に移り住むことにしたのだ。
人工島が出来た時、すでに人口は1万にも満たなかったが、誰も問題視していなかった。
「やっと長い人類の歴史を終えることが出来る」
そんな想いが人々の間に流れていたのだ。
ひょっとしたら今でもどこかの星に地球人が居るかもしれないが、もはやどうでも良かった。
地球に帰りたいなら帰ってくればいいし、そうでないなら勝手にすればいい。
人工島ではゆっくりとした終焉の時間が流れていた。
そして今から300万年前、私は最後の地球人となった。
私が最後に見送った人は、隣人だった。
特に会話も無く、顔もほとんど見たことが無かった。
お互い家から出ることも無く、ただ時間が過ぎるのを待っていたのだ。
そんなある日、人工島からメッセージが届いた。
そのメッセージには「あなたが最後の人類です。この島は全てあなたの物です」という嬉しくも悲しくも無い文章が書かれていた。
そのメッセージを読み、隣人が死んだことを知った。
隣人の葬式は簡素な物だった。
機械達が簡単な葬式を行い、隣人は火葬された。
私もその葬式に参列し、最後の見送り人となった。
私が人生に飽きて死んだとき、もはや私を見送る人は居ない。
私は機械たちに無機質に処理されるのだろう。
だが私はその事に対して、特に思うことは無かった。
翌日も、私は家の中でゆっくりと本を読んだり音楽を聞いたりして時間が過ぎるのを待っていたのだ。