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第二十五話 壮絶グラスカイザーの最後

「これが宇宙最強種族……」


 ありさは呆然と戦闘を見守っていた。

 健太さんの戦い方ははっきり言ってひどいものだった。

 何の考えもなしに突っ込んで殴る蹴るを繰り返すだけ。

 攻撃は受け放題だし敵の連携攻撃に翻弄もされている。


 だが、それでも着実に敵の数は減っていた。

 あれからまだ三分と経っていないのに残りはもう一人しかいない。


 いったいあの身体能力は何なんだろう。

 反則じゃないの!

 反物質爆弾の攻撃を受けてもビクともしない耐久力。

 一瞬で三〇m近い距離を詰める瞬発力。

 軽く腕を振り回しただけで屈強の男、三人を吹き飛ばす破壊力。


 それにあれは何なの? 

 手を振り回しただけで普通レーザーを弾く? 

 何か特殊な技や装備を使った訳ではないのに単純な力だけで実体のないレーザーを弾くことなどヒーロー星人の常識でも考えられない。


 動きを見ればグラスカイザーが戦闘経験どころか、ケンカすらまともにしたことがない素人だというのは一目瞭然だ。



 なのに……



 これで身体の使い方など覚えたら、戦闘経験を積んだら、いったい、どれだけ強くなるのだろう?

 ありさは末恐ろしくなって身震いしていた。


 そして、グラスカイザーの戦いに引き込まれて完全に油断していた。

 だから、気付いた時には手遅れだった。


 ボスっと後ろから後頭部に一撃くらって倒れこむ。


「しまった。紗也香さん。にげて……」


 意識が白く染まっていく中、何とかそれだけ言うとバサリとありさは倒れていた。





「きゃあぁぁぁぁぁ!」と叫び声が戦場に響き渡る。


 最後の一人を倒し終えた健太は悲鳴の方に振り返った。

 その悲鳴を発したのは体育倉庫の上にいる紗也香だった。


「なんだよ、それ? 嘘だろ? どう言うことなんですか!」


「ごめんなさいね、神代君。どうしてもわたし達にはあなたの力が必要なの」


 彼女は紗也香の両手首を片手で吊るしあげていた。

 そして、その足元には気絶しているのか倒れたスク水ヒロインの姿があった。


「どう言うことなんですか? 黒田先生」


 そう、担任の黒田先生が紗也香を捕まえているのである。

 健太は何がなにやらわからなくて駆け寄ろうとしたのだが、先生が手を上げて制した。


「ストップよ、神代君。それ以上、近付いたら星野さんの生命はないわ」


 そう言いながら先生は紗也香の喉元にナイフを突き立てた。


「やめてください。オレ達が争う理由なんてないじゃないですか? 何で先生がそんなことを」


 健太は唇を噛みしめて先生を見上げている。

 そんな健太を悲しげに見下ろしながら先生は言った。


「ごめんなさいね。わたしがこいつ等のボスなの。あなたの力を狙った張本人なのよ」


「うっ、嘘だ! 先生はずっと前からうちの学校にいたじゃないか!」


 健太は信じられなくて大声を上げていた。

 だが、先生は否定してくれなかった。

 自嘲的に笑いながら話しだす。


「わたしは銀河連邦に追われてこの地球に来たの。教師をしていたのは潜伏するための仮の姿。このまま、教師を続けていくのも悪くないかな、と思い始めてたんだけど……。わたしはあなたに。メガネ族に出会ってしまった。昔、抱いた夢を思い出しちゃったの」


「そんな……」


 健太は言葉を失っていた。

 先生の口から直接聞いたのに、まだ先生が悪党だとは信じられない。

 健太は黒田先生のことを思い出しながら唇を噛んだ。


 優しく、生徒想いの美人教師。

 年齢が健太達と近かったからか生徒の目線でいろいろ世話を焼いてくれた。

 生徒達の間では彼女に憧れている人も少なくなかった。

 健太も彼女のことは好きだった。



 それなのに……、


 それなのに……。



「先生。いままでの先生は嘘だったんですか?」


「そんなことないわよ。どちらもわたし。でも、もう教師には戻れそうにないわね」


 黒田はすこし残念そうに顔を伏せる。

 そして、顔を上げた時にはその目から迷いは消えていた。


「もう一度聞くわ。神代君。わたしと一緒に来ない?」


「オレは正義の味方だ。悪の手先にはなれない」


「あなたが言う正義とはなんなの? わたしが悪に見える?」


「それは……」


 健太は黒田先生の姿を見て心が揺らいでいた。

 もう何が何やらわからない。

 健太が混乱していると彼女はゆっくり、諭すように語りかけてきた。


「わたし達は何も悪いことなんてしてないの。神代君が戦ったヴァーダム星人も元々は善良な種族なのよ。異形の姿と普通より大きな力を持っているだけ。彼等に問題があるとすれば首元にあるウロコに触れられると自制が効かなくなることくらい。それだけのことであの種族は迫害されてきた。それはわたしの種族も同じ。わたしの星は暴動が起こったということだけで破壊されたわ。テロリストも善良な市民もみんな一緒に消えてなくなった。わたしの家族もね。――それでも正義は連邦にあると思う?」


 健太は答えられなかった。

 それを見た黒田先生は涙を流して健太に懇願する。


「わたし達は悪くないの。ただ、権力を持っているというだけで好き勝手する連邦の方が悪い。お願いわたしに力を貸して。わたし達なら理想の世界を作り出せるわ」


 そう言って手を差し出してくる。

 健太は思わずその手を取りそうになった。


 だが、寸でのところで思い留まる。


「先生、あなたの言うことはわかります。でも、紗也香の喉に刃物を突き付けるような人の言うことは聞けない。人質を取った時点であなたに正義はない」


 健太は黒田先生の目を見詰めてそう断言した。

 彼女は「生徒を殺したくなかったんだけどね」と一事だけ呟くとその姿を変えていく。


 ヴァーダム星人とよく似た姿。

 でも、それは全く違うもの。



 それはヘビの化け物だった。



「じゃあ、大人しく死になさい! バルガス!」


 黒田先生の叫びに反応して瓦礫の中からヴァーダム星人が飛び出してくる。

 そして、渾身のパンチを繰り出してきた。

 健太は死角からいきなり襲われて綺麗に吹き飛んで地に倒れ伏した。

 その間に黒田先生はゆっくりと近づいてきて紗也香をヴァーダム星人に預ける。


 そして、健太の頭を掴み上げて聞いてきた。


「これが最後よ。神代君。わたしと一緒にこの世界を支配しましょう」


「断る!」


 そう叫ぶと同時に健太の頭は地面に叩きつけられた。

 頭部を彼女の足が踏みつけている。


「強情な子ね。嫌いじゃないけどわたし達には時間がないの。わかっているわね。少しでも動けば星野さんの生命はないわ」


 黒田先生はニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。

 ヘビの顔にはその表情が非常に似合っている。

 そこには先生の面影は欠片もない。


 彼女はおもむろに健太の顔を掴み上げると、無抵抗な鳩尾にパンチを入れた。

 グオっと苦しげな息を吐き、健太は悔しそうに顔を上げる。


「先生。オレはどうなってもいい。紗也香を、紗也香だけは離して……」


「ふっ、ははははっ……別にあの娘に用はないわ。あなたが死んだら解放してあげる」


 そう楽しそうに言うと両手で首を絞めながら吊上げていく。


「くっ、くはぁぁぁ」


 健太は苦悶の息を漏らした。

 反射的に振り解こうとしてしまうが、紗也香のことを思い出して手を止める。


「いやだ! やめてえええ! 健太! わたしのことなんてどうなっても良いの。だから、戦ってえええええ!」


 紗也香の泣き叫ぶ声が聞こえる。

 気のせいかとも思ったが紗也香は側にいた。


 もう少し、あと一歩で手が届くのに。

 そうは思ったが敵もそこまで甘くなかった。

 健太の手が届かないところまでしか近づいてこない。


「これで最後ね! ごめんんさいね。神代君」


 その声はどこか悲しげで、それでいで残虐で、楽しそうだった。


 首を絞める手に力が込められる。

 健太の喉を圧迫感が襲ってきた。

 健太は覚悟を決めて目をつぶる。


「せめて紗也香だけでも助かってくれ」


 健太の祈りは誰に対してのものだったのだろうか? 

 虚しくも最後の声は誰にも届かなかった。


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