第二十四話 謎の美少女戦士現る
「待ちなさい!」
突然の大声にみんなが驚いていた。
声の主を探して視線が一斉に声の方に向かった。
すると……
いた!
さっきまで誰もいなかった半壊したバックネットの上に影が現れていた。
ちょうど逆光になっているため下にいる紗也香にはそれが何かはわからない。
太陽の光を眩しそうにしながらその陰に向かってヴァーダム星人が叫ぶ。
「何者だ!」
それに応えずに影は怪人達の真ん中に飛び込んで、紗也香を拘束していた戦闘員の頭の上に着地。
そのまま頭を蹴っ飛ばして倒すと、素早くバク転して紗也香を取り返した。
「もう、大丈夫よ」
と、その影は優しげに微笑んだ。
「スク水?」
謎のヒロインは長い光り輝く金髪をたなびかせ。
手には肘まで隠れるような白い手袋。
足は膝まで届く白いロングブーツ。
真っ赤なマントを羽織。
そして、そのマントの中身は……
紺色の水着?
……これってスクール水着よねぇ?
紗也香が首を傾げたくなるような姿をしていた。
助けられてホッとするのもつかの間だったが、助けてもらった相手の格好を見て紗也香はギョッとしていた。
それは紗也香だけではなく、健太も怪人達も見物していた一般生徒もそうだったみたいだ。
辺りがざわついている。
特に他人事を決め込んで見物客と化している一般の生徒達の反応は酷かった。
「おい。あれ何なんだ?」
「露出狂? コスプレマニア?」
「正義のヒロインだろ!」
「でも、あれってどう見てもスクール水着だろ?」
「スクール水着のヒロインなんて燃えるじゃないか!」
「萌えるの間違いじゃねえの」
「うわぁぁぁ、それにしてもスタイル良いなぁ」
「ホント。見ろよ。あの胸。デケエェェ!」
「うわぁぁ。揺れてるのがここからでもわかるよ」
「そんなのわかる訳あるか!」
「オレの視力はオッパイを見る時は五.〇になるんだ」
「男子それってセクハラよ。女の子の胸をそんな目で見ないでよ」
「うるせぇ。自分が小さいからってひがむなよ」
戦闘を他所に緊張感をなくすような騒ぎが校舎のあちこちで起こっていた。
もう、バカバカしくて収拾がつかない。
そんな騒ぎを聞きながら謎のヒロインは顔を真っ赤にして羞恥に耐えていた。
そんな中、いち早く我に返ったのはワニ面のヴァーダム星人だった。
「お前ら何をやってるんだ。早くそいつを捕まえろ!」
それで正気に戻ったのか戦闘員達がスク水ヒロインに襲いかかる。
それをひらりとかわした彼女は紗也香を抱き上げて、健太とは反対側にあるバックネット横にある体育倉庫に飛びあがった。
「これでひとまず大丈夫ね」
謎のヒロインは安堵の息を吐く。
「あんた。あいつ等のボスじゃなかったの?」
「何でわたしが敵なんですか! わたしは正義の味方なんですよ」
「だって、あいつ、自分達のことを蔑んできた奴らを見返すとか言ってたし、あのワニ男を連れてったのあんたじゃん。仲間だから逃がしたんじゃないの?」
「そんなことするわけないじゃないですか!」
よっぽど、心外だったのか彼女は目を吊り上げて怒っている。
紗也香はまあまあと彼女を宥めながら礼を言った。
「ありがとう。早瀬さん」
紗也香の一言にスク水ヒロインは凍りついた。
「なっ、何を言ってるんですか? わたしは『ありさ』なんかじゃありません」
思いっきり動揺した声でそう答える。
紗也香が『早瀬さん』と言っているのにスク水ヒロインは『ありさ』と言っている。
この時点で自分の正体を明かしているようなものだが、彼女にはそのことに気付く余裕はなかったみたいだ。
紗也香はフウっと大きな息を吐く。
「どっからどう見ても早瀬さん以外の何者でもないじゃない? 顔丸出しだし」
「何言ってるんですか? ほら髪の色は金髪だし、それにありささんはこんな恥ずかしい格好はしません!」
「なるほど、自分でも恥ずかしいと思ってるんだ」
「なっ、なんと言うことを――」
「もういいじゃない早瀬さん」
「わたしは『ありささん』じゃありません。正義のヒーローやヒロインは正体を見破られないものなんです!」
「何をわけのわからないことを言ってるのよ」
「じゃあ、他の人の反応を見てください」
と校舎の方を指差す。
紗也香が耳を澄まして見ると
「おい、あのヒロインってもしかしてうちの生徒じゃない?」
「ええ、でもあんな綺麗な子いた?」
「あの胸には見覚えが……」
「どこの誰なんだよ! あんな子、彼女にしてええええ」
聞こえる範囲なのだが誰も彼女の正体に気が付いてないようだ。
紗也香は驚きを隠せない。
なんで?
みんなの目は節穴なの?
早瀬さんは美少女転校生と言うことでかなりの噂になっていた。
休み時間などわざわざ見に来る下級生や上級生もいたぐらいだ。
全校生徒がその存在を知っていると言っても過言ではないだろう。
それなのに誰も気付いてないの?
恐るべき「お約束」である。
「ほらね。わたしの正体なんて誰にもわからないんだから」
謎の美少女ヒロインはその大きな胸を誇らしげに逸らしていた。
だから、紗也香は溜息交じりに突っ込んだ
「はいはい。わかった。わかった。あんたは『ありさ』じゃないってことでいいわ。でもね。わたしにとっては死ぬほどどうでもいいことなんだけど、その胸のゼッケンは外しといた方がいいんじゃない。『2年4組 早瀬ありさ』さん?」
スク水にゼッケンは付き物だ。
だからと言って正体を隠している身としては外しておくべきだったのだ。
早瀬さんはガーンと打ちひしがれている。
本名がデカデカと書かれていてはこれ以上、否定のしようがない。
本当に気付いていなかったの?
と紗也香は呆れかえっていた。
そんなバカなやり取りをしている間にも怪人達は攻撃を再開していた。
戦闘員が体育倉庫に飛び上がってくる。
「早瀬さん。そんなことしてる場合じゃないでしょ。来たよ。敵! 敵だよ!」
紗也香が必死に叫ぶ。
しかし、早瀬さんはヤル気もなさそうに紗也香を背後に庇いながら、体育倉庫に上がってきた怪人を次々と蹴り落としている。
体育倉庫の屋根はそれ程広くないので数を使って攻め込めない。
それに下手に武器を使えば紗也香を傷つけてしまうかもしれない。
大切な人質を傷つけられないのは敵も一緒なのだ。
戦闘員たちは完全に攻めあぐねている。
それを見越してここにきたのか早瀬さんには余裕すらあった。
紗也香は感嘆の表情でその戦いぶりを見ていた。
グラスカイザーの攻撃が直線的で力任せなのに対して、彼女の動きはフワフワと蝶のように舞っている。
特にスピードが速いようには見えないのだが、その動きは誰も捉えられない。
見物していた生徒達も紗也香も健太さえも見惚れていた。
『うわぁぁ。スゲえ。あんなデカイのが揺れてるよ』
惚けた健太の声が紗也香の耳に入ってきた。
何かの手違いか健太の考えていることが通信機を通して漏れてきたのだ。
紗也香の怒りゲージは急上昇していく。
「あんたどこ見てんのよ! 胸がでかい! 揺れてる! そんなこと考えてる暇があんなら、とっととこいつ等をやっつけなさいよ!」
勢いよく怒鳴りつけた後、「はあ、はあ、はあ……」と紗也香は荒い息をついていた。
「デカイとか揺れてるとかそんな大きな声で……」
早瀬さんは紗也香の突然の叫び声に驚いて顔を真っ赤にしながら、その大きな胸を隠すように腕で覆っていた。
しかし、それは完全に逆効果だった。
抱えるように腕に圧迫された胸が奇妙な形に潰れて余計に男達の視線を釘付けにしている。
なんか悔しいから言わないけど。
健太もそんな彼女の仕草に目を奪われたのか動きを止めていた。
紗也香はジト目で健太を睨んだ。
それに気付いたのか健太がワザとらしく気合いを入れる。
「人質がいなければこっちのものだ。行くぞ! ヴァーダム星人!」
叫ぶと同時に健太は低い体勢になって弾丸のように飛び出していく。
三〇mくらいの距離が一瞬で詰まっていた。
ヴァーダム星人がそれに気付いて身構えた時には既に健太は懐に飛び込んでいる。
「くらええええええ」
健太は全身を巻き込むようにして右フックを奴の顔に叩きこんだ。
ヴァーダム星人は健太のスピードについていけずに抵抗をする暇もないまま錐揉みしながら横に撥ねていきバックネットの残骸に突き刺さっていた。
ヴァーダム星人が何の抵抗も出来ずにヤラれて戦闘員達は混乱しだした。
このまま人質を取り戻すために紗也香達への攻撃を続けるか?
それともグラスカイザーに対抗するか?
迷っているようだ。
それはほんの数秒の出来事だった。
が、その隙が健太にはありがたかった。
健太は敵の真ん中に突っ込んでいく。




