第二十三話 ピンチ! グラスカイザー
パリーンと派手にガラスの割れる音が響いた。
敵の視線に一気に集中してくる。
それを気にすることなく光の矢となった健太は敵目掛けて突っ込んでいた。
「来ちゃダメえええええ!」
紗也香の絶叫が校内に響き渡っている。
だが、それが健太の耳に届くことはなかった。
すでに特攻した後だったのだ。
校庭は土煙に覆われて何も見えない。
みんなが固唾を飲んで見守る中、やっと土煙が晴れてきた。
視界はまだ悪いが、校庭の真ん中に大きなクレーターが確認できた。
しかし、その中心にはグラスカイザー以外誰もいなかった。
「くっ、くそぉ。偽物か! あいつ等どこに行きやがった」
敵の策略にまんまと乗せられた健太はクレーターから飛び出すと敵を探して辺りを見回した。
ちくしょう。どこに行った。
紗也香は、紗也香は無事なのか。
焦りで思考が上手く進まない。
「グラスカイザー。不意打ちとは卑怯だぞ! それでもヒーローか!」
敵の一人が叫んだ。
健太は声の方に振り返る。
――いた。半壊したバックネットの脇だ。
紗也香を羽交い絞めにして抑えつけている戦闘員が目に入る。
紗也香は敵の手から逃げ出そうともがいていた。
それを見て健太は安堵の息を吐いた。
どうやらまだ無事みたいだ。
あれだけ元気なら心配はないだろう。
安心したら抑えつけていた怒りが爆発した。
「貴様ら。人質を取るとは汚いぞ! 何者なんだ」
「我々は――」
「貴様らのような卑怯者の名前など知りたくもない。さあ、言われた通りに出て来たんだから紗也香を返せ!」
「本当に自分勝手な奴だなぁ……。まあいい。お前もここまでだ。大人しくオレ達の言うことを聞け」
「うるさい。訳のわからないことを言ってないで紗也香を返せ」
「お前はバカか。何でオレ達が人質を解放しなくてはいけないんだ」
「お前の目的はオレにあるんだろう。関係のない者は解放しろ!」
「ふっふっふっはっははははは! バカめ。この女がお前の関係者であることは確認済みだ。この女を助けたければ黙ってオレ達のいうことを聞け!」
「なんでオレがお前等なんかの言うことを聞かないといけないんだ!」
「これなら言うことを聞いてくれるかな?」
戦闘員はニヤリと笑い紗也香の頭に銃を付きつける。
見たこともない形状でオモチャのように見えるが本物だろう。
そこには武器特融の禍々しさが漂っていた。
「卑怯な……」
健太は悔しそうに一歩後ずさった。
「悪人に何を期待しているんだ。いいかよく覚えておけ、手段など関係ない世の中勝てばいいんだよ。勝てば」
楽し気に笑う集団を見ながら健太は悔しそうに拳を握りこむ。
しかし、それだけ。
人質がいては何も出来ない。
「お前ら。それくらいにしておけ。仲間になるかも知れない奴を怒らせてどうする」
背後からいきなり声がした。
紗也香に気を取られて声をかけられるまでその存在に気付かなかったのだ。
健太は慌てて振り返った。
そこにいたのは……
「お前はあの時のヴァーダム星人」
「久しぶりだな」
ニヤリとそいつは笑っていた。
「やっぱりお前はメガネ族だったみたいだな」
「お前は捕まったはずじゃなかったのか?」
「そんなことはどうでもいいだろう? オレはお前と取引をしに来たんだ」
「取引?」
「そうだ。お前が我々の味方になればこの娘は開放するし、他の者にも手を出さない」
「ふざけるな。そんなこと、信用できるか。それにオレは正義の味方だ。どんなことをされても悪人の片棒を担ぐようなことはできない」
「別に言うことを聞いてくれないのなら、お前にも、彼女にも、そして、ここにいるみんなにも、死んで貰うだけだ。お前には多額の懸賞金がかかっているんだ。オレ達はそれだけで満足することにするよ」
その時、それまで黙っていた紗也香が声を上げた。
「あなた達、何か勘違いしてるんじゃないの? メガネ族にかけられた懸賞金はなくなったのよ。グラスカイザーを殺しても意味はないわ」
「黙れ」と戦闘員が紗也香の口を塞ごうとしたが、それをヴァーダム星人が制した。
「連邦が懸賞金を撤回したことくらい知っている」
その発言に部下たちは驚きの声を上げた。
だが、それを無視して彼は話を続けた。
「でもな。それは連邦だけだ。裏の組織ではその数十倍の額がかけられている。連邦の懸賞金が無くなったことなどあまり関係ないんだ」
紗也香は「そんなあ」と呟いて項垂れていた。
それが彼の期待通りの表情だったのかヴァーダム星人は愉快そうに笑っていた。
健太は奴を睨みつける。
「紗也香は関係ない。彼女を開放すれば、オレのことは自由にしてくれていい」
「ダメよ。そんなの!」
紗也香の悲痛な叫びが健太の心に響いていた。
そして、その声は「紗也香だけは必ず助ける」ともう一度健太に決心させるものだった。
そんな二人のやり取りを見ていたヴァーダム星人が健太に近づいてくる。
「そんなにあの娘のことが大切なのか? あの娘を助けたいか?」
「当たり前だろうが!」
「わかった。彼女は助けてやる。ただし――」
そう言ってグラスカイザーの顎を掴み上げた奴はその大きな口を開け、幾十も並ぶ牙を光らせた。
「お前は今日からオレ達のボスのものだ。その身も心もな」
嬉しそうに笑う姿に。健太は嫌悪感を抱いていた。
「おい、それじゃあ。賞金が」
「黙ってろ。賞金なんてメガネ族の力が手に入ればいくらでも取り返すことが出来る。それにボスがこいつの子供を産めばその力は増え続けるんだ。そうすればオレ達のことを蔑んできたあいつ等に仕返しができる」
「ボスって、もしかして」
紗也香は何かに思い至ったのか顔を青ざめさせていた。
健太はそんな紗也香の態度を訝しみながらもヴァーダム星人を睨みつける。
「わかった。早く、紗也香を開放しろ! オレは何もしない」
「まだ、自分の立場がわかっていないようだな。お願いするのはお前の方なんだよ。それにその生意気な目。お前、仲間になる気なんてないだろう」
そう言いながら奴は健太の鳩尾に一撃加えた。
完全な不意打ちだったために健太の身体がくの字に折れた。
健太は苦しそうに呻きながらも顔を持ち上げてヴァーダム星人を睨みつける。
「あははははは。いい目をしている。その目がいつまで続くかな」
そう言いながら拳を振り上げた。
グラスカザーが身構えると
「グラスカイザー。指一本でも動かせばあの女の命がないぞ」
「くっ…………」
健太は悔しげに睨むことしか出来なかった。
ヴァーダム星人は健太が動かないことを確認するとその拳を振り下ろす。
次々と唸りをあげてパンチが、キックが健太の身体をしたたかに打ちつけた。
健太はそれに耐えていた。
コンクリートを粉々に打ち砕くような一撃が次々に叩きこまれる。
だが、そんなにダメージはない。
ヴァーダム星人の力は脅威だが、それは地球人に対してのもの。
変身したグラスカイザーに取ってはなんてことはない。
息が切れるまで殴り続けていたヴァーダム星人は、やっと、それが無意味なことを悟ったのか手を止めた。
諦めたのか?
と奴を見ると、ヴァーダム星人はこちらを見て口の端を釣り上げた。
ワニの顔は表情を読み取り辛いが、健太にはそれがはっきりと感じ取れた。
こいつは笑っている。
酷く歪んだ感情が伝わってきた。
奴は離れた仲間のいる位置まで戻り、部下から大型のミサイルランチャーを奪い取った。
「ダメです。反陽子爆弾をこんな至近距離で使ったら我々も無事では済まない! それに被害が――」
「うるさい! これぐらいじゃないと奴には効かないんだ。それにどうせ地球も消えてもらうんだ。後で消す手間が省けるわ」
ヴァーダム星人は部下が制止するのを無視してトリガーを引いた。
発射されたミサイルがグラスカイザーに一直線に飛んでくる。
グラスカイザーはその部下の言葉に声を失っていた。
「学校が消える?」
戦闘員の動揺の仕方から言って嘘はないようにみえる。
と言うことはあのミサイルは凄まじい威力を秘めているのだろうか。
かわすのはもちろんあのミサイルを受け止めても余波が後ろに伝われば校舎にいる生徒達の生命も危ないと言うことになる。
そんな事をさせる訳にはいかない。
健太は覚悟を決めて両手を大きく広げるように身構えた。
「あははははは。死ねえええええ。グラスカイザー」
その叫びはミサイルの爆音にかき消された。
校舎中の窓ガラスが悲鳴を上げ、窓から乗り出すように見ていた生徒は余波で吹っ飛んでいる。
その爆発の中心は煙と砂埃でよく見えない。
勝利を確信したのかヴァーダム星人は高笑いを上げていた。
が、すぐに表情が曇る。
「どう言うことだ? 被害が少なすぎる」
いま放たれたミサイルは反物質を使っている。
この世のありとあらゆる物質は反物質に触れれば対消滅を起こし存在出来ない。
しかも、その時に起こるエネルギーはとてつもなく学校どころか日本中を跡形もなく吹き飛ばすはずだった。
なのに……。
奴が呟いた時、砂煙が晴れてきた。
そして、その奥には健太が立っている。
健太は言われた通り一歩も動かなかった。
それどころかミサイルの衝撃をすべてその身で受け止めていたのだ。
「こんな攻撃がオレに効くかぁ!」
健太が雄叫びをあげる。
その声で周囲の大気がビリビリと震えた。
見物していた生徒達から歓声があがる。
「信じられない。反物質だぞ。なんで、そこにいるんだ? しかも無傷だなんて……」
目の前で起こったことが信じられないのかヴァーダム星人は呆然自失となっていた。
そんな敵を見ながら健太は息を整える。
ふう、何とかなったか?
ああは言ったがさっきの攻撃は危なかった。
虚勢を張って叫んでみたが、もう一度、喰らえばタダではすまない。
あれで敵が引いてくれればいいのだが……。
『健太! 健太!』
その時、紗也香の声が耳に飛び込んできた。
慌てて紗也香を見るが、敵の中にいる紗也香に大声を上げているようすはない。
気のせいか、と思いかけたがまた声がした。
『健太。大丈夫なの! 健太』
『紗也香か? こっちは無事だけど……』
『良かった』
紗也香は心底ホッとして息を吐いている。
『いま無線で話しているんだけどそれに気付かれたらマズイわ。敵に気付かれないように気を付けて』
『わかった。それよりお前の方が心配だ。大丈夫なのか?』
『ええ、今のところ問題ないわ。そう簡単に人質には手を出さないわよ』
『逃げられそうか?』
『無理だと思う。わたしが確認しただけで一八人。同じ格好している人が多いから正確な人数は分からないけど相手は武器を持っているし、力がすごいの。相手が素手でも逃げられるとは思えないわ。動揺している今でも逃げ出そうとすれば直ぐに捕まると思う』
『そうか……。そうなると持久戦になるなぁ。向こうの意識がどこか別の方に向いてくれれば一気に殲滅する事も出来るんだけど。じいちゃんが助けに来てくれれば……』
健太は口惜しそうに唸る。
『健太、いない人を頼っちゃダメ。いまはできることだけ考えよっ』
健太は自分が情けなった。
何の力も持たない紗也香が自分の方が危険なのに健太のことを気遣い励ましているのだ。
こんなところで落ち込んでいる場合じゃない。
でもどうする?
グラスカイザーにはタイムリミットがある。
それは気付かれていないと思うが、このまま一方的に攻撃されればエネルギーも底を尽きて変身が解けてしまう。
健太はエネルギーゲージを確認すると、さっきのミサイルの攻撃だけで一割近くのエネルギーを消費していた。
残りは約七〇%。あの攻撃を無防備に受ければ後五,六発でやられてしまう計算だ。
健太は余裕の態度を崩さないようにしながら、打開策を練っていた。
ヴァーダム星人も攻めあぐねていた。
彼等の持つ最も破壊力のある攻撃を喰らってもグラスカイザーはびくともしないのだ。
倒そうにも倒す方法がない。
実を言うとヴァーダム星人にも時間がなかったのだ。
メガネ族は最低でも二人いる。
人質がいるから下手に手を出してこないだろうが、あんな化け物二人を同時に相手にするなんて考えただけでゾッとする。
特に爺の方は底が知れない。
それに銀河連邦が出張ってくる可能性も、奴等のことだ。
人質もろとも……。
欲をかき過ぎたか……
でも、今更引き返すことは出来ない。
もう連邦は動き出しているだろう。
ここで成果を上げなければそれはそれで終わりだ。
ヴァーダム星人は口惜しげにグラスカイザーを睨みつける。
「ええい。攻撃が効いていないはずがない。みんなで一斉に攻撃するんだ」
「おおおう」と敵から怒号が上がり、そこかしこから銃声が響き渡った。
健太はそれをただ黙って受け続けていた。
だが、それではいつかやられてしまう。
健太の不安を煽るかのようにエネルギーゲージはその光の帯を短くしていった。
「ちっ、このままでは」
グラスカイザーの仮面の下は焦りの色が覆っていた。
どうする一か八か突っ込むか?
動いたからと言って直ぐに紗也香に危害を加えるとは思えない。
でも、無事に助けられるか?
それに何もしないなんて保証なんてどこにもない。
やっぱり、ダメだ。
紗也香の命が一番だ。
でもオレが死んだら紗也香はどうなる……。
健太の思考は堂々巡りを繰り返すだけで何も良いアイデアは浮かばなかった。
無為な時間だけが経過していく。
「おい、グラスカイザーがヤバそうだぞ」
「星野さんはどうなるんだ」
「それより、ここもヤバいんじゃないか?」
「早く逃げた方が――」
教室にいるクラスメート達に不安が広がっていた。
人質を取られて手も足もでないグラスカイザーは誰の目から見ても劣勢だった。
どうするの?
このままでは星野さんが……。
でも、あんなことを……。
でも、このままじゃあグラスカイザーも……。
頭の中で、『でも』が連鎖している。
否定しているばかりで考えがまとまらない。
その時、一段と大きな爆発音が聞こえた。
人ゴミを避け教室の隅にいたのに、ここまで爆風が飛んでくる。
ダメ、躊躇っている場合じゃない。
そう決意して教室を飛び出した。
誤字脱字報告、感想など頂けたら嬉しいです。
次回投稿予定は9月24日19時を予定しています。
お楽しみに




