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第二十話 宣戦布告、わたしは引き下がらない!

 バトルが始まって早一週間。

 紗也香は平気だったが早瀬さんはかなり苛立っているようだった。

 最近は被っていた猫がかなり禿げてきている。

 なり振り構っていられなくなったのかも知れない。

 相変わらず健太を取り合っていることは恥ずかしかったが、この前までと違って気分は良かった。


「紗也香も変わったわねえ。お母さん嬉しいわ」


「誰がお母さんよ!」


「ホント。一時はどうなるかと思ったけど、これでこそ紗也香よ。紗也香はガンガン当たって砕けて貰わないと」


「そうよ。まあ砕ける前に壁の方が持たないと思うけどね。健太君も大変だな」


「あんた達いい加減にしなさいよ」


「紗也香が怒った。逃げろおおおおお」


 本当に馬鹿ばかりなんだからと紗也香は苦笑いしていた。

 その時、背後から鋭い視線を感じた。

 軽い寒気さえ感じる。

 振り向くとそこには早瀬さんがいた。


「星野さん。お話があるの」


 紗也香は彼女の真剣な目に怯みそうになるがここで引いたら負けだと思い、後ずさりそうになるのをグッと堪えて胸を張る。


「ここじゃまずい話よね。お昼休みに屋上に行かない?」


「じゃあ、お昼に」


 それだけ言葉を交わして彼女は席に戻っていった。


「うわあ、修羅場だ」


 そんなことを言う涼子たちに一発ずつ頭を叩いてから紗也香も席に戻った。

 もう、バカをやるような気分ではなくなってしまったからだ。


 紗也香は昼休みの決戦に向けて気合を高めるためにそっと目を閉じた。


 お昼休みになって二人は同時に席を立った。

 決戦に挑む前なので紗也香はすでに臨戦態勢だ。

 気迫が全身からにじみ出ている。


 そんな二人を不思議そうに見ていた健太に「今日は二人でごはん食べるから」といい置いてから屋上に向かった。

 健太は何か言いたそうにしていたがついてはこなかった。


 屋上には誰もいなかった。


 一応、立ち入り禁止になっているが、鍵がかかっていないのでここは有名な穴場スポットになっている。

 紗也香は屋上に誰もいないことを確認してから鍵を閉めた。

 こうしておけば暗黙のルールで誰も入ってこない。


 振り返ると早瀬さんはフェンスにもたれかかって空を見上げていた。

 紗也香は彼女の方に向かって歩きながら口を開く。


「話ってなんなの?」


「わたしの目的は知ってますね?」


「ええ、健太をヒーロー星に連れて帰るんでしょ」


「そうよ。わたしはそのために来たの。星野さん。わたしの邪魔は止めてくれない?」


「そんな理由で健太をたぶらかす人の言うことは聞けないわ」


「これにはわたし達一族の命運がかかっているの」


 早瀬さんは切羽詰まった顔をしていた。

 それを見て紗也香は息を飲む。


「命運がかかっているってどう言うことよ」


 健太のことを考えればここは無視した方がいい。

 それはわかっていた。

 聞けば彼女に同情してしまう。

 しかし、聞き返さずにはいられなかった。

 そんな紗也香をジッと見てから彼女はゆっくり語りだした。


「わたし達一族は戦争に敗れて魔法の国の支配下に入った。彼らもヒーローを名乗る一族だからひどい扱いはされなかったわ。だけど……。わたし達はメガネ族とは反対で女性だけが戦士となる種族なの。その戦闘力を見込まれたわたし達は、わたし達は……あんな」


 早瀬さんは顔を真っ赤に染めて俯いている。

 紗也香には何があったのか想像することさえ出来なかった。

 だが、彼女の激しい感情だけは伝わってきた。


「健太さんには悪いと思うけどメガネ族の力があればわたし達はそこから解放される。わたし達を助けて欲しいの! 救って欲しいの! わたしの妹や子供たちにあんな思いはもうさせたくないのよ!」


 彼女の縋るような目が紗也香の胸を打っていた。

 一族を背負う責任感。

 家族への愛情。

 そして、彼女の想い。

 そんな感情が混ざり合って紗也香の心を砕いていく。


 でも……、でも! 

 彼女にどんな事情があろうと健太をそんなところにはやるわけにはいかない。

 健太を失いたくない。

 紗也香は早瀬さんに同情してしまいそうになるのを懸命に抑え込んだ。


「それを聞いたら余計に渡せないわ。健太を戦場になんて、危険な場所になんて行かせられない」


「そんなに危険なことはないわ。メガネ族の戦闘力は圧倒的なの。あなたも見たでしょ。何の戦闘経験のない健太さんはヴァーダム星人を無傷で倒してしまった。あの人はかなり強かったのよ。健太さんはいてくれるだけでいいのよ」


「そんなことわからないじゃない。それにそんな理由で健太の心を弄ぶのは許せないわ」


「弄ぶって……じゃあ、そう言う打算がなければ文句はないのね?」


「えっ」


「わたしが健太さんのことを本気で好きになったら問題はないのね」


「なっ、何言ってるの?」


「最初は打算だったかもしれない。でも、少しずつ健太さんのことを知って――」


 やだ。何言ってるの。


 これ以上聞いたら……。


 それ以上は言わないで……。


「――わたし、健太さんのことが好きです」


 早瀬さんはすっきりとした顔をしていた。

 何か吹っ切れたような清々しい笑顔だった。

 紗也香はそれが信じられなくて呆然と見ている。


「わたしは初めて男の人を、健太さんを好きになったの。だから、誰にも渡したくない。一族の運命とかそんなもの、もう関係ないの」


 早瀬さんは紗也香の瞳をじっと見詰めてくる。

 紗也香はその視線から逃げ出したかったのにその澄んだ瞳に吸い込まれるように目が離せなかった。


「星野さん。あなたの気持ちを聞かせてくれる?」


「わたしの気持ち?」


「わたしは自分の気持ちを正直に話した。あなたの気持ちを聞かせて?」


「わたしは……。わたしは……」


「…………」


 彼女は紗也香の答えをじっと待っている。

 だが、紗也香は応えることが出来なかった。

 そんな紗也香を見ていた彼女は大きく息を吐いて


「がっかりだわ。そんな覚悟しかないくせに『健太さんに近付かないで』ですって? そっくり、そのまま、お返しするわ。……この意気地無し」


 そう言い捨てて早瀬さんは屋上から出ていった。

 紗也香には彼女の後姿を見送ることしか出来なかった。


 一人残された紗也香は誰もいない屋上でただ風に吹かれていた。




誤字脱字報告、感想など頂けたら嬉しいです。

次回投稿予定は9月11日、19時を予定しています

お楽しみに

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