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第十七話 ワニの死んだふり小悪魔風ステーキ?

 フンと勢いよく振り返って紗也香は比呂さんを視線から外す。

 早瀬さんの視線が少し痛かったが、まあ、やってしまったことはしょうがないと開き直った。


 そして、沈黙に耐えられなくなった早瀬さんが顔を引きつらせながらワザとらしく話題を変えた。


「それにしてもこの人、目を覚ましませんね。このまま放っておいていいのですか?」


 早瀬さんはそう言いながら、この部屋の真ん中に転がっているワニ男。

 ヴァーダム星人を覗き込んでいる。


 そうだった。

 健太が倒した宇宙人がいたんだ。

 比呂さんの話ですっかり忘れてしまっていたがこいつの始末もあったんだ。

 紗也香はヴァーダム星人を見ながら頬をかく。


「もしかして、死んでるのかなあ?」


「いや、そんなことはないと思うぞ。……う~ん。でも息はしてないな」


 いつの間にか復活していた比呂さんが間に入ってきた。

 彼は何事もなかったかのように真面目な顔している。

 その変わり身の早さに感心していると、比呂さんは口元に手を持っていったり、胸のあたりに耳を押し付けたりと、その怪人の容態を確認していた。


 だが、しばらく、いろいろしていたがよくわからなかったみたいで肩を竦めている。


「わからんなあ。うろこが厚くて心音も聞こえんし脈拍すらとれん。アル。ちょっと、こいつを調べて見てくれ」


「かしこまりました」


 そう言って現れた紳士はヴァーダム星人の側に寄って膝をつく。

 やっていることは比呂さんと同じようだが、これで何かわかるのだろうか?

 紗也香が首を傾げていると彼が顔を上げた。


「う~ん。どうやら、『死んだふり』のようですね」


「死んだふり?」


「そう、死んだふりです。ヴァーダム星人は身体に危機が訪れると代謝を極限まで抑えて仮死状態になるんです。冬眠のメカニズムの応用らしいのですが、世間にはよく知られていることなので余程のことがない限りやらないと聞いています」


 紗也香は感心していた。

 宇宙にはいろんな生物がいるもんなんだなあ、と。


 それにしても死んだふりとは驚きだ。

 紗也香はツンツンとヴァーダム星人の身体を突っついてみるがやはり反応はなかった。


「そうか、死んだふりか。なら――」


 比呂さんがそう呟くと紗也香の背中がゾゾッと震えた。

 気温が一気に氷点下になったかのように全身が震えだす。

 慌てて比呂さんを見ると彼はヴァーダム星人の顔を掴んで口の端を吊り上げていた。


「とっとと目を覚まさんと殺すぞ」


 小さな声だった。

 だが、その迫力は衝撃波のように紗也香の身体を叩いている。

 こんなに恐ろしい比呂さんを見たことがない。


「……比呂さん?」


 紗也香が震える声で呟いていた。

 それが効いたのか比呂さんは笑いながら顔を上げる。


「おかしいな。こいつ、目を覚まさんぞ?」


「ご主人様。そいつの死んだふりはただの演技ではありません。完全な仮死状態です。いくら脅しても聞こえてなければ無駄でしょう」


「うるさい。そんなことはわかってるんだ。試しにやってみただけだ」


 アルさんに指摘されて彼は顔を赤くしていた。

 どうやら、本気で勘違いしていたらしい。

 さっきの怖い雰囲気とのギャップがなんだか可愛らしくて、クスクスと吹き出してしまう。

 早瀬さんも同じ思いだったのか、顔を伏せて肩を震わせていた。

 笑っているのを誤魔化しているつもりなのだろうがバレバレだ。


 それに気付いた比呂さんは拗ねたように唇を尖らせてアルさんに八つ当たりしている。


「で、こいつを起こすにはどうすればいいんだ。早く何とかしろ」


 怒鳴っている姿が微笑ましい。

 こう言う仕草は健太にそっくりだった。

 血のつながりは伊達ではないのだろう。


 紗也香がニヤニヤしながら見ていると比呂さんはこちらを見ないようにアルさんを急かしている。


「う~ん。うまくいくかどうかはわかりませんがやってみましょうか」


「なんでもいいから早くやれ」


 その仏頂面にアルさんは不機嫌そうに眉を寄せている。

 しかし、ご主人様の命令は絶対なのか文句も言わず目の前に突如浮かんだキーボードをカタカタと叩きだした。

 このキーボードも立体映像だ。


 紗也香が「これに何か意味があるんですか?」と問い掛けると「気分の問題です」と答えてくれた。

 さっき、ヴァーダム星人を診察していたのもあまり意味がなかったらしい。

 実際はこの部屋に備え付けられたセンサーでいろいろ見ていたそうだ。

 本当に無駄なところで凝っているものである。


 そんなやり取りをしている間に床から大型のライフルのような物がせり上がってきた。

 それはヴァーダム星人の側で止まり、銃口が彼に向けられる。


「なにをするんですか?」


 紗也香はその無機質で危険な香りのするものを見て眉をひそめた。

 そんな紗也香の心情を察したのかアルさんは優しい声で説明してくれる。


「心配は要りません。確かにこれは警備用のレーザーガンで殺傷力の高いものなのですが、今回は威力を調整してあります。まあ、電気ストーブとかハロゲンヒーターとかと思っていただいて結構です。先ほど、申しあげたようにヴァーダム星人の『死んだふり』は冬眠のメカニズムを応用したものなので体温を強制的に上げて目覚めを促そうと思うのですが。う~ん。出力調節が難しいですねぇ」


 そう言いながらアルさんは素早くキーボードを叩きだした。

 室内になんだか香ばしい匂いが漂っている。


「おい、アル。もしかして、焦げてるんじゃないのか?」


「そんなことありませんよ。問題ないです」


 どこか惚けたような声に比呂さんの疑わしげな視線が突き刺さっている。

 アルさんの頬を汗が一粒たれていた。

 本当に映像なのだろうか。

 人工知能とは思えない表情の豊かさだ。


「アル!」


 比呂さんの声に観念したのか彼は開き直って


「別にいいじゃないですか。地球に逃げ込んでいる犯罪者の一人ですよ。多少の火傷くらい目をつぶってくださいよ。ほら、うまくいったみたいです。体温が戻ってきました」


 アルさんがそう言うとヴァーダム星人は軽く身じろぎをして寝返りを打った。

 さっきまで死んだように動かなかったのに軽く息使いが聞こえてくる。

 どうやら、彼が言うように目を覚ますようだった。


「こっ、ここは……って、あつっ、あつ、あつううううううう」


 ヴァーダム星人は飛び跳ねるような勢いで起きると背中のあたりに手を伸ばしている。

 だが、その短い手では火傷の場所まで届きそうになかった。

 犬が自分の尻尾を追いかけるように痛む背中を見ようとクルクル回る姿は滑稽だったが、彼の必死さを見ると笑う気にはなれなかった。

 紗也香達はアルさんに非難の目を向ける。


 そして、彼はというと何事もなかったように目の前に浮かびあがっている映像のモニターを見ながら

「身体に異常はなさそうですね」とうそぶいていた。


 そのあからさまな誤魔化しにしばらく沈黙が降りていたが、やっと、痛みが引いてきたのか状況を察したヴァーダム星人が呻くように声を出した。


「オレは捕まってしまったようだな」


 ガクリとして背中を丸めて座り込んでしまった。

 その姿はその巨体からは考えられないほど小さく見える。

 そんな彼の肩に比呂さんが手を置いた。


「君には聞きたい事がいくつかある。その質問を終えた後は連邦の捜査官に引き渡すつもりじゃ。今回の件で君が罪に問われることがないように手は尽くすが、君の前科については保証できない。いいかね?」


「お前は誰だ?」


「それは君には関係のないことだ。教えてやってもいいが、あんまりお勧めはできんぞ。どうする、それでもどうしても聞きたいか?」


 比呂さんはニヤっと意地悪に笑っていた。

 それを見て何かを感じ取ったのかヴァーダム星人は軽く身震いしている。


「オレは負けたんだ。お前達の好きにすればいい」


 彼は軽く身震いしてから慌てるようにそう言った。

 どこか怯えているように見えるのは気のせいだろうか? 

 彼と共に早瀬さんも顔を引きつらせていた。


 何が起こったんだろう、と紗也香が不思議そうに二人を交互に見ていた。


 その間にも話は進んでいる。


 比呂さんは彼の答えに満足したのか、ほっほほと、いつも通りの笑い声をあげて次の質問に移っていた。


「じゃあ、応えてくれ。なんでイベント会場になんかいたんだ」


 シーンと場が静まり返る。

 ヴァーダム星人は一瞬だけ声を詰まらした。

 しかし、嘘を言っても無駄だと悟ったのか淡々と話しだす。


「オレ達はこの間あった火事の現場の映像を見てそいつがメガネ族の関係者かどうか調べていたんだ。仲間に出来るなら最高だが、もし出来なくても情報だけでかなりの金になる。それであそこに行ったんだ」


「あんな場所に現れると思ったのか?」


「いや、あそこに行ったのはあくまでも念の為だ。あんな目立つ場所に堂々と現れる宇宙人はいない。まあ、オレと一緒の理由で陰からこそこそとイベントの様子を覗いていた宇宙人はかなりいたみたいだがな」


 紗也香はドキッとして比呂さんの顔を伺う。

 しかし、彼はそんなことわかりきっていたというように顔色一つ変えていなかった。


「君達は我々の正体を知らないと言うことでいいんじゃな?」


「ああ、お前達の正体なんか知らない。知っていたらこんな接触の仕方はしなかった」


 そう言ったあと自分が闘い敗れたことを思い出したのか、ヴァーダム星人は悔しそうに強く握りこんだ拳で床を叩いていた。

 その衝撃で床がビリビリと揺れる。

 これほどの力を持つ者が暴れていたのだ。

 今更ながら紗也香は背中に冷たいものを感じていた。

 そこでふと疑問がわく


「そう言えば何で健太は勝てたの?」


 紗也香の素朴な疑問に何かを思い出したのか比呂さんは口を大きく開けて笑っていた。


「確か健太が殴りかかったのを簡単にかわされて、体勢を立て直す暇もなく尻尾がこう飛んできたのよね? ああ、もうダメだって健太がやられると思ったら映像が切れたのよ」


「そうかあれくらいで映像が見れなくなるとは改良の必要があるな」


 比呂さんが考えだしたので紗也香は咳払いをして話を促す。

 彼はすまん、すまん。と謝りながら話を再開した。


「空振りして体勢を崩した健太は咄嗟に狙ったのか、勢い余ってか、クルっと一回転したんだ。そのパンチが運よく尻尾に当たってそいつはふっ飛んでいった、と言うわけだ」


 情けなくうなだれていたヴァーダム星人が勢いよく顔を上げていた。

 余程、そのことばが聞き捨てならなかったのだろう目を見開いて怒っている。

 そして、その勢いのまま比呂さんの胸倉を掴んでいた。


「そんなバカな話があるか! オレの渾身の一撃がそんなものに負けると言うのか!」


 比呂さんはそんな彼の行動を全く気にしていないみたいだった。

 その証拠に比呂さんはヴァーダム星人の肩に手を置いて優しく語りかけている。


「まあ、しょうがないだろう。お前もヴァーダム星人にしては結構強いようだが上には上がいるものだ。お前などわしなら変身前でもデコピン一つで倒せる」


 彼は比呂さんのあんまりな言葉に憤るがそれが表に出ることはなかった。

 比呂さんと目が合うと凍りついたように固まってしまったからだ。

 彼は震える声でこう言った


「お前、もしかして黒き閃光……」


「それはお前には関係のないことじゃ」


 ほっほっほと比呂さんが笑いだすとヴァーダム星人は視線を外して震えていた。

 身体から一気に汗が吹き出し息も上がっている。

 紗也香には何が起こっているかわからなかった。

 だが、この反応はただごとではない、ということはわかった。


 だから、何か比呂さんがやっているんじゃないかと彼の顔を伺った。

 比呂さんはそんな紗也香の思惑に気付いたのか、こちらを見て軽くウィンクしたあとにヴァーダム星人の肩をぽんぽんと叩く。


「まあ、そんなに緊張しなくていい。別にお前に危害を加えるつもりはないからの」


 そう言って比呂さんが背を向けると、彼は露骨にホッとして肩から力を抜いている。

 比呂さんはそれを見逃さなかった。

 彼の目がギラリと光る。


「――そうそう。お前の仲間はどこにいるんじゃ?」


「それは言えない。オレは仲間を売るようなマネは絶対にしない」


「そうか。やっぱり仲間がいたんじゃな」


 ヴァーダム星人はしまったと舌打ちしていた。

 誘導尋問に引っ掛かったことに気付いてみたいで悔しそうに比呂さんのことを睨んでいる。

 その目を怖がるふりをしながら比呂さんはおどけるように謝っていた。


「そんな目で睨むな。わたしはお前の仲間になんか興味ないよ。後々面倒なことがあるかどうか確認したかっただけじゃ。わしは降りかかる火の粉は振り払うが、自分に害のない者まで消そうとは思わんよ。あっははははは」


 ワザとらしい笑い声が部屋の中をこだましていた。

 そして、比呂さんは笑いをおさえてから「ごくろうさん」と一言だけ告げてヴァーダム星人の額にデコピンをした。


 彼はその不意打ちをまともにくらってそのまま後ろに倒れていく。

 嘘みたいだが気絶しているみたいだ。

 比呂さんは宣言通りにデコピン一発で相手を倒してしまったのだ。


 紗也香達は唖然として比呂さんを見上げている。

 すると、彼は照れくさそうに顔を背けたあと話題を変えた。


「それでこいつはどうしようかのぅ?」


 話を逸らされた感が万歳だったが紗也香は足元に転がるヴァーダム星人を見ていた。

 確かにここにいつまでも置いとく訳にはいかない。

 しかし、その打開策は意外な人から出てきた。


「わたしが連邦の基地まで連れて行きます。休暇中とは言え、一応、わたしは連邦の一員ですから。あそこには顔が利きますし」


 そう言って軽々と重そうなヴァーダム星人を担ぎあげた。

 あの細身のどこにこんな力が隠れていたのだろう。

 紗也香は驚いて目を丸くしている。

 その間に早瀬さんはその場を後にしていた。


「紗也香ちゃん。ありさを帰しちゃって良かったのか?」


 そこで、紗也香は話が終わってなかったことを思い出した。

 だが、もう手遅れだ。

 早瀬さんの姿はもう影も形もない。


 紗也香は早瀬さんが消えていった入口を見詰めながら地団駄を踏んでいた。


「まあ、いいわ。早瀬さんとは明日話せば――。それより、比呂さん、どう言うつもりでこんなことをしたのか説明してくれますか?」


 最大の敵に逃げられたことは確かに不本意だったが、今回の騒ぎの元凶が残っていることに気付いて、そちらで憂さを晴らそうと凶悪に唇を吊り上げていた。


 比呂さんは余計なことを言ったと顔を引きつらせて逃げだそうとしている。

 紗也香はその前にむんずと彼の襟元を掴む。


「さあ、時間はいくらでもあるわ。ゆっくり話を聞かせてくださいね」


「いや、それは。そうだ。健太の容態を確認しないと、それにお昼がまだだった。紗也香ちゃんも食べるだろ?」


「…………」


 二人っきりになった部屋の中は非常に静かだった。

 さっきまでいた人工知能で立体映像の執事、アルさんは気を利かしたのかいつの間にか消えている。


「紗也香ちゃん。落ち着いて。落ち着いて話し合おう!」


 そう喚く比呂さんの声はいつの間にか聞こえなくなっていた。




次回投稿予定は9月3日19時予定です

誤字脱字報告、感想など頂けたら嬉しいです。


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カワイイ男の子が聖女になったらまずはお尻を守りましょう
良ければ読んでください。

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