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第十六話 比呂の提案はいろいろエロエロ?

って早送りしながら見たが、ざっとこんな感じの記録映画だった。


「つまり、比呂さんはこの瀕死の重傷を負った生き残りだったわけですね?」


「いや、違うよ」


「そうですか。比呂さんも大変だったんですね。って違うんですか?」


 比呂さんは紗也香のだした結論をあっけなく否定してしまった。

 そのあまりにも淡々とした口調に思わずノリ突っ込みをしてしまう。

 比呂さんは「ほっほほ」と笑いながら話を続けた。


「瀕死の重傷を負ったのは年の離れたわしの兄貴だ。当時、わしはまだ生まれたばかりだったからな。終戦のどさくさにまぎれてこの宇宙船で地球に逃げて来たんだ」


 まあ、それはそれでヘビーな話なんだけど、

 と紗也香が何も言えなくなっていると比呂さんはまた快活に笑って


「気にすることはないよ。わしは地球で育ったんだ。ヒーロー星との関わりなんてほとんどない。わしはもう地球人なんだよ」


 その言葉にどんな思いがあったのか紗也香には測りきれなかったが、ここで気を使うのは逆に比呂さんに失礼な気がした。

 だから、そのことについては考えないことにする。


 それを読み取ったのか比呂さんは話を先に進めた。


「だがな。わしが逃げたことは噂になってたんだ。銀河連邦が莫大な懸賞金をかけたこともあって捜索は大々的なものとなった。しかも、それに拍車をかける出来事が起きた」


 そこで比呂さんは大きな溜息をつき天井を仰ぐ。

 紗也香は息を飲んで次の言葉を待った。


「わしの甥っ子が生まれたんだ」


「甥っ子?」


 なんでその一言を言うのに重い空気が流れるのかわからなかった。

 紗也香が怪訝な顔をしていると、比呂さんが話を続ける。


「わしの兄貴は超人族の姫と恋におち、男の子が生まれた。それだけなら問題はなかったんだが、その甥っ子はメガネをかけて変身してしまったんだ。そして、彼は超人族の王をたった五歳の身で倒してしまった。当時、最強とうたわれたあの王を。それからメガネ族捜索は苛烈になった。なんの信憑性のない噂で人殺しや酷い時には戦争になったんだ」


「何でそんなことに?」


「ヒーロー星の戦力は銀河連邦の三分の一を占める。その戦力にたった五人で対抗しえたメガネ族。その力を手に入れることが出来るんだ。誰もがそれを欲しがるだろう?」


「でも、比呂さん一人の力で世界をひっくり返すことなんて不可能なんでしょ。もしかして、出来るの?」


 紗也香は恐る恐る比呂さんに問いかけていた。

 そんな紗也香の表情を見て彼は笑いながら否定した。


「そんなことは不可能だよ。だがね。わしの息子たちなら可能かもしれない。この世界には同時に百人くらい出産する種族もいる。まあ、そんなもの達との間に子供が出来るかはわからんが、地球人でも十人くらい子供がいる人もいるだろ。その十人がまた十人の子供を産んだら百人の戦士が生まれることになる。わしの他に同じ力を持つ者が百人もいれば銀河連邦を滅ぼす自信はあるぞ」


 比呂さんはそう言って自嘲気味に笑った。

 それが逆に話に信憑性を持たせている。

 紗也香は何も言えずに黙ってしまった。

 そんな紗也香を慰めるように比呂さんは言葉を継ぐ。


「ただ、わしが狙われることはもうない」


「そうなんですか? でも何で?」


「科学の国の研究でメガネ族は生涯一人の女性しか愛せないことがわかっている。これはもう呪いと言っていいのかもしれんな。遺伝子レベルの話らしい。だから、わしは雪子以外の女性と子供をつくることは出来ない。まあ、年齢的にも無理かもしれんしの」


 その一言にホッとしていた。

 だが、すぐに重大なことに気付く。


「それって健太はどうなるんですか?」


 紗也香の顔から血の気が引いていた。

 自分の考えを否定して欲しくてすがるような目を比呂さんに向けたが、彼は首を振り淡々と紗也香が聞きたくないことを口にした。


「この世界で新たなメガネ族を生み出すことが出来るのは健太だけだ。いま、宇宙中の人間が健太を狙って地球にやってきている」


「そんな……」


 あまりのことに紗也香の頭は真っ白になっていた。

 何が何やらもうわからない。

 健太はこれからどうなるんだろう? 

 なんでこんなことになったんだ。


 誰のせいで……


 ハッとして紗也香は顔を上げた。


「もしかして、健太の存在がバレたのって、あの火事のせいなんですか? わたしが子供を助けるために健太を変身させたから。それに宇宙中の人間が集まってきているって地球で健太を奪い合う戦争が起こるってことなんですか? わたしが……わたしのせいで!」


 取り乱す紗也香を比呂さんは優しく、しかし、有無を言わさない勢いで取り押さえる。

 そして、幼子に言い聞かせるようにこちらを真っ直ぐ見詰めて話し出した。


「そうはならない。ここのところわしが家を留守にしてたのは知っているね」


 紗也香はコクリと頷いた。


「わしは甥っ子の力を借りて銀河連邦の総会に潜り込んだんだ。そこで、そこにいる各国の首脳と取引をしたんだ。もし地球人やわしの家族に危害が加えたらこの場の全員を殺す。それが連邦に関係しないものがやったことだとしても、とな」


「あのぉ。それって取引じゃなくて脅迫って言うんじゃないですか?」


「まあ、そうとも言うが細かいことは気にしてはいけない。――だが、ちゃんと取引もして来たんだぞ」


 紗也香はなんだか嫌な予感がして聞きたくなかったがその取引の内容を訪ねていた。

 比呂さんはいたずらっ子のような笑顔で嬉々として話し出す。


「脅しだけでは奴らを抑え込めないと思ってな。妥協案を出したんだよ」


「妥協案?」


「そう、妥協案。地球人やわしの家族に危害を加えなければなにをしてもいいとな」


「それが、何で妥協案になるの?」


 紗也香が首を傾げていると、比呂さんはニヤッといやらしい笑みを浮かべた。


「紗也香ちゃんもあの場にいたボンクラ共と同じくらい鈍いのぉ。よく考えればわかりそうなのに」


 そう勿体付けてから楽しそうにこう言った。


「力尽くでなく、色仕掛けで健太を誘惑しろとな」


 紗也香は頭を抱えていた。

 そう言えばこの人はこう言う人だったのだ。

 紗也香は痛む頭を何とか抑え込むと怒鳴りつける。


「健太を誘惑しろ、だなんて。自分の孫のことをなんだと思ってるんですか!」


 その剣幕に流石の比呂さんもたじたじとしていたが、言い訳するように減らず口を叩く。


「いやぁ。宇宙中の美女が健太を求めてやってくるんじゃぞ。男としてはこれ以上、羨ましいことはないじゃないか?」


「なに言ってるんですか! そんな打算で健太の心を弄ぶようなことが許せるわけないでしょう!」


「まあまあ、そんなに怒らんと、別に紗也香ちゃんが文句を言うことでもないじゃろ?」


「そうですよ。これは健太さんの問題です。――ところで、それには参加資格とかはあるんですか? それはわたしでも……」


 いままで、大人しくしていたと思っていた早瀬さんが身を乗り出すようにして比呂さんに詰め寄っている。


「参加資格などない。参戦するのは君の意思次第だ」


「そうですか……」


 彼女は胸の前で手を握り嬉しそうに微笑んでいた。


「あんた、なに言ってるの?」


 そんな早瀬さんに紗也香はジト目を向けた。

 しかし、彼女はすこし恥ずかしそうに口をすぼめたが、すぐに開き直って反論してきた。


「別にいいじゃないですか。星野さんには関係ありません。比呂様も参加は自由とおっしゃているのですから、わたしはこれから思い切ってアタックすることにします。――それでどうすれば健太さんを自分のものに出来るんですか?」


「あんたは何を聞いてんのよ!」


 紗也香は彼女の顔に指を突き立てて怒鳴っていた。

 そんな紗也香を彼女はキッと睨み返して


「星野さんは黙っててください。わたしは必死なんです。で、どうなんですか?」


 早瀬さんは上目使いで比呂さんの顔を覗き込んでいる。

 そんな彼女の表情を見ながら比呂さんは明らかに面白がっていた。


「そうだなぁ。間違いないのはヤッちゃうことだな」


「ヤッちゃうって?」


 日本語のそういう言い回しに慣れていないのか早瀬さんは紗也香に意味を尋ねてくる。

 だが、乙女の口からそんなことを説明できるわけがない。

 そんな紗也香のことをニヤニヤ見ながら比呂さんは彼女に耳打ちしていた。

 早瀬さんの顔がボンと音をたてて真っ赤になっている。


「比呂さん、なにを教えてるんですか! それに言って、良いことと悪いことがあるでしょ。もう少し常識を考えてください。あんたは自分の孫になにをさせたいんですか!」


 紗也香は早瀬さんに負けないくらい顔を真っ赤にしてそこまで一気に捲し立てた。

 が、比呂さんには全くの逆効果だったみたいでさらに調子づいている。


「そんなことを言われてもなあ。これは科学的に検証された事実なんだからしょうがない。メガネ族は生涯一人の女性しか愛せない。だから、決定的な既成事実さえ作ってしまえば健太の意思は決まるだろう。あいつのことだ。それが自分の意思に反したことであってもきっと曲げないぞ。つまり、早い者勝ちということだ」


 本当にこの件を楽しんでいるのか比呂さんは満面の笑みを浮かべていた。

 本当にこのエロ親父が! 

 と紗也香の腹の中でなにかがグラグラと煮えたぎってくる。

 これはたぶん、怒りとか憤りとか、憤怒とか

 ……まあ、そういう感情だ。

 それはいつ爆発してもおかしくない状態である。


 だが、そこに早瀬さんが爆弾を放りこんだ。


「それじゃあ、無理やり、その、押し倒して……えっと……はいいんですか?」


 ありさは顔を真っ赤にしながら聞こえるか聞こえないかの声でゴニョゴニョ言っている。


「あんた。何言ってるのよ!」


 紗也香は口をあんぐりと開けて絶句していた。

 彼女の一言は比呂さんも予想外だったみたいで目を丸めて驚いていたが、すぐにスケベ面に戻って早瀬さんに聞き返している。


「何を言っているかよくわからんのぉ? もうちょっと大きな声で、はっきりと言ってくれんかなぁ」


 その場の雰囲気でどう言うことかはわかりきっているくせに。

 紗也香の肩はわずかに震えていた。

 だが、早瀬さんをいじめて楽しんでいる比呂さんはそれに気付いていないみたいだ。


「ですから……」


「ですから?」


「…………」


「ですからなんじゃ?」


 と比呂さんが詰め寄っているが早瀬さんは俯いてしまってそれ以上言えないでいた。

彼はそれに構わず踊りだしそうなくらい楽しそうに彼女を覗き込んでいる。


そんな彼の首根っこを紗也香は掴んでいた。


 「えっ?」と比呂さんが振り返ってくると紗也香は満面の笑みを向ける。

 眉間にはびっしりとマンガみたいな怒りマークが浮かんでいた。


「比呂さん?」


「はいっ」


 比呂さんの顔は引きつっていた。

 嫌な汗を顔一面にかいている。

 いままで経験したことのない恐怖を味わっているというように声を震わせていた。

 比呂さんは恐る恐ると言った感じで紗也香の表情を伺ってきた。

 それに対して紗也香は笑顔を崩さない。


 しばらく、沈黙が続き、


 そして、それが弾けた。


「それはセクハラだろうが! このエロじじいいいいいいいい」


 言葉と同時に紗也香の姿が消えた。

 いや消えたのではない。

 素早く膝をたたんで屈むような体制になったので消えたように見えただけだ。

 それに比呂さんが気付いた時はもう遅かった。

 紗也香は膝のバネを十分に利かして伸びあがり、その勢いを殺さずに一〇〇%の力を拳に乗せていた。

 比呂さんの顎を捉え、かちあげるように腕を振り抜く。

 フォロースルーで右手が真っ直ぐに天を貫いた。


 傍から見ていた早瀬さんが感嘆の声を上げている。

 紗也香の右アッパーはボクシングの教科書に載っていてもおかしくないぐらい完璧なフォームで比呂さんの顎を粉砕していた。

 

 だが、それだけでは収まらない。


 どさっと倒れこんだ彼に対して蹴ると言うより踏みつける感じで「このエロじじい」と何度も何度も叫びながら足蹴にしていた。


 どれくらいやっていたのかわからないが、少し気持ちが軽くなったので一つ深呼吸してから比呂さんを開放する。


「確か、この人は宇宙最強の一人のはずなんですけど……」


 と早瀬さんがボロ雑巾のようになった比呂さんを眺めながら冷や汗を垂らしていたが、それは聞かないことにした。



次回投稿予定は明日19時です。

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