第十四話 地下室が秘密基地でドキドキ
激突地点ではトラックが正面衝突したような重く激しい音が鳴り響いていた。
そして、目にも止まらぬスピードで何かが飛び出してきた。
それは公園の敷地を区切る分厚いコンクリートの壁に突き刺さって止まった。
それが何かはここからでは確認が取れない。
ちょうどそのあたりに避難していた野次馬達が悲鳴を上げて逃げだしている。
人が去るとその場には沈黙が降り立った。
その時、衝撃に耐えられなかったのかステージの屋根が崩れ落ちた。
「健太?」
紗也香は彼の名前を呟いていた。
指輪が伝える映像は砂嵐のようになっている。
激突の衝撃からか上手く機能していないみたいだ。
最後の情景は健太がパンチをかわされ、あの太い丸太のような尻尾が健顔面に迫ってくるところだった。
あれを避けられたとは紗也香にはどうしても思えない。
引きつる声で紗也香はもう一度、健太の名前を呼んだ。
だが、やはり返事はなかった。
後ろを振り返り早瀬さんに救いを求めたが、彼女は砂埃を上げたコンクリートの壁をジッと見ているだけで何も言ってくれない。
紗也香は背中に寒いものを感じて膝から崩れ落ちていた。
「ほっほほ。健太もまだまだだな」
その聞き覚えのある声に紗也香は慌てて顔を上げる。
そう、そこにいたのは健太の祖父 比呂だった。
彼は暢気そうに笑っている。
「比呂さん。健太が、健太が」
「健太なら、ほら、あそこに?」
そう言って比呂さんは顎をステージの方に向ける。
紗也香が瓦礫の山となったステージに視線を走らせると、ちょうど、そこから健太が這い出てきた。
瓦礫を軽々と持ち上げて煩わしそうにどけている。
「よかった。無事だったんだ」
紗也香の目から一粒、涙がこぼれていた。
それを気付かれないように袖で拭って紗也香は怒ったかのように目を吊り上げる。
「もう、無事なら無事って早く言いなさいよ」
肩を怒らせる姿はいつもの紗也香だった。
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「それにしてもこの騒ぎはどうすればいいのかな?」
紗也香はこの惨状を見て頭を抱えていた。
ステージは見るも無残に破壊され、広場の中心には直径三メートルくらいのクレーター状の穴が開いており、公園の壁の一角が崩れてしまっている。
それに一番の問題はあれだ。
ワニの怪獣のようなヴァーダム星人。
この騒ぎは誤魔化しようがないだろう。
だが、比呂さんは何にも気にしてないようでこちらにやってきた健太にヴァーダム星人の回収を頼んでいる。
その楽観振りに紗也香は腹が立って思わず食ってかかっていた。
「比呂さん。こんな騒ぎになってるのに、なんでそんなに落ち着いていられるんですか! そのうち警察とか来ちゃうんじゃないですか!」
こう言うことは言葉に出してはいけないのだ。
言えば現実になってしまうのものである。
その証拠に遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
「どうか通り過ぎてください」
と紗也香は祈るような気持ちで呟いているとサイレンはこの近くで止まった。
そんなに物事は都合よくいかないのだ。
紗也香が絶望的な顔をしていると慰めるように比呂さんがこう言った。
楽観主義の比呂さんらしい、あっけらかんとした口調で
「こう言う時にこそ、市長の出番なんじゃないのかね。イベントで羽目を外し過ぎたとか言って誤魔化して貰おう」
そう言う比呂さんの顔はいたずらっ子のそれだった。
本当にこの人は、と紗也香は呆れながらもその案に乗るために携帯電話をとるのだった。
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「うわあ、なんですか、これ!」
紗也香は健太の家の地下にいた。
健太は変身が解けて自分の部屋のベッドに寝かされている。
変身後の健太の顔にパンダのように目の周りにあざが出来ていたのには笑ってしまった。
多分、あの水中メガネのせいだろう。
紗也香はそれを思い出しながら自分の気持ちを和ませる。
こんな物をいきなり見せられて緊張していたのだ。
この家のことは自分の家と同じくらい知っているつもりだったが、それは完全な勘違いだったみたいだ。
まさかこんな物が隠されていたとは夢にも思わなかった。
バスルームの隣の物置きにあった隠し通路。
そこから階段を降りた先にあったのは……
「これって宇宙船のコックピットなんですか?」
紗也香は比呂さんに問いかけていた。
彼は「ほっほほ」と愉快そうに笑っている。
紗也香は物珍しそうにキョロキョロと視線を彷徨わせていた。
正面には教室にある黒板くらいの大きさのディスプレーがあり、前の方に座席が四つ並んでいる。
そこには様々な計器やスイッチが並んでいて、いまも何やらチカチカ光っていた。
中央には大きな椅子があり、そこは艦長とかが座るところなんだろう。
こう言うものを見ると比呂さんが宇宙人だったのが実感として湧いてくる。
紗也香は比呂さんの横からおっかなびっくりといった感じでそれらを見ていた。
だって、下手に触って壊したりしたら大変なことになりそうだから。
そんな紗也香に暖かい視線を向けてから比呂さんはこちらに向き直った。
「紗也香ちゃんには説明しておかないといけないね」
そう言いながら、比呂さんは艦長席の肘かけにあるボタンを操作する。
すると、メインスクリーンの前、何もなかった空間に人の姿が浮かび上がった。
「ご主人様。ご機嫌麗しゅう――」
「うるさい。お前の長い挨拶はいらん」
立体映像の執事服の紳士が頭を下げて挨拶をしようとしたのだが、それを比呂さんが制した。
折角の登場シーンを邪魔されたことを快く思っていないのか、その紳士は不満顔だった。
比呂さんはそれを無視して話を続ける。
「まず、わしがなぜ地球に来たかから説明しないといけないかな。ありさ。そんなところにいないで君もこっちに来なさい」
紗也香は比呂さんの言葉で早瀬さんのことを思い出した。
そうだった。
彼女も宇宙人だったんだ。
紗也香が振り返ると彼女は神妙な顔で中に入ってくる。
紗也香と目が合うときまずそうに視線を逸らした。
紗也香は眉間にしわを寄せる。
「まあ、まあ、そんな顔をするな。まずは話をしようじゃないか。まず、わしが生まれたヒーロー星の歴史からかな」
「ヒーロー星?」
そのあんまりな名前に紗也香は首を傾げていた。
そんな名前の星があることが信じられなかったのだ。
もし、日本が明日からヒーロー国になるなんて言われたらわたしなら亡命するだろう。
だが、比呂さんは真面目な顔で話している。
心なしか早瀬さんも誇らしげだ。
宇宙人のセンスは良くわからない。
その間にも話は進んでいた。
「一〇〇年前の戦争の話なんだが、アル。あれの準備を」
「かしこまりました」
アルさんは一礼してから右から二番目の座席に座ってキーボードを滑らかに叩きだした。
映像のはずなのに彼が操作するたびにカタカタと小気味のいい打鍵音が響いている。
しばらくすると、正面の大型ディスプレーに光が灯った。
激しい波が岩肌に乗り上げるシーン。
どこかで見たことがあるような映画会社のマークが映し出される。
唯一違ったのは社名のところに『科学の国 技術部 戦史資料課』と書かれていることぐらいだ。
いったい何が始まるというのだろう。
そこに一際大きな効果音の後に毛筆でデカデカとタイトルが飛んだ。
「五人の勇者、暁に死す?」
なんとも昭和チックなタイトルだ。
演出もどうも古臭い。
そんな感想を紗也香が持っていると
「そんなこれは……」
紗也香の横で早瀬さんが目を見開いて唇を震わせていた。
そのただならぬ雰囲気に心配になって彼女に声をかけようとしたのだが、その前に早瀬さんは比呂さんの前に駆け寄って彼の襟元を掴んで振り回し始めた。
彼女の行動は比呂さんにも予想外だったらしく、目を回している。
「早瀬さん。落ち着いて。どうどう」
紗也香が馬を宥めるようなことを言っていると、ようやく正気を取り戻したのか彼女は深呼吸を始めていた。
そして
「これ、ダビングしてください」
もう何なんだろう?
この娘がどう言う娘なのかよくわからなくなってきた。
という訳で話の腰を折られまくってしまったのだが、
とりあえず、比呂さんの話は再開されるのだった。
次回投稿は明日の19時となります
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