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第十三話 初戦闘はドタバタでグダグダ

「あれがバーベル星人か」


 ステージ上で警備員を片手で吊り上げている怪人がいる。

 そいつはゴミを放り投げるように警備員を投げ捨てていた。

 落下した先には四人いや五人の男が転がっている。

 中には二メートル近くはあるんじゃないかという大柄な男までいた。


 どうやら、地球人の腕力では勝てる相手ではないようだ。


 そいつの身体は赤黒く光っていた。

 さっきまでは茶色がかった緑色だったはずなのに血のような薄気味悪い色に変わっているのだ。


 それにインタビューを受けていた時のおどおどした雰囲気はなくなっており、身体も二周りは大きくなっている。

 これはマンガとかである気迫で大きく見えるとかの錯覚ではない。

 実際にその姿が大きくなっているのだ。


 健太はゴクリと唾を飲み込んだ。

 それは正体不明の怪人への畏怖なのかこれから行われる戦闘への期待なのかわからない。


 幸い会場からはすでに観客は逃げ出していた。

 広場の端の方でこそこそと覗いている人もいたがその数は少ない。

 ステージの裏側にまだスタッフが残っているかもしれないがそれは確かめようがないことだ。


 健太はその辺はなるようになるか、と割り切った。

 というより、もう湧きたつ感情を抑えきれなくなっていて健太は勢いのままにバーベル星人の元にジャンプした。


 力加減を間違えたのか砂埃を巻き上げて、その場に軽く穴をつくると、健太はステージの屋根に頭から突っ込んでしまっていた。


 バーベル星人はあまりの速さに健太の姿が見えなかったのか、口を開けっ放しにして屋根から突き出ている健太の足を見上げている。


「ああ、もう、恥ずかしいなあ」


 健太は誤魔化すように大きな声を上げると屋根から飛び降りた。

 そして、何事もなかったようにステージ上に立ち、バーベル星人と対峙する。


「お前がバーベル星人だな! こんなところで暴れていいと思ってるのか。大人しくこの場から立ち去れ!」


『健太、健太。バーベル星人じゃなくてヴァーダム星人よ』


「お前がヴァーダム星人だな! こんなところで暴れるな。とっとと消え失せろ!」


「…………」


 慌てて言い直したが後の祭りだった。

 ヴァーダム星人はあっけにとられているのかまだバカみたいに口を開けっ放しにしている。


『あははははははは。健太、バカ過ぎ』


『くす、星野さん。そんなに笑っちゃ、プッ――』


「ありさちゃんまで……。うるさいな。少しは黙っててよ」


 紗也香の後ろから聞こえるクスクスと声を押し殺して笑っているありさちゃんに気付いて健太は恥ずかしくて穴に入りたくなった。

 変身したいまなら一〇メートルくらいの穴なんて簡単に掘れるだろう。


 健太がそんなことを真剣に考えていると、やっと我に返ったのかバーベル星人改めヴァーダム星人がこちらを指差してくる。


「お前は何者だ!」


「うるさい! お前がこんなところに出てくるから恥かいちゃったじゃないか! 全部お前のせいだ。もう、許されると思うなよ」


 完全に逆恨み状態だったが逆切れした健太の勢いにヴァーダム星人は押されている。


「くらえええええええええ!」


 どっちが正義の味方なのかわからないような不意打ち気味の先制攻撃である。

 健太は弾丸のように飛び出し体当たりするような勢いで拳を繰り出すはずだった。


 だが……


「えっと、お前何やってるの?」


 ワニのつぶらな瞳が目一杯開かれている。

グロテスクな顔なのに少しコミカルでカワイイ。

それが余計に健太の頭を沸騰させていた。


「ああ、もう、何で上手くいかないんだよ!」


頭に血が昇って完全に空回りしていた。

健太はステージに穴を開けてそこにズッポリはまっているのである。

健太の踏み込みに耐えられなかった床が踏み込む前に崩れてしまったのだ。


さっき穴があったら入りたい、とか思ったけど、穴に入ったら余計に恥ずかしかった。

そんなバカなことを思い浮かべながら健太は床から上半身だけ出して身悶えている。


『あはははははは。健太。あはは、コントはいいから、早く、説得するなり、やっつけるなりしなさい。あはははははは』


紗也香が大爆笑しながらそんなことを言ってきやがった。

後ろから聞こえるありさちゃんの笑い声も今度ははっきりしている。

どうやら、もう、堪え切れないらしい。


健太は自暴自棄気味に穴からはい出した。

もう、どうにでもなれだ。


「それで話を進めたいんだがいいか?」


ヴァーダム星人はすっかりいい人風味でそんなことを尋ねてくる。

毒気を抜かれてしまったのか身体は元の緑色に戻り、その大きさも縮んでいた。


どうやら、彼は感情でその姿や戦闘力を変えるタイプみたいだ。

まあ、これはこれでよかったのかもしれない。

うん。よかったんだ。

 計算通り。


 健太はそう思うことによって立ち直った。

 そして、ふんぞり返るように胸を張って


「お前の目的はなんだ。大人しく帰れば見逃してやる。さっさとこの場から消えろ!」


 いままでの行動が嘘だったかのようにビシッとそう言ってやった。

 健太の変わりようにヴァーダム星人はついて行けなくて頭を抱えていたが、思い直したのか顔を振って話を戻す。


「まあいい。オレの目的はお前だ。お前はメガネ族なのか?」


「メガネ族?」


「惚けなくてもいい。その姿は伝説のメガネ族のものだ。オレはお前を迎えにきたんだ。お前の力があれば銀河連邦にひと泡吹かせられる」


「何言ってるんだ、お前。オレは地球人だし、オレには神――」


『バカああああ。自分の名前を名乗っちゃダメでしょ! あんた、自分の正体を明かしたらとんでもない騒ぎになるわよ』


 そうだった。

 思わずしゃべりそうになってしまった。

 誘導尋問とは、やるな。ヴァーダム星人。


『あんたが勝手にしゃべっただけでしょ』


 冷たい突っ込みが頭に響く。

 そう言えばさっきから紗也香の声が聞こえてくるがその姿はない。

 どうしてだろう? 

 そう思って周囲を見回してみる。

 すると、さっき出てきた林の中に紗也香の姿が見えた。


 あれ? なんであんな遠いところにいるのに声が聞こえるんだ?

 健太が訝しんでいるとまた頭の中で紗也香の声が響く。


『わたしがしている指輪にはあんたと通信する機能が付いてるの。だから、離れていてもわたしの声が届くし、あんたの声も聞こえる。それとあんたは別に声を出さなくてもいいからね。頭の中で考えるだけでこちらには伝わるから』


「そうなのか、便利な道具があるんだな」


『そんなことはいいのよ。早く決着をつけなさい。今回は水中メガネなんか使ったから何が起こるかわかんないのよ』


「わかった。……でも」


『でも、ってなによ』


「自分の名前が名乗れないってのは不便じゃないか?」


『ああ、いまはそんなことを言ってる場合じゃないでしょ。バカ健太!』


 紗也香の怒鳴り声に耳を押さえたが、これはそうそう納得のできるものではない。

 自分の名前は重要なものなのである。

 そんなことを健太が考えていると紗也香が大きく息をはいて呆れたように口を滑らした。


『わかったわ。ここで問答しててもしょうがないから。……そうだ。名前でも考えてみたら。何とかマンとか、何とかレンジャーとか』


「それだ!」


 健太はそれに嬉々として跳び付いた。

 なんでそんな名案を思いつかなかったんだろう。

 たまに紗也香は天才的なアイデアを出してくれる。

 健太は紗也香に感謝しながら自分にふさわしい名前を考え始めていた。


『健太。いまのは冗談よ。思いつきで言っただけなんだから、それに敵が目の前にいるのよ。そんなことしてる場合じゃないでしょ』


 そうだった。

 敵がいたんだ。

 だけど、名前も重要だ。


 健太は視線だけで相手を牽制しながら、いい名前を考だす。

 時間はあまりないがおざなりなものでは後顧に憂いを残すというものだ。

 これくらいの難しい言葉を知っている自分なら格好良い名前が出るのにそう時間はかからないだろう。

 紗也香は諦めたのか呆れたのか「もう、勝手にしなさい」と言って黙ってしまった。


 ということで名前、名前。


「えっとメガネマンなんてどうだろう?」


『もう少しひねったら』


「メガネレッド!』


『あんた見た感じ黒いじゃない』


「じゃあ、メガネブラック!」


『レッドもブルーもいないのにブラックだけって何か寒くない』


「あのう? もしもし?」


「よし、メガネマンマークⅡでどうだ」


『メガネマンがダメなのに、マークⅡってどう言う精神構造してんの?』


「メガネダイン」


『何か悪者っぽくない』


「おい! いい加減にしろよ。無視すんな!」


「「うるさいのはお前だ。少し黙ってろ!」」


 すごい剣幕で二人に怒鳴られた彼がビクッと全身を震わせて固まっている。

 紗也香の声は聞こえてないはずなのに何かを感じ取ったのだろうか? 

 紗也香、恐るべし。


「……すいません」


 勢いに押されて素直に謝っているヴァーダム星人を放り出して呼び名の討論を続けていた。

 だが、出す案、出す案、紗也香に却下されてしまう。


 健太は頭にきて拗ねるように唇を突き出した。


「別にオレが名乗る名前なんだから何でもいいじゃないか。紗也香には関係ないだろう」


『だって健太の考える名前って全部カッコ悪いんだもん。あんたにはネーミングセンスが欠片もないのよ』


 紗也香はフォローのつもりで言ったのかも知れないが全然フォローになっていなかった。

 健太はガクリと肩を落としている。

 なんでここまで言われなきゃいけないんだ。


 そこであることを思いついた。


「じゃあ、センスのいい紗也香さんは良い名前とか考え付くのかよ」


『うぅ……』と紗也香が唸っている。


 女の子の紗也香がヒーローの名前など思いつくものかと健太はたかを括っていた。

 そして、いつもの仕返しとばかりに

 「いっつも口だけ出して自分は何もしない癖に」とか

 「自分の事は棚に上げる癖に」とか

 ブツブツ文句を言ってやる。


『うるさいわね。名前をつければいいんでしょ。つけてあげるわよ』


 そして、一瞬だけ考えるような間を取った紗也香は高らかに宣言した。


『よし、今日からあんたは「グラスカイザー」よ』


「グラスカイザー ……」


 健太は一人ぼそっと呟く。


 なかなか良い響きだった。

 ちょっと悔しいが自分が考えたどれよりも似合っている気がする。

 もう一度、口ずさんでみると、その名が身体に染み渡ってきた


「うん気に入った」


 健太は元気よくヴァーダム星人に向き直った。

 そして、拳を突き上げる。


 やっと自分のことを思い出してくれたか、とヴァーダム星人はホッと一息ついていた。

 余程、嬉しかったのか涙目にまでなっている。


 本当に悪いことしたな、と健太は軽く反省してから名乗りを上げた。


「ヴァーダム星人! オレの名前はグラスカイザーだ。この町内の平和を乱す者はこのグラスカイザーがただじゃおかないぞ!」


 ビシッとポーズを取ってヴァーダム星人に指を突き立てた。


『町内って、そんなご当地限定ヒーローって……』


「お前はメガネ族じゃなかったのか? この町内のヒーローだったなんて!」


『えっ、それでいいの?』


「お前がメガネ族じゃないのなら用はない。だが、このまま正義の味方を放っておいてはこの先やりにくくなるだろう。勝負だ。グラスカイザー!」


『放っておいても問題ないって』


「よし受けて立とう!」


『受けて立たないでよ! 害がないならこれ以上騒ぎを大きくしないで逃がしなさいよ』


 紗也香のツッコミを健太は軽く受け流した。

 いつもされていることなので別に心は痛まない。

 せっかく、対決ムードに突入したのだ、もったいないではないか!


 二人の間には熱く燃える視線が飛び交い火花をあげていた。


「いくぞ。グラスカイザー!」


 そう叫んで奴が突進してきた。


 ワニの姿などしているから動きが鈍いかと思いきやその短い脚からは考えられないほど俊敏だった。

 三メートルの距離が一瞬で詰められる。

 相手は健太みたいに床を踏み砕くようなバカはしない。

 そして、奴は目の前まで来るとボクサーのように身体を左右に振りながら小刻みにステップを踏んだ。

 ワニがボクシングって、とあり得ない光景が展開されていたが、そんなことに突っ込みを入れている場合ではなかった。

 健太は迎え撃つようにファイティングポーズを取る。


 因みに健太に格闘技経験はない。


 子供のころ近所のガキ大将を相手にしたり、

 町中で絡んできた不良を撃退したりするぐらいだ。

 いくら類い稀な身体能力を持っていたとしても相手は凶悪宇宙人。

 この辺がどう影響するかわからない。


 健太の心に一瞬だけ不安が広がった。

 だが、正義に燃える熱い思いがそんなものを焼き尽くした。

 健太が目を見開いて雄叫びを上げる。


「ウオオオオオオオオオオオオ」


 ヴァーダム星人はそんな健太を見ながら冷静にフェイントを一つ入れて右ストレートを放ってきた。

 これは健太にも想定内だった。

 無理なく腕を上げてこれを防ぐ。

 そして、その隙を狙ってこちらからもパンチを繰り出そうとした。


 だが、これは奴の誘いだったのだった。


 ヴァーダム星人はパンチが防がれる後にやってくる健太のパンチを読んでいた。

 倒れ込むようにパンチをかわし、さらにその勢いを使って尻尾を振り回す。

 健太のウエストよりも太い奴の尻尾が唸りをあげて肉薄してきた。

 しかも、身体を浴びせかけるようにしているため奴の全体重が乗っている。

 奴の体重が何キロあるかは知らないが百キロじゃすまないだろう。


 この尻尾の攻撃は奴の必殺技だったのかヴァーダム星人はワニの口を吊り上げてニヤリと、勝利を確信したかのように笑っていた。


 健太はそれを見てゆっくりと目を閉じた。



次回投稿予定は8月20日19時です。

誤字脱字報告、感想など頂けたら嬉しいです。


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別作品の宣伝です。
カワイイ男の子が聖女になったらまずはお尻を守りましょう
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