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第9話「文化祭③」

 織田信長。駿河の今川義元(いまがわよしもと)、美濃の斎藤龍興(さいとうたつおき)ら強敵を次々と打ち破り、尾張の小大名から一躍天下争いに躍り出た男。

 教科書には必ず載っているし、漫画やドラマでもよく取り扱われるので、日本人ならおそらく知らない奴などいないだろう。

 我が歴研部長・桧山葵が演じるのはそんな誰もが知っている英雄の妻・帰蝶(きちょう)である。

 それはいまさっき、第2会議室にて行われていた会議にて決定した。亀山先輩が提案し、それに皆が賛成したのだ。


「先輩、おめでとうございます!時代考証のほうは俺と平塚の二人でなんとかやりますんで、ヒロイン頑張ってください!」


「ありがとう。でも、私に務まるのかしら……。ヒロインなんて……。」


 桧山先輩の表情は嬉しさ2割、不安8割といった感じだった。それもそうだろう。本来は俺たちと同じく、時代考証として参加するはずだったのだから。


「先輩、演技経験は?」


「幼稚園で赤頭巾ちゃんをやった以来ね。」


「おお、主人公じゃないっすか!」


「まあ、他にも赤頭巾ちゃんが10人くらいいたんだけど。」


「ああ……。」


 俺の幼稚園ではそういうことはなかったが、幼稚園の劇で主人公やヒロインがいっぱい、というの意外と多いらしい。なんでも保護者からのクレームを避けるためとか。まったく、クレーマーはホント困るよな。まあ、かくいう俺はクレームを言う度胸がないだけなんですがね。というか圧倒的コミュ力不足。

 そんなことはさておき、演技するのは幼稚園以来、ということは先輩の演技経験がほぼ0ということになる。


「しかし、なんで亀山先輩は先輩を指名したんですかね?たしかに先輩は綺麗で上品だし、ヒロインにはピッタリですけど、演技未経験者を使うなんて結構賭けだと思うんすよ。」


「そうね。その通り……ってあれ、今、私のこと……。」


「あ……。」


 しまった。『賭け』だなんて先輩に失礼じゃないか。なんだか先輩の顔が赤い。まさか怒らせてしまったのだろうか……。どうしよう。


「綺麗で上品だなんて……。新庄君ったら……もう……。」


「へ?先輩、なんか言いました?」


「え、あ、いや別になんでもないわ……!」


 よく聞こえなかったけど、怒っていたというわけではなさそうだ。よかったよかった。


「あ、先輩。明日の読み合わせ、何時からでしたっけ?」


「4時半に第2会議室よ。新庄君、なにか予定でもあるの?」


「あ、いえ。明日日直だから日誌とかやらなきゃいけないんですけど、4時半には余裕で間に合うんで大丈夫です。」


 明日は役者が初めて顔を合わせ、台本の読み合わせをする。俺と平塚はセリフで時代的におかしなところがないか指摘するため、それに同席するのだ。


「あぁ……明日、なんだか緊張するわね……。」


「先輩ならきっと大丈夫ですよ。何か手伝えることがあったら言ってください。俺、全力で手伝います。」


「ありがとう、新庄君。」


「いえいえ。」

 

 空がもう暗い。そろそろ生徒の完全下校時間だ。俺はスッと立ち上がると帰り支度を始めた。すると、桧山先輩も読んでいた台本をパタッと閉じ、帰り支度を始めた。

 映画についての話し合いがあったせいで、今日は普段より帰るのが遅い。きっと家にいる愛しの愛しのサクラちゃんが悲しんでいるだろうな……。あ、サクラっていうのは猫の名前です。

 俺が愛するペットのことを考えていると、背中をツンツンとつつかれた。振り返ると、頬を赤らめた桧山先輩がいた。


「ねえ、新庄君。一緒に帰らない?早速、帰りに一緒に台本の読み合せをしてほしいのだけれど。」


 先輩の口から出た予想外の言葉に俺は思わず耳を疑った。

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