第8話「文化祭②」
映研の部室は部室棟三階の一番端にある。すなわち、我らが歴研の部室の真上である。
文化祭で公開する映研の映画に時代考証として参加することになった俺らは、この日、初めて映研の部室を訪れた。
「歴研の皆さん、ようこそおいでくださいました。副部長の弓長絵里です。映画では衣装のほうを担当しています。よろしくね。」
出迎えてくれたのはメガネが良く似合う、優しそうな少女であった。
彼女は丁寧に挨拶をするとペコリと頭を下げた。
「歴研部長・桧山葵です。こちらは副部長の新庄拓也くんと最近入った平塚舞さんです。」
これに対し、歴研の清楚代表・桧山先輩も負けじと丁寧に頭を下げる。てか、俺副部長だったのか。初めて知った。
「あの……、亀山先輩は?姿が見えないですけど……。」
「今、会議室の鍵をもらいに行ってます。話し合うのに部室じゃ狭いだろうって……。もうすぐ戻ってくると思いますよ。」
やがて亀山先輩は第2会議室の鍵を無事獲得し、ご機嫌な様子で戻ってきた。こうして、初めての話し合いは第2会議室にて行われることになった。
「監督・脚本を担当します部長の亀山です。そして、今回の映画には時代考証として歴研の皆さんが手伝ってくれることになりました。」
亀山部長が俺らを紹介すると、拍手が巻き起こる。どうやら皆さん俺らを歓迎してくれるらしい。よかったよかった。
「部長、これでいよいよ映画製作に取り組めますね!」
映研部員の一人が喜びの声をあげる。おそらく、いままで時代考証が決まらず、製作がストップしていたのだろう。だがしかし、亀山先輩の顔は暗かった。
「うむ、だがまた一つ問題が起きてしまったのだ……。」
「え、なんすか!まだ問題があるんですか!」
「実はな……、ヒロイン役にキャスティングを予定していた演劇部からの助っ人が急遽ダメになった。なんでも演劇部のほうの出し物を優先したいとかでな……。」
亀山先輩の一言でいままで和やかだったムードが一気に重くなった。
「え、部長どうすんですか……。ヒロインいなきゃ映画作れませんよ……。」
「うむ、そこでだな、桧山葵さんに代役をやってもらいたい。役のイメージとぴったりだと思うんだ。」
なんと桧山先輩が代役に指名されてしまった!
突然の代役指名に驚きを隠せない映研部員たち。だが、いちばん驚いているのは桧山先輩本人のようだ。
「え、私!?いや、えっと私は無理……、というか時代考証というか……。えっと、あの……、あー。」
ほら、もう動揺しすぎて普段から可愛い先輩がさらに可愛くなっちゃってる。もう写真撮って携帯の待ち受けにしたいレベル。すげー可愛い。
「たしかに、桧山さん綺麗だしヒロインにぴったりかも……。」
「俺は賛成ですよ。部長の言うとおり役のイメージに合っている。」
「俺もさんせー!」
「私もぉ!」
恐るべし、桧山先輩の美貌。なんと映研のみなさん全員賛成。やらざるえない流れに。
「どうかな、桧山さん。」
「えっと……、じゃあ……。」
完全無欠の桧山先輩もさすがに流れには逆らえず。こうして我が部の部長は映画のヒロインとなったのだった。