第7話「文化祭①」
6月。じめじめうっとおしい嫌な季節。しかし、春風学園の生徒たちは皆テンションが高かった。というのも7月の頭に文化祭があるのだ。皆、休み時間や放課後を使い文化祭の準備に勤しんでいた。
「先輩、うちの部活では何かやんないんっすか?」
「うーん、できればやりたいのだけれど…、一体なにをやればいいのか…。」
先輩曰く、我らが歴史研究部は特になにもする予定はないらしい。まあ、確かに歴史研究部って、なにをしたらいいのか困る。吹奏楽部や軽音部は演奏をすればいいし、漫研や書道部なら作品を展示すればいいだろう。だが、歴研には特に文化祭で披露するようなものなどないのだ。
「まあクラスのほうもあるし、無理にやる必要は……。」
その時、平塚が突然立ち上がり、俺の言葉を遮った。
「そうだ!文集売るっていうのはどうですか?ほら、『歴史の謎に迫る!』みたいな!」
平塚は「これぞ名案!」といわんばかりのドヤ顔だ。
確かに平塚の提案は中々良い。実に歴研らしいし、そこまで手間がかからない。だが、一つ致命的な欠点があった。
「それ、買う奴いると思うか?」
「う、それは…。」
というわけで唯一の平塚案はボツ。
平塚はシュンとしているが、俺としてはクラスのほうが結構忙しいのでぶっちゃけ何もやんなくていい。めんどくさいしね。
コンコン
そんなわけで俺が心の中で小さくガッツポーズをしていると誰か来た。
誰だろう。平塚先輩だろうか。
「あの、ここ歴史研究部っすよね?」
違った。男だった。男はいらん。帰れ。
「ちょっとお頼みしたいことが…。」
男の頼みなど聞かん。帰れ。
「実はですね……ってなんで君、そんなに僕のこと睨んでるの?」
あれ、睨んでた?いかんいかん、どうやら顔に出てたらしい。
「気にせず続けてください。」
「あ、そう…?えっと、僕は映画研究部の部長やってる亀山雄一です。実は文化祭に向けて映画を一本作っているのですが、時代考証が必要なんです。」
時代考証とは、過去の言葉遣いや生活習慣・建築様式などが、史実として適正か否か検証する人のことだ。よく時代劇などのクレジットで見かける。
「ってことは映研さんは時代劇を作ってらっしゃる?」
「はい、織田信長を主人公にした2時間映画です。」
時代劇で2時間って力入りすぎだろ…。
「先輩、どうします?」
「そうね…、いいんじゃないかしら?部活でなにかやろうって話し合っていたんだし、丁度良いんじゃない?舞さんは?」
「面白そうだし、私は賛成~!」
2人賛成じゃ俺も賛成せざるをえない。
こうして俺ら歴史研究部は映画研究部の作品に時代考証として参加することとなった。