第21話「文化祭⑮」
時は流れ、俺たちはついに文化祭を明日に控えた。
映画のほうは無事収録は終わり、現在は編集の作業を行っている。
正直もう俺たちは関係ないといえば関係ないのだが、映研部員が少ないこともあり、いまだ映画の手伝いをしていた。
といっても専門的なことはよくわからないので、俺たちは編集のほうには関わらず、映画の宣伝用のポスターやパンフレットの制作、上映会場の準備といった雑用作業を主に行う。
「うーん、こりゃ明日までには終わらねぇだろ……」
俺はパソコンをいじる手を止め、思わずそう呟いた。
俺が行っているのはパンフレットの制作だ。
映画のあらすじやみどころ、スタッフやキャストのメッセージなどをのせ、あとは適当に写真をのっけるだけ……なんや簡単やんけ!なんて思っていた時期が俺にもありました。
いやーキツイっす!こんなん絶対終わらんわ……。
と、俺が諦めかけたその時、突如部屋の扉が開かれた。
「差し入れ持ってきたわ」
そう言って入ってきたのは、我が愛しの彼女・桧山葵先輩である。
手には缶コーヒーが握られていた。
「あざっす」
俺は軽く礼を言うと缶コーヒーを受け取った。
のどが丁度渇いていたし、なにより眠気に襲われていたのでその差し入れはとてもありがたかった。
「で、進み具合はどうなの?」
「んー、ぶっちゃけこのままじゃ今日中には終わらないと思う……」
隠したってしかたがない。俺は正直に答えた。
すると先輩の表情が少し曇る。
「そう……。実はこっちもなかなか終わりそうになくてね。もしかしたら今日は泊まりになるかもね」
「あー、文化祭前日は泊まりオッケーなんでしたっけ」
すっかり忘れていた。
俺の中学は6時半に完全下校だったため、学校でお泊りというのは俺にとっていまいちなじみがなかった。
いやあ、こういうの正直けい●んと桜Tri●kの世界だけだと思ってたわ。
まあなにはともあれ、一日徹夜するならばなんとか終わりそうだ。
俺はほっと胸をなでおろす。
「んじゃもうひと頑張りしますか。コーヒーありがとうございます、葵……先輩」
「だから、先輩はいらないって」
「いやぁ、先輩つけないとなんだか気持ち悪くて」
正直、下の名前で言うのもまだ恥ずかしい。
告白してから何日か経ったころ、俺と先輩は恋人らしく下の名前を呼び捨てで呼び合うことにした。
だが、いまだに慣れることはできず、こうしてまだ俺は呼びすてで呼ぶことができないでいる。
(そういや俺、全然恋人らしいことしてやれてないな……。たぶんこのままじゃ駄目なんだろうなぁ……)
先輩との日々は楽しい。
一緒にしゃべって、笑い合う毎日。
そんな幸せな日々を壊さないように。
俺はきっといつか勇気を出さなければいけないんだと思う。
俺から一歩踏み出さなければならないのだ。