第2話「来訪者」
俺は『歴史研究部』に入った。
歴史研究部の部長はとてつもなく美人だ。黒く艶のある長髪、整った顔。そして抜群のスタイル。
こんな美人と同じ部活なんて俺はきっと幸せ者なのだろう。
だがしかし、ひとつ問題がある。歴史研究部は部員が2人しかいないのだ。
つまり、俺と部長の二人だけ…。
なんというか気まずい。俺はもともと女子と話すのが得意なほうではないし、彼女もまたあまり口数が多くないのだ。
まあ、そんなこと言いつつも今日も俺は歴史研究部の部室へと足を運んでいる。部室は文化部部室練2階の一番端だ。
「失礼しまーす。」
扉を開け部室に入る。広いとはいえないがそこまで狭くもない。いわゆる丁度いいといった感じの部屋だ。
部室には机と椅子ぐらいしかない。机の上にはパソコンが一台置いてあるのみ。
「あれ、桧山先輩はまだ来てないのか…。」
周りを見渡すが黒髪の美少女の姿は見当たらない。だが彼女のものと思われる鞄を見つけることはできた。
(鞄が置いてあるってことは一度この部室に来てるってことだな。トイレかな?)
とりあえず俺は入り口に一番近い椅子に腰をかけた。
部長がいないことには部活のはじめようがない。
俺は鞄からラノベを取り出し、彼女が戻ってくるまで読書にふけることにした。
ガラガラ
扉の開く音。桧山先輩が帰ってきたのだろうか。
俺は顔を上げる。しかし、視界に入ってきたのは見知らぬ顔であった。
「え?」
「あれ…?」
驚いたのは俺だけじゃなく彼女もだったようだ。その見知らぬ彼女は目を丸くしていた。
「えっと、俺は新庄拓也。歴史研究部の部員だけど、あなたは?」
「あ、私は平塚綾子。あおちゃんに用があってきたんだけど…。」
あおちゃん…?ああ、桧山先輩のことか。
たしか先輩の下の名前が葵だったはずだ。
「桧山先輩は今いなくて…。鞄はあるからそのうち戻ってくるとは思うんですけど…。まあ、とりあえず好きな椅子におかけになってください。」
桧山先輩のことをあだ名で呼んでいることから、彼女もまた先輩なのだろうと推測した俺は話し方を敬語に変えた。
「そう…。ねぇ、キミはあおちゃんのことどう思ってる?」
「え、どうって言われても…。」
返答に困った。
「まだ部活に入ったばかりなのでよくわかりませんが、悪い人ではないと思います。」
「悪い人ではない、か…。」
とりあえず無難に答えたつもりなのだが、平塚先輩は少し俺の答えに不満そうだった。
「あおちゃんさ、クールでしょ。悪く言えば愛想がない。だから何考えているのかわからないこともあると思う。でもあおちゃんはね、実は凄くいい人なのよ。」
平塚先輩は嬉しそうに、そしてなぜか誇らしげに桧山先輩について語った。
「そうだ、あおちゃんのいい人エピソードを話すわ。このあいだね…。」
平塚先輩が止まらなくなってしまった。
ここまで他人のことについて熱く語れるとは、これが真の友情ってやつなのだろうか。
「…とまあ、そんなことがあってね。あ、そうだ先週の土曜日もあおちゃんがね…。」
ガラガラ
平塚先輩による桧山先輩自慢が二つ目に入ろうとしたそのとき、扉の開く音がした。
扉のほうを見てみると、そこには黒髪の美少女の姿があった。
「ちょ、アヤ!なに勝手に新庄君に私のこと話してるのよ…!」
噂をすればなんとやら。ご本人の登場である。どうやら会話の一部を聞かれていたようだ。
「せっかくの新入部員なんだから、あおちゃんの良さを知ってもらわなくちゃと…!」
「やめてよ、恥ずかしい!」
桧山先輩は頬を赤らめ狼狽する。なんだかちょっと新鮮だ。
「あ、もうこんな時間!じゃあ、私はそろそろ帰るね。あおちゃん、新庄君じゃあね!」
「え、ああうん。」
平塚先輩は時計を見ると慌てて去っていった。
「あれ…、結局アヤは何しにきたんだろう…。」
「さあ?桧山先輩に会いたかっただけじゃないですか?」
平塚綾子。なんだかとても強烈な人だったな。
平塚先輩がいなくなった部室は再び静寂につつまれた。
「……今日はもう終わりにしましょうか。」
「あ、はい…。そっすね。」
こうして大した活動もすることなく、俺は入部二日目を終えたのであった。