第18話「文化祭⑫」
映画の撮影が終わり、各々帰る支度をし始めた。
いつもなら「タクヤチカおうちに帰る!!!」といった感じで家まで全力疾走するのだが、今日はそうはいかない。なぜなら、俺は桧山先輩に伝えなければならないことがあるからだ。
俺は先輩に「伝えたいことがある」といって誰もいない学校の屋上へ呼び出した。
鼓動が早くなっているのを感じる。
勇気を出せ俺!大丈夫だ、大丈夫。俺は小さい頃、「かしこいかわいいタクヤチカ」と呼ばれた男だ。自信を持つんだ!……いや、言われたことねえか。と、とにかく勇気を出せ、俺!
「あ、あの……先輩。実は……」
先輩の頬が少し赤い気がする。
俺がなんと言うつもりなのか、おおよその見当はついているのだろう。なんせ思いはあの時に伝わってしまっているのだから。
でも、あれは告白ではない。
告白というのは直接するのが相手への礼儀というものだ、と俺は思う。
だから、恥ずかしいけれど。堂々と。はっきりと。
「……俺、先輩のことが好きなんです!はじめて会ったあの時から、ずっと。だから、俺と……俺と付き合ってください!」
数秒の間。だが、俺にはその間はもっと長く感じられた。
そして、先輩の口は開かれた。
「ありがとう。凄くうれしいわ」
彼女は微笑みながらそう言った。
そして、その後にこう続けた。
「ねぇ、新庄君は私のどこが好きなの?」
突然の質問に戸惑った。
俺は先輩のどこに惚れたのだろうか。
いざそう言われると、なかなか答えは出てこない。
いや、本当はいくつも心の中に言葉は浮かんでいる。でも、どれもしっくりこない。
だから、俺はとっさにこんなことを口走ってしまった。
「ぜ、全部……かな?」
空気が変わったのを感じた。
先ほどまで微笑んでいた先輩の顔はみるみるうちに曇っていく。
「そう……あなたも結局一緒なのね……」
彼女は冷たい声で小さく呟いた。
言葉の意味はわからない。でも、これだけはわかった。
俺は言葉の選択を誤ったのだと。
そしてそう気付いたときにはすでに遅く、彼女は俺に深々と頭を下げ、こう言った。
「ごめんなさい」
その声は先ほどの声と同じく冷たかった。
だが、足早に立ち去るときの彼女の目には大量の涙が溢れているように見えた。
俺はしばらく呆然としていた。
身体からどんどん力が抜けていく。
「やっちまったな……」
やっと出た言葉がそれだった。
俺は振られた。それだけならまだしも、どうやら嫌われてしまったようだ。
ホントやっちまったとしか言いようがない。
俺の青春が終わりを告げた瞬間であった。
翌日の放課後、俺は映画の撮影には行かなかった。
一応、平塚には「今日は体調悪いから休む」と伝えてある。
仕事を平塚一人におしつけてしまうのはいささか心苦しいが、まあたいした仕事でもないし、平塚一人でも全然大丈夫だろう。
「あなたも結局一緒なのね、か……」
俺は先輩から言われた言葉を言ってみた。
あれからこの言葉が頭から離れない。
「俺が一体誰と一緒だって言うんだよ……」
俺がそんなことを何気なく口にしたその時、ポケットがブルッと振動した。
何事かと手を入れてみればケータイに電話がかかってきていた。
「知らない番号だな……」
俺は恐る恐る電話に出る。すると電話の向こうから聞き覚えのある明るい声が聞こえてきた。
「新庄くん、今ヒマ?あ、私よ私。平塚綾子。どう、今から一緒にお茶しない?場所は駅前の喫茶店。待ってるから、じゃね!」
電話の主・平塚綾子はそう言うと強引に電話を切ってしまった。
あの……俺一言もしゃべってないんですけど……。