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第17話「文化祭⑪」

 放課後、俺は教室にいた。

 人を待っているわけでも、日直など特別何か仕事が残っているわけでもない。

 今日は映画の撮影日。俺はそれに立ち会わなければならないのだが、どうにも気が進まないのだ。


「おい、拓也。今日は部活行かなくていいのか?」


 ぼーっと窓の外を眺めていると声をかけられた。

 声の主は八木勇人。一応俺の親友である。


「んー?ああ……」


 適当に返事をしとく。

 すると、我が親友はニッと笑いながら俺の肩を叩いた。


「なーに悩んでんの?話してみそー?」


「別になんも悩んでねぇよ……」


「嘘付け。お前、大体悩んでるときはいつもそんな顔してるからわかんだよ。俺ぐらいになるとな」


 勇人はそう言うと俺の隣の席に座った。そして、まっすぐ俺を見る。

 その表情は真剣そのもの。いつものふざけた雰囲気などまるで感じられない。


「はぁ……誰にも言うなよ?」


 俺はため息を吐くと、勇人にすべてを打ち明けた。





「ほーん、なるほどねぇ……。つまりお前は、桧山先輩に恋をしちゃったと?」


「いや、それがわからん。俺はホントに先輩のことが好きなんだろうか?」


 我ながらおかしなことを聞いていると思う。

 俺の気持ちなんて分かるわけがない。

 こんな質問、普通なら「知るかアホ!」と返されてお終いである。

 だが、勇人はそれに真面目に答えてくれた。


「たぶんお前は逃げてるだけだな。楽しい時間を終わらせたくないから、関係を壊したくないから……。だから、自分は恋などしていないと、この恋心はニセモノだと心のどこかで信じたがっているんだよ」


 告白し、振られたとする。

 俺は果たしてそのあともいつもどおりに先輩と接することが出来るだろうか。

 おそらく無理だろう。

 もし、振られれば俺が部活に顔を出すことはなくなると思う。

 あの場所を、あの空間を守りたくて、だから踏ん切りをつけることができない。

 俺は薄々そのことに気付いていた。

 そしてそのことを誰かに指摘して欲しかったのだ。


「なあ勇人、もし振られたら慰めてくれるか?」


「ああ、もちろん。そうだな……、焼肉でもおごってやるよ」


「そうか……、サンキュー親友!」


 心は決まった。

 桧山先輩や平塚と過ごす時間は楽しかった。できればそれを失いたくはない。

 だがもし、告白せずにいまの関係が続いたとして、その時間を心の底から楽しむことができるだろうか。

 答えは否である。俺には欺瞞に満ちた歴研など楽しむことはできない。

 そう、俺が先輩のことを好きだと言ったあの時点で答えはもう決まっていたのだ。

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