第14話「文化祭⑧」
俺が風呂からあがると、時計はすでに0時を回っていた。
普段ならこのあとはアニメを深夜2時くらいまで見ているのだが、今日はそんなわけにはいかない。なんていたって先輩がいるのだ。
「ふわああああ……」
先輩は大きくあくびをした。
かなりお疲れのようだ。
「先輩、そろそろ寝ますか?」
「ええ、そうさせてもらうわ」
俺は先輩を客間へ案内する。
客間は広さ4畳半と少し狭い。まあ、俺の部屋や姉の部屋に寝てもらうわけにもいかないしな。
「先輩の部屋はここです」
押入れから来客用の布団を一つ取り出し、それを布く。
我が家に客が泊まることはほとんどないので、布団はほぼ新品である。
「それじゃあ先輩、おやすみなさい」
「おやすみ、新庄君」
先輩はそう言うと布団に横たわる。
すると、すぐに寝息が聞こえてきた。
やはり男の家ということでずっと緊張していたのだろうか。
電気を消し、俺は部屋を後にした。
「葵ちゃんどうだった?」
「すぐ寝たよ」
居間に戻るとそこには缶ビールを飲んでいる姉の姿があった。
周りに空の缶が何個か転がっていることと、少し頬が赤いことから考えて、おそらくもう既にデキあがっている。
「ほれ少年、ちみも飲みたまえ!」
「未成年なのでパス」
「固いこというなよ~!高校生なんて結構みんなお酒飲んでるよ?」
なんか姉が酒の席での親戚のおっちゃんみたいになっている。
たしかに高校生で酒を飲んでいる奴は結構いる。だが、彼らはビールを好まず、カクテルやサワーをたしなむ傾向にある。
やはり、ジュースに近い感じだからだろうか。それでいて、飲んでるとちょっと大人っぽいしな。
まあなんでもいいが、お酒は20歳になってからだぜ?なんであいつら普通に二日酔いで学校来てるの?不良なの?
「それじゃあ水でいいよ、ほれ!」
姉は俺に酒を飲ますのをようやくあきらめ、水を勧めてきた。
まあ、水は全年齢対象なので断る理由はない。
俺は水の入ったコップを受け取ると口に運ぼうとした。だが、その時……!
「ん?」
違和感。
それは水とは違う。
色は透明でよく似ているのだが、明らかに匂いが違うのだ。
俺は恐る恐る姉に聞いてみた。
「なあ、これ日本酒じゃね?」
「あれれー、おかしいなぁ。どこで紛れ込んじゃったんだろー」
わざとらしい。
なにが「あれれー」だ。お前は小さな名探偵か。
どうやら今飲もうとしていたこれはお酒だったようだ。
あぶないあぶない、危うく飲んじまうとこだったぜ。
鼻選手のファインプレーである。もうゴールデングラブ賞とかとれちゃうレベル。
「ったく、これだから姉ちゃんは……」
俺があきれてため息をつくと、姉は上機嫌に質問を投げかけてきた。
「ねえねえ、葵ちゃんと舞ちゃんどっちのほうがタイプなの?」
「……この酔っ払いめ」
おそらく平塚については俺が風呂に入っている間に先輩から聞いたのだろう。
「そんなの決められるわけねえだろ……」
とりあえず、ラノベ主人公にありがちな答え方をしてみた。
だが、我が姉はまったく納得してないようである。
まあ、そりゃそうだ。
「ほれほれ、はやく言え!」
「急かすなよ……」
まあ、相手は酔っ払いだし、別に本気で答える必要もないだろう。
俺はなんとなく答えた。
「うーん、先輩かなぁ……」
そしてその直後、客間のほうからなんか物音が聞こえてきた。
客間のほうを見ると、閉じたはずのふすまがわずかに開いていた。
「あ……」
どうやら俺は気付かないうちに先輩に告白してしまったようである。
……どうすんの、これ。