第10話「文化祭④」
桧山先輩と一緒に下校……。
なんと素敵なのだろう。実に青春っぽい。
嬉しすぎて思わず変な声が出そうになった。危ない危ない。
「嫌……かな?」
「いえいえ、とんでもない!よろこんでお供しますとも!!!」
あの桧山先輩と一緒に帰れるのだ。嫌なわけがない。
ってか今の先輩むっちゃ可愛かったぞ。なんだよ、今日すげーいい日じゃん。
思わずテンションの上がる俺。だが、気づいてしまったんだ……。重大な事実に……。
「あ……。」
なんということだ……。そんな…そんなことって……!
「新庄君、どうしたの?」
どうやら先輩は気づいていないようだ。
このまま言わないでおきたい。俺はそう思った。
だが、隠していてもいつかはばれること。
「あの……、先輩……。」
俺は言う決心を固めた。
「……先輩は電車ですよね?」
「ええ、そうだけど……。」
「俺、歩きです。」
「あ……。」
そう、先輩は電車通学。俺は徒歩通学。
一緒に帰ることなど出来ないのだ。
「じゃあ、駅まで……。」
「すいません……、俺ん家、駅とは反対側です。」
なぜ家を駅の近くに建てなかったのだろうか。
俺は人生で初めて両親を恨んだ。
「なら仕方ないわね。新庄君、また明日。」
「はい、また明日。」
別れの挨拶を交わすと先輩は駅に向かって、俺は家に向かって歩き出す。
いまの俺のテンションはどん底だ。
ここはテンションの上がるアニソンでも聴こう。
そう思い、スマホとイヤホンをポケットからとりだす。
そのとき、突如スマホが鳴った。
「ん、桧山先輩からだ……。」
その電話は先輩からだった。
先輩と電話番号を交換したのは2週間くらい前だったか。
平塚の「連絡用に交換しましょうよ!」の一言により一応3人で交換したのだ。平塚グッジョブ!
ちなみに先輩はスマホではない。ガラケーでもない。PHSだった。
いまだに使ってる人いるんだな。
当初、PHSは『地下でも使える』『料金が安い』などの面を売りにしていて結構利用者多かったんだけどな。
まあ、そんなことはどうでもいい。先輩からの電話。いったいなんの用だろうか。
「もしもし……。」
『新庄君……。どうしよう、家に帰れない……。』
「え……?」
先輩の声からして冗談の類ではなさそうだ。ていうか、先輩冗談言わないしな。
「どういうことです?」
『それが……電車止まってるの……。人身事故みたいで……。』
「ああ、先輩中央線ですもんね……。」
中央線はよく止まる。踏み切りが多いからか人身事故が多いのだ。
「いつ動くっていってます?」
『それが……いつ動くか分からないらしくて……。もしかしたら今日はもう運休になるかもしれないって……。』
先輩が家に帰るには中央線しかない。
その中央線が動いてない今、先輩はどうすることもできない。
『どうしようかしら……。』
先輩困っているな。よし、ここは俺がかっこよく……
「あ、あの……。もしよかったらうち来ません?電車が動くまでうちで休んでいってください。」
『え?』
あ、なに言ってんだ俺。キモくね。
やべーよ、勢いで言っちゃったよ。絶対先輩困ってるよ。
なんて言い訳しようか……。えーと……。
『ありがとう。そうさせてもらうわ。』
「へ?」
先輩から返ってきたのは予想外の言葉だった。
え、先輩がうちに来る?マジ?
どうやら俺は今幸せの絶頂にいるらしい。