第1話「二人ぼっちの部活動」
俺の名前は新庄拓也。私立春風学園に通うごく普通の高校一年生だ。
「いってきます。」
いつもと変わらぬ朝。きっと今日も平凡で退屈な一日になるのだろう。
そんなことを考えながら通学路を歩いていると、突然後ろから声をかけられた。その声はとても聞き慣れた声であった。
「おっす拓也、今日は遅いんだな。」
声の主は親友の八木勇人だった。勇人とは小学校の頃からの付き合いで、いわゆる幼なじみってやつだ。
「なあ、お前はもう部活決めたのか?」
「いや、まだ。」
高校に入ってから一ヶ月たった。そろそろ部活を決めておかなければならない。しかし、俺はまだ部活を決められないでいた。
「俺はサッカー部に決めたよ。今日入部届出す。」
「は?お前野球じゃないのか?」
予想外の言葉に俺は驚いた。勇人は小学校中学校と野球をやっていた。だからてっきり高校も野球部に入ると思っていたのだが・・・。
「俺さ、気づいちゃったんだよね・・・。」
勇人の口がやけに重い。表情も真剣そのもの。まさかこの感じ、なにか深いわけでもあるのか・・・。
「サッカー部の方が女子にモテるってことに・・・!」
しかし、勇人の口から出たのはとんでもなくくだらない理由だった。
「お前、サッカーなめすぎだろ・・・。」
そんなことを話しているうちに、俺たちは学校に着いたのだった。
「部活か・・・。」
休み時間、俺は廊下の掲示板を見ていた。掲示板には部活の勧誘ポスターが貼ってある。どのポスターも新入部員をなんとしてでも獲得するため、派手な色で目立っていた。
「運動部は疲れるからやだな・・・。文化部にしよう。」
運動神経皆無の俺はすぐさま運動部を選択肢から除外した。
「美術部、文芸部、軽音部、吹奏楽部・・・。うーん。」
正直、どの文化部も興味をそそられなかった。
「帰宅部でいっか・・・。」
なにも無理に部活に入る必要はない。部活に入らなくたって青春を味わえるはずだ。
あきらめて帰ろうとしたその時、偶然あるポスターが目に入った。
『歴史研究部 部員募集』
そのポスターにはそれしか書いてなく、他の部のポスターに比べ明らかに地味であった。
「歴史かぁ・・・。よし、ここにしようかな。」
もともと歴史に興味もあった俺は歴史研究部に入ることにした。
「ここか・・・。」
文化部部室棟。ここの二階の隅に歴史研究部はある。
一体どんな人たちがいるのだろうか。若干の不安な気持ちを抱きつつ、俺は扉を開いた。
「失礼します。」
小さな部室だった。会議などで使うような細長い机にパイプ椅子がいくつか。机の上には一台のパソコンがあるが、それ以外には特に何もない。そう、その部屋のシンプルさはあの勧誘ポスターに似ている。
椅子には一人の少女が座っていた。おそらく部員の一人だろう。綺麗に整った顔に艶のある黒髪。清楚という言葉が誰よりも似合いそうな彼女に、俺は思わず見とれてしまった。
「どちらさまですか?」
「え、あ・・・。」
あまりの美しさに緊張して声が出ない。俺は必死に気持ちを落ち着かせると、再び口を開いた。
「えっと、ここは歴史研究部ですか・・・?」
「ええ。」
彼女は無愛想に答える。いや、クールといったほうが正しいか。
「あの、ここに入部したいんですけど・・・。」
「あら、入部希望者?私は部長の桧山葵。あなたを歓迎するわ。」
桧山葵・・・?その名をどこかで聞いたことがある気がする。しかし、思い出せない。まあ、なにはともあれ自分も名乗らなければ。
「えっと、桧山先輩ですね。俺は新庄拓也です。よろしくお願いします。」
「新庄君ね。よろしく。」
いままで無表情だった彼女がようやく微笑んだ。どうやら本当に自分を歓迎してくれているようだ。
(優しそうな人で良かった。他の部員は・・・、どこにいるんだろう?)
部室には自分と桧山先輩しかいない。そのことに少し疑問を持ちつつも、気にしないことにした。
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
部室に来てから30分ほどたった。しかし部室には誰も現れない。
先輩はずっと本を読んでいる。ブックカバーをしているので何の本を読んでいるのかわからないが、部活からしておそらく歴史小説だろう。
(気まずいなぁ・・・。なにか話した方がいいのだろうか。ていうか、他の人たち遅いなぁ・・・。)
「あの、桧山先輩?ほかの皆さんは今日は休みなんですか?」
勇気を出して聞いてみた。すると桧山先輩は首をかしげた。
「他の皆さん・・・?何を言っているの新庄君。この部活は私と貴方の二人だけよ。」
先輩の口から出たのは予想もしなかった言葉であった。
『気がつけば俺はハーレムを形成している』第1話、いかがでしたでしょうか。
タイトル通り、これから主人公はどんどんハーレムを形成していきます。
その過程を最後まで見守っていただけたら嬉しいです。