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短編集

ベイレント・テイン

作者: 月夜 風花

 高校に入ってからどれくらい経っただろうか。そんなことをふと思い起こす。自分の気持ちはおいてけぼりに、律儀に時間は進んでいく。カレンダーも着々めくられていき、もう一年生というものが終わろうとしている2月を告げている。早いものだ。ついこないだまで人見知りしていたのに今では友達という関係だという。緊張していた授業など、とっくの昔からリラックスしすぎて貴重な睡眠時間にと化している。不思議なものだ。中学の時よりも時間においていかれてると感じる。その証拠にクラスメート全員としゃべってもないのに、もうあの日がやってきた。その日のために徹夜をしてまで準備をする人もいる。ただお菓子会社を潤すためのイベントなのに。

 そう、バレンタイン。

 正直、憂鬱だ。人にチョコをあげるのはそんなに楽しいのか。それとも好きな人にあげるのに意味があるのか。恋愛ものとは疎遠してきていた自分にはさっぱり分からないんだが。正直、昔はくだらないと思っていた。こんなイベント事にのせられて好きな人に渡すだの、告るだの。こんな時に告って付き合いだしてもどうせすぐ別れるだろうに。それなのにたかがこんなものにキャーキャー言うって。そう思ってたけど。

 今年は『好き』という想いを持って初めて2月に挑む。それがこんなに苦しいとは予想外。みんなはなんであんなに笑えているのだろうか。やはり何事も経験なのだろうか。それとも本気じゃないのだろうか、自信があるのだろうか。あぁ、疑問は尽きない。どうして自分はあんなやつを好きになったのだろう。昔はどうしたら人を好きになれるかと悩んでいたこともあったのに。実際好きになったらどうしてなのかなんて分からない。好きだから好き。それしかない。これも恋愛から疎遠してたからそう思うだけなのだろうか。

苦しい。泣きたくなる。彼のことを想うとつらい。片想いは楽しいと言ったのは誰だ。両想いよりも楽しいなんてどういうことだ。こんなに悲しいのは自分が可笑しいのか。それとも想いが通じると今以上に潰されそうになるのか。もう、なんでこんなに好きなんだろう。好き過ぎて、もう嫌になるくらい大好きなんだよ…。

 でも想いを伝えることはおろか、会うこともできない。だからどうして自分はそんなやつに惹かれたんだろう。不登校なんかしてる人なのに。気がついたらそんなやつが気になっていた。寒くなってきた頃にはもう手遅れだったはず。この感情を好きと認めないわけにいかないくらいに大きいものになっていたんだ。

 もしやり直すなら一年前の春に戻りたい。あのメールのやり取りがなかったら今がなかったはずだ。あの優しい言葉、行動、それから笑顔。きっと最大の要因があの笑顔だろうと客観的に思える。何故だか見てるだけで幸せになれるような、こっちまでに笑けてくるような、あんな表情を今まで見たことない。あの笑い方で彼は一体どれだけの人を惹いているんだろうか。とんだ女ったらしなやつめ。だけど、あのメールがなかったらそんな笑顔も当分知らなかっただろう。あの優しさにも関わることもなかっただろう。だからどうか彼とメールをしないようにと、昔の自分に告げたい。間違えても会う約束、遊ぶ約束などするなよっと。それともやはり自分は他の方法で彼に惹かれていくのだろうか。そしてどのみち今のここにいるのだろうか。そうだとしたら…そうだとしても。なんで会えていたうちに何か行動をとらなかったんだろう。会えない今の後悔はそれが大きい。いつまでも"今"が続くわけないのに。自分はそれを分かってると思ってたのに。いつ、誰が、唐突と失われるのかなど分からないというのに。どうしてあんなに無邪気にまた"明日"を信

じていたんだろう。もう二度と、"今"という"明日"はこないのに。馬鹿だな、自分。つくづくそう思う。早く認めて伝えとけば…今がなかっただろうに。

 もう会えないなら。せめて。あいつの彼女になれなくていい。友達でいれなくなるのも仕方ないなら諦めるよ。だからせめて。伝えたい。こんな想いは初めてなんだ。どうか受け取ってほしい。なのにせっかくのチャンスのバレンタインの日でさえ渡すこともできないのだろう。どうせ会えないのだから。


 当日はいたるところで甘い匂いがただよっていた。そして周りではやはり誰其に渡すだの渡さないだのと賑やかなこと。それらを横目に自分も配る。大した気持ちのこもってない、友チョコやクラブの男子への義務チョコ。へらへらと笑いながら配るそれらの中には自分の本当の想いなど含まれていない。だから渡すのも何の躊躇いもない。ただの想い入れのないものだもの。「ほれ」ぽーんと放り投げられたチョコは教室の端から端へと飛ばされる。放物線をえがきながら飛んでいくチョコ。よくこんなに投げれるなっと我ながら思う。食べ物は粗末に扱っちゃった。パシッ「ありがと」ナイスキャッチ。落ちなかったからよしとしようとか考えて、へらり。こんなこともしながら配る。どんどん手持ちのチョコが減っていく。さらにへらへらと配る。そして一つを残して配りきった。へらへらと、笑えない。

 この一つ。やっぱり彼は来なかった。予想通りとか思った通りと言えば聞こえが良いが、もう最悪だ。余っちゃった。想いをつめたやつなのに。どうしよう。詰め込んだ想いを誰かにあげるわけにもいかない。かといって捨てることなどできるはずがない。やはり、自分で食べるしかないのだろう。いっぱい友チョコや逆チョコをもらったからそれらも食べなきゃいけないのに。食べれきれるかな。だってみんなのやつは甘い。今の自分にはとても甘過ぎるんだ。苦い片想い中のあたしには。では。自分の手元を見る。ぎっしりと何かがつまったソレはとてもおもかった。ずっしりと感じる。そのおもさは不思議なことに心地好かった。どうして。その訳も分かるはずもない。これはどうなのだろう。みんなみたいに甘いのか、それともあたしみたいに苦いのか。眺めていても答えはでない。とにかく、食おう。

 パクッ。一口かじる。かみ砕く。飲み込む。パクッ。次の、次の一口。パクパクパク…。食べてる間中ずっと涙が止まらなかった。食べ終えてもしばらく放心状態で何も考えれないくせに涙は止まらない。ただただ両目から垂れ流されつづけていた。どれくらい時間が経ったのだろうか。気がついたら頬は冷え切り涙も凍っていた。それを手で触れてまたもや目は潤む。さっきといい今のといい、一体何の涙なのだろう。涙か出るほどからいものやにがいものに作り上げた記憶はない。むしろソレは甘かった。みんなのよりは甘さ控え目ではあったが。だけどやっぱり甘かった。これが、心地好いと感じた要因なのだろうか。こんなに本人は息苦しいのに。今もなおあいつに会いたいと想い続けている自分がいる。好き。大好きだ。詰め込んだ想いを食べたからまた自分に戻ってきたのだろうか。悔しい。何故この想いを食べてもらえれないのだろうか。どうして周りみたいに笑えれないのだろう。あぁ、あいつの笑顔を見たい。今の願いはそれだった。

 今年は今までと違うと期待していたら確かに違った。裏切られた。やはりバレンタインは憂鬱だった。それも今までないくらいに。




ありがとうございました。


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