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悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


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第5話『王宮召喚と、告げられた異世界の“運命”』

 ロゼリア王立魔法学園の朝は、いつになく静かやった。

 生徒も教師も、誰もが小声で囁き合う。


 「聞いた? 公爵令嬢とくカイ先生が、今日王城に呼ばれたらしいわよ……」

 「そりゃそうや。あんな立場違うふたりが、堂々と付き合ってるなんて……」

 「ていうか、あれって“契約”とかじゃなくて、本当に……?」


 (……ま、ええ。もうどこまでが“演技”か自分でもよくわからんようなっとるしな)


 カイ・クロスは、ため息まじりにローブを整えると、正門に現れた馬車に乗り込んだ。

 ルーティアはすでに座っていたが、どこか表情が硬い。


 「……緊張しとんのか?」


 「……当たり前でしょ。王家に呼び出されたのよ。あんたは、王族に口答えして捕まっても、私のせいにしないでね」


 「いやそれ、最初からワイがなんかしでかす前提やんけ」


◆◇◆


 王都レグナムに聳え立つ、純白の宮殿――アルセリオ王宮。

 その謁見の間にて、カイとルーティアは玉座の前に立っていた。


 重厚な雰囲気。左右に並ぶ貴族や騎士たち。

 そしてその奥、緋色のマントを羽織る王――バルナバス・アルセリオ国王が、鋭い眼差しを向けていた。


 「貴様が……異国より来た、カイ・クロスか」


 「……はい、せやと思います。たぶん」


 (“たぶん”言うたらあかんやろワイ……!)


 その隣、厳しい表情を浮かべていたのが、大賢者にして王の側近――ヘルツ・グラムロード。


 彼は開口一番、冷たく言い放った。


 「まず第一に、婚約破棄の件。これは王子殿下自身が決定されたことに、間違いはないな?」


 レオン・アーデルハイト王子は、王の右手に立ち、しっかりと頷いた。


 「はい。あれは私の意志であり、ルーティア嬢は一切の責任を負うものではありません」


 ルーティアの目が見開かれる。

 (……素直に認めるとは思わんかった)


 しかし、話はそこで終わらなかった。


 「だが問題は、“破棄の直後”に平民の教師と付き合ったという点だ」


 ヘルツは書類を掲げる。


 「まるで――以前から、密かに関係を結んでいたかのような印象を与える。これは“貴族令嬢としての不義”に該当する」


 空気がピリッと凍る。

 貴族社会では、“潔白”こそが名誉を守る鍵。

 王族との縁談の直後に別の男と噂されるなど、致命傷や。


 「ワイはちゃうで」


 カイが一歩前に出て、堂々と言った。


 「ワイと彼女が知り合うたんは、王子が破棄言い出した後。せやから“先に付き合うてた”とか、そんなん一切あらへん」


 「ふん。貴様の言葉など、証拠にもならん」


 「じゃあ、証明したろか」


 カイの瞳が、静かに光を帯びた。


 「ワイ、数学の教師や。論理で証明すんのは得意分野やで?」


 その一言に、賢者ヘルツは目を細める。


 「……ならば、これを解いてみよ」


 彼が差し出したのは、王国の魔導理論における最高位の問題。


 「“無限重ね式魔法陣”における、時間・空間・精神の三次魔力干渉の安定定数を導き出せ」


 沈黙が支配する。


 「今までこの問題を解けた者は一人もいない。お前が“口だけの男”でなければな」


 カイは紙を受け取り、じっと見つめる。


 (これは……空間解析の三軸方向から、位相干渉……ああ、なるほどな。ええわ、ベクトルの座標変換式に持ち込めば整理できる)


 ペンを取り、数分。


 さらさらと流れるように式を書き、最終行に小さく“√2α×ΔΦ”と記して、紙を返した。


 「答え、出たで」


 その場にいた誰もが、息を呑んだ。


 ヘルツはその紙を受け取り、食い入るように目を通す。

 そして――カッと目を見開いた。


 「ば、馬鹿な……この式は……次元干渉の理論そのもの……!」


 「前提条件の変数、ひとつ抜けとっただけや。補正入れたら、全部辻褄合うたで?」


 「な、なぜそれが……!」


 「考えたら分かるやん?」


 茫然とする王族、賢者、騎士団、そして――ルーティア。


 彼女は隣で、ただぽかーんと口を開けていた。


 「……は、はぁ……? あんた、いつからそんなすごかったのよ……?」


 「ワイ、ずっと数学教師言うてたやろ!?」


 「それは聞いたけど、まさか“大賢者”の問題を、さらっと解くような……」


 「いやもう、みんな褒めすぎやて……ワイ、ただの……いや、ちょっとはすごいかも知らんけど、ほんまに普通の……」


 カイがあたふたしながらうろたえる様子に、ルーティアがプッと噴き出した。


 「……ふふっ。何それ……ほんまに、あなたって……おかしな人ね」


 ルーティアが“心からの笑顔”を見せたその瞬間。

 その光景を目の当たりにした王子レオンは、思わず息を止めた。


 (……なんだ、その笑顔は……)


 今まで、どんな舞踏会でも、どんな祝宴でも――

 彼はルーティアがそんな笑い方をしたところを、一度も見たことがなかった。


 気づけば、レオンの右手が、胸元をぎゅっと押さえていた。


 (どうして……胸が……痛む……?)


 謁見の場は、崩れた空気を再び整え始める。


 「……うむ。確かに、“王国で解けぬとされた難題”を解いたその実力、確かに見届けた」


 国王が重々しく口を開いた。


 「カイ・クロス。そなたには、“魔導特例資格”を与える。王国において、正式に“魔導官”として認められる者の資格だ」


 「え、え、マジで?」


 「これは、教師としての立場とは別物。そなたの知識は、王国にとっても貴重な資源となろう」


 (……いや、もう後戻りできへん空気やんけ!)


◆◇◆


 帰りの馬車の中。


 ルーティアは窓の外を見つめながら、ぽつりと呟いた。


 「……ありがとう、カイ。あなたがいなければ、私は“終わってた”」


 「ワイは、あんたが終わるとこ、見たないだけや。なにより、あんたが笑うと、ちょっとこっちも……」


 「……ん?」


 「いや、なんでもない。なんも言うてへんで!」


 「ふふっ……隠しても、全部顔に出てるわよ」


 車窓の外。王都の灯りが、ふたりの距離をほんの少し、近づけていく。

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