表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/27

第3話『仮初めの恋と、王子の揺れるプライド』

 ロゼリア王立魔法学園の朝は、噂から始まる。


 今日は特にひどかった。

 カイが教室に入るなり、貴族生徒たちのざわめきが耳に飛び込んできた。


 「例の教師……あの平民教師やろ?」

 「公爵令嬢が、“付き合ってる”って……本気なんか?」

 「なんでやねん!? ありえへんやろ、身分差ありすぎやん……」


 (……うわぁ、もう噂になっとる)


◆◇◆


 事の発端は昨日の“契約”。

 ルーティアから頼まれて、王子との婚約破棄後の立場を守るための「仮初めの恋人役」。


 もちろん、本当に付き合ってるわけやあらへん。契約や。偽装や。演技や。

 ……やのに。


 「……おはよう、カイ」


 朝の廊下で、ルーティア・フォン・ヴァレンシュタイン本人が――

 花の香りをまといながら、笑顔で寄ってきた。


 「……お、おはようさん」


 「今日の授業、楽しみにしてるわ。あなたの“あの声”、結構好きなのよね」


 周囲の生徒が一斉にこちらを見てくる。


 (ちょ、待てや。ほんまにやる気か、この子……!?)


 「せやけどなルーティア、ワイ、言うとくけど演技苦手なんや。自然に振る舞われへんタイプやで?」


 「私がリードするわ。あなたは黙って、飴でも配ってればいいのよ」


 「おい。なんでそこだけ知っとるんや」


 「昨日、私の部屋にもあめちゃん持ってきたでしょう?」


 「いや、それは関西の嗜みとしてな……!」


 午前の授業が終わる頃には、噂は確定情報として学園中に広がっていた。


 『公爵令嬢と平民教師が恋人関係』

 『実はあの教師、令嬢と秘密裏に婚約している』

 『子どもまでいるらしい(※完全なデマ)』


 (ええええぇぇぇ!? 誰や広げたん!? 誰が“もう子どもいる”言うたんや!)


◆◇◆


 一方その頃、王子――レオン・アーデルハイトは、玉座の間の一角で報告を受けていた。


 「……ルーティア嬢が、学園の教師と交際を……?」


 「はい。少なくとも学園内では、彼女が“自ら望んで”彼と親密になったという噂が立っています」


 レオンの眉間に、ピクリと皺が寄った。


 「……あの女が? あの、誇り高く、男を見下していたルーティアが、あの男に――?」


 王子は思わず唇を噛んだ。


 (……彼女が“自分を捨てて”、他の男に……? それが、教師……だと?)


 カイはというと、そんな王子の心情など露知らず、昼食をとるため食堂へ向かっていた。


 いつもの席に腰を下ろした瞬間、すぐさま隣にルーティアが座る。


 「こ、ここは貴族席ちゃうんか……?」


 「恋人の隣に座るのは、当然でしょう?」


 「いや、これ“契約”やで!? 本気にすなや!」


 「わかってるわよ。でも“演技”は、徹底しないと意味がないでしょう?」


 カイが頭を抱える横で、彼女は微笑みながら料理を口に運ぶ。

 優雅な所作、堂々とした姿勢。だが、時折ちらりとカイの顔を見るその目には、どこか不思議な光があった。


 「……ほんま、なんでワイなんやろな」


 ぽつりとカイが呟いた。


 「もっとマシな相手、おったやろ? 例えば、あの王子とか、剣士の坊ちゃんとか、魔法の天才とか……」


 「……うるさいわね」


 ルーティアはナイフとフォークを置き、カイをまっすぐに見つめた。


 「“誰でもない”からよ。あなたは、私を“貴族令嬢”としてじゃなく、“人間”として見てくれるから」


 「……!」


 その瞬間、カイの口から言葉が出ぇへんようになった。


 (……この子、ほんまはええ子なんちゃうか……?)


◆◇◆


 その日の午後。


 カイは中庭で休憩していた。そこへ現れたのは――


 「……教師カイ・クロスか」


 第一王子レオン・アーデルハイト。


 金髪に碧眼、整った顔立ち、王族特有の気品。見る者すべてを魅了する美しき王子。


 そして、乙女ゲームの本来の“攻略対象”。

 ――ルーティアの“元婚約者”。


 「……用かいな?」


 「……君、ルーティアとどこまでの関係なんだ?」


 「どこまでて……“協力関係”やで」


 「協力……?」


 「せや。貴族の体裁やら、婚約やら、複雑な話があるやろ。ワイはあんまり深入りしたくないんやけどな……」


 王子の顔が険しくなった。


 「彼女を……玩具にしているわけではないよな?」


 「誰が玩具にするかいな! ワイ、そんなんちゃうわ!」


 「ならいい」


 それだけ言って、王子は去っていった。

 背中から漂う微妙な“嫉妬”の気配に、カイはひとりごちた。


 「……なぁルーティア、あんた、ほんまに王子に未練ないんか?」


◆◇◆


 その夜。


 ルーティアの部屋のバルコニーで、ふたり並んで夜空を見上げていた。


 「空、綺麗やな……月が二つもあるの、なんか不思議やわ」


 「あなたの世界には、一つしかなかったの?」


 「せや。けど……なんやろ、ここもだんだん悪くない気がしてきた」


 「……ねぇカイ、もしこの“契約”が終わったら、あなたはどうするの?」


 「そら……また静かに数学教えて、たまに飴配って、平和に暮らしたいわ」


 「……そう。じゃあ……終わらせない方が、いいかしらね」


 「……は?」


 「……ふふ。冗談よ」


 (ほんまか……?)


 まだ誰も知らへん。


 この“仮初めの恋”が、やがて王国を揺るがす本物の嵐へと育っていくことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ