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悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


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第22話『魔法も剣も、教師と公爵家には敵わない』

 料亭「蒼穹館」奥の間。

 襖が吹き飛び、乱入したのは指名手配犯の大悪党一味。

 魔導の刺青を全身に刻んだ魔術師、巨体の斧戦士、鎖を操る女盗賊――見るからに荒事慣れした面々だ。


 「へっへっへ、公爵一家が揃ってるって? こいつはいい獲物だ!」

 「財も命も、全部置いていけ!」


 空気が緊迫する。

 ルーティアは即座に立ち上がり、剣を抜こうとした――が、その前に、カイがひょいと立ち上がった。


 「はぁ……食後のデザートにこんなん出てくるとか、誰が得すんねん」


 「来い! 炎獄よ!」

 魔術師の一人が魔方陣を展開し、炎を渦巻かせる。

 だが――


 カイは床にチョークでさらさらっと円を描き、数式を走らせた。


 ∫e^(-x²) dx = √π


 「はい、積分で熱量を平均化。お湯にしたった」


 炎の渦は、ふわぁと湯気だけを残して霧散する。


 「なっ……!?」


 「ならば氷結よ!」

 別の魔導師が床一面を凍らせる。


 カイは黒板代わりに卓を使い、cosθとsinθを書き殴る。

 「位相ずらして相殺っと。氷はただの水に」


 カラン、と氷が溶けて水滴が落ちる。


 「ば、馬鹿な……!」


 次々と魔法が飛ぶ。

 火、氷、雷、風。


 だがカイはことごとく数式で潰す。

 「√r² = r。はい半径ゼロで消去」

 「tan⁻¹(y/x) = θ。はい、角度をずらして射線逸らし」

 「ΔE = –∂Φ/∂t。エネルギー保存則で放電終わり」


 すべて、教師のチョーク一つで無効化されていった。


 そして最後に――

 カイは大きく息をつき、床いっぱいに円を描く。


 「魔法不可結界、完成。店ごと、今日は“魔力ゼロの日”や」


 ドォンッと音がして、料亭全体に透明な結界が張られた。

 店内の誰一人、魔法を発動できなくなった。


 「う、嘘だろ……!?」

 「こ、この俺たちが……魔法が使えねぇ……!」


 「ふん……ならば武力で叩き潰すのみだ!」

 大斧を担いだ巨漢が雄叫びを上げて突進する。

 その瞬間――


 ヴィルヘルム、ルーティアの長兄が立ち上がった。

 「下がれ。これは剣の領分だ」


 彼が腰の剣を抜いた瞬間、空気が裂ける。

 一歩、踏み込み。

 それだけで巨漢の斧は宙を舞い、男は床に転がった。


 「……速すぎて、見えん……!」


 続けざま、鎖を操る女盗賊がルーティアへと襲いかかる。

 だがそこに、次兄ユリウスが割って入った。

 「妹に触れるな」


 双剣が閃き、鎖がことごとく斬り落とされる。

 女盗賊は呆然と腕を見つめ、次の瞬間にはユリウスの刃が喉元に突きつけられていた。


 「……降伏しろ」

 「ひぃっ……!」


 その光景に、悪党どもは完全に戦意を失った。


 「ば、化け物一家だ……!」

 「魔法も剣も……どうにもならねぇ……!」


 次々に武器を投げ捨て、床に膝をつく。

 頭領格の男までが、震える声で叫んだ。

 「も、もう勘弁してくれ……!」


◆◇◆


 そのとき、料亭の外から怒号が響いた。


 「王都治安騎士団、包囲完了! 大悪党一味よ、抵抗するな!」


 扉が開かれ、銀の甲冑を纏った王都精鋭部隊が雪崩れ込む。

 だが――


 そこにあったのは、すでに戦意を失い膝をついた悪党たちの姿。

 公爵家兄弟に武器を突きつけられ、教師に魔法を封じられ、完全に敗北した集団だった。


 「……な、なんだこれは」

 「すでに……降伏している……?」


 騎士団長が呆然と呟く。


 カイは肩を竦め、湯気の立つお椀を手に取った。

 「ま、せっかくの飯を邪魔されたけど……片付いたならええか」


 ルーティアは誇らしげに微笑み、父公爵は腕を組んで高らかに笑った。

 「見事! 娘よ、やはりお前の見る目は確かだったな!」


 こうして――

 料亭「蒼穹館」での大乱闘は、教師と公爵家によって瞬く間に鎮圧されたのだった。

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